第12話 一万人突破記念配信①(質問箱) #黒歴史

 ぺれぺれぺれ。ぺれぺれぺれ。


 ガチャ。


『は、はい、もすもす!!』


「草」


 上擦った声で電話に出たのは、例の変態だ。

 名前は神連かみつれ沙也加さやかというらしい。その強烈な性格に似合う強烈な名字だな。

 

 話したいというから電話をかけたのだが、当の本人は黙ってばかりで会話にならない。

 こっちも用があるから電話したんだけど……発破をかけるしかないかぁ。


「おい、変態。調子狂うからいつものペースで喋れよ。別に何言われても気にしないし、変に畏まれても困る」


『へ、変態って……まあ、確かにその通りなのだけど。本当に気にしてないの? 私、あんたを犯そうとしたのよ? 通報されたら未遂でも懲役20年。それだけ重い罪よ』


「まじかよ、想像以上に重いじゃん。……別に未遂だし、俺にも目的があるからな」


『目的?』


 電話越しに困惑する声音で神連が言った。ちなみにあんなことをしでかしたから、例え相手が年上でも敬う気はゼロである。よって、呼び捨て。


「そ。俺ってば引き籠もってばっかりで、俗世に詳しくないんだよ」


『俗世て』


 それとも地獄って表現しても?


「だから、世界の常識とか教えてほしくてな。そこで白羽の矢が立ったのが神連というわけだ。謂わば交換条件。ウィン・ウィンだろ?」


『全然ウィン・ウィンじゃないわよ。こっちは男との関わりができて、あんたは情報を得るだけ。情報の整合性はネットよりも高いと思うけど、基本的なことなら幾らでも収集できる。私の方が得してるのよ。どう考えても』


「細か。めんどっ」


『細か、ってどれだけ私が悩んでると思ってんのよ……! 正直諦めるつもりは……げふんげふん!』


「あ?」


 なんか良くない言葉が聞こえたような気がするんだけど。いや、充分反省してるみたいだし、疑うのはやめておこう。


『と・に・か・く! ……私が納得いかないのよ』


「ふーん、律儀なもので。じゃあ、時々話し相手になってくれ。愚痴でも聞いてもらえれば満足だから」


『だから、それじゃあ……!』


 あー、もう分かんねぇやつだな。あんな行動をしたくせに、こんな律儀で真面目とか誰が信じるんだよ。本当に男、麻薬説を提唱してやろうか、マジで。


 仕方ない。この文を贈ろう。


「神連。よく考えてみろ」


『なによ』


「電話しても声だけ。会えたとしても保護官付き。これ、生殺し以上の何がある? 軽く拷問だろ」



 これを前の世界基準に当て嵌めてみよう。

 

 好きな人がいるとする。連絡先は交換している。

 だけど、会うことは叶わず、会えたとしても一切触れるのことができないまま時を過ごすだけ。

 あまりに悲しすぎる。そして、本能と欲に顕著なこの世界では、更にその意味が増すと言っても過言ではない。


『あ゛……あ゛あ゛……ぁ、確かに……地獄だ、これ』


 ようやくその考えに思い立った神連は、腹の奥底を絞りきったような悲鳴を上げた。


 これでQED。


 まあ、信用できるに値したら普通に会っても良いんだけどね。


「んじゃ、そういうわけで」


『あ、うん……。あ、聞きたいことは良いの?』


「あぁ、今お前死にそうな声してるから後日で」


『はい……』


 勝ったな(ドヤ顔)




☆☆☆


 なんか知らねぇけど、チャンネル登録者数が一万人を超えていた。


 はぁぁ??

 一万人あれやろ。1万やろ。待て、軽く混乱してる。


 ちょっとしたスタジアムなら満員御礼だろ。その中でライブしてるのが俺って、認識でオッケー。おぇ、吐きそう。

 表面上は普通に取り繕ってるけど、配信終わった瞬間、顔色土気色。おまけにオレのこころ無彩色。


「これはあれか……突破記念配信とやらをする必要があるようだ」



☆☆☆


 時刻はいつもより早い22時。

 すたーとぉ!!


「権力のある生徒会。開放された学校の屋上。そんなものは存在しないのが現実。はい、どうも黒樹ハルでぇす」


ーー

『うわぁぁ!!貴様残酷な現実を!!』

『初手でリスナーの心を折るな』

『一万人おめでとうが、お前を処す会に変わるぞ』

ーー


 オタクなら誰もが通る道だよ、うんうん。俺もワクワクして高校に入学したけど、周りがカップルだらけなのに俺の周りには誰もいなかったな。友達もね!!


「本当に現実ってクソ。なんなんだろうね。あの難易度調整ミスってる感じは。イージーじゃなくてルナティック。年齢上がるにつれて難易度も上がる仕様」


ーー

『人生をゲーム扱いすんな』

『いや、気持ちは分かるけどもwww』

『来世に望めないほどこの世界ってクソですわ』

ーー


「来世なんて望まんわ。どうせ記憶ないんだし自分じゃないだろ。や、死後の世界がどうなってんのか分かるわけがないけどさ。ろくでもないだろ」


ーー

『異世界転生したい』

『中二病だと言われても↑に同意』

『あぁぁぁ!!男と接したい』

ーー


「男なら俺がいるだろ」


ーー

『お前別枠だろ』

『素の性格が愉快すぎてどうでもいい()』

ーー


 ひでぇ。俺の扱いが日に日に悪くなってる。


「俺、一応登録者一万人超えたんだが?? 個人Vtuberにしてはこのペース異常なんだが!? 敬えよ」


ーー

『あー、はいはいおめでとう』

『わー、すっごーい』

『へぇ、ふーん』

ーー


「まったくお前らは……ツンデレめ」


ーー

『デレ要素なんぞ一ミリもねぇよ』

『自分の行動顧みてもろて』

ーー


 くそが。下僕のくせに生意気な!

 まあ、良い。別にチヤホヤされたくてVtuberを始めたわけじゃないしな。あれ、金のために始めたのに収益化申請するの忘れてた。

 ……いっか! 楽しいし!(思考放棄)


「俺の扱いに対しては後々ゆっくりお話するとして、今日は募集した質問を消化していくどー!」


 昨日の夜に、専用のサイトで質問を募集したのだ。サラッと見たけど変な質問がかなり多かった。もちろん採用するけど。


ーー

『お、!ええやん!』

『ワイのが採用されるかドキドキ』

『質問きちゃ!!』

ーー


「何千件も来てて、さすがに全部を無理だから一部抜粋したぞ。こんなに多くありがとな! ちちんぷいぷいおてぃんてぃん!」


ーー

『おいw』

『最後で台無しにしていくスタイルどうにかならん?w』

『お前の脳みそどうなってんだよ。ゆるゆるだろ』

『発言の精査ってやってる???』

ーー


「ふっ、俺の下ネタを止めることは誰にもできない。俺は下ネタを!! 愛している!!!!」


ーー

『お前が好きなのはてぃんてぃんだろ。ボキャ貧なんだよ』

ーー


「言えてる。確かに俺はてぃんてぃんが好きだよ。言いやすくて身近。それに万国共通言語だし」


ーー

『ちげぇよwww』

『外国で通じるわけwww』

『Do you like TINTIN?? って?wwwwww』

ーー


「I LOVEてぃんてぃん!!!」


ーー

『やめろw』

『好きを愛に昇華させやがったwww』

ーー


「いい感じに場が温まってきたところで、1つ目の質問行くで!!」


ーー

『温まってんのはお前の脳みそだろ』

『沸いてるってことねwww』

ーー


 ストレートな罵倒で草。


 俺は配信画面に質問の内容を映した。


【カクトウげぃ夢のボイス販売してください】


「開発者に言えよ。俺は売らねぇぞ。特級呪物……プラン……はもう懲り懲りだ!」


ーー

『あれは笑ったw』

『過去1盛り上がった瞬間だったw』

ーー


 次!!


【てぃんてぃん……いる?】


「いる!!!!!!」


ーー

『曇りげのない笑顔で草』

『一番生きてるって感じする』

『いるのかwwwいや、ワイも欲しいwww』

ーー


「俺のてぃんてぃんだぞ。誰にも渡さん」


ーー

『お前のでもないだろw』

『独占欲発揮w』

ーー


 てぃんてぃんいるってなんだよ。いるだろ、普通に考えて。

 もっと常識というものを勉強してきてもろて。


「はい、次ぃ!」


 お次は個人的に好きなやつだった。質問という概念を見直してきてほしいけど。



【あいを語った。

 いないなんて嘘はつかない。

 すがたは偽らず。

 るすでも粘った。

 てぃんてぃん!!】


ーー

『なんこれwww』

『察したw』

『変なことに労力使うなよw』

ーー


「そう。これ、縦読みしてラストだけ普通に読んだら愛するてぃんてぃんになるんだよ。ナイスぅ!!」


ーー

『喜ぶな』

『同類いすぎだろw』

ーー



「やっぱね。この世は下ネタで出来てるんだよね。多分アダムとイブの最初の言葉は『てぃんてぃん』だぞ」




ーー

『んなわけwwww』

『人類の祖が最初に話した言葉が下ネタとか最悪なんだけどwww』

ーー


「は? 最高だろ。やっぱり祖先なんだなぁ、って分かるわ」


ーー

『お前だけだろwww』

『ほんとマジで一緒にすんな。マジで一緒にすんなよ!』

『同じカテゴリーにいれるな。腐る』

ーー


「腐るか! お前らな。隠さずに自分の想いを告げろと再三言っているだろ? な? 好きだろ? 下ネタはさ」


ーー

『好きだよ。なに当たり前のこと言ってんだ』

『はぁ?嫌いなわけないが?』

『男探して三千里をしたワイの学生時代なめんなよ』

『精力的に活動しすぎだろwww』

ーー


 やれやれ、素直じゃないんだから、まったく。俺が言うと批判するくせにお前ら下ネタ大好きじゃねぇか。ほら、やっぱりツンデレだ。


「はいはい、次々」 


ーー

『なんか腹立つw』

ーー


【デュフフフフwww拙僧オタクでゴザルがwwwデュフwオタクでもwフヒッwww結婚できるでござろうかwww】


「知らね。できるんじゃね?」


ーー

『適当かよw』

『可哀想www』

ーー


「や、オタクだとか関係なくね? そんな差別心底どうでも良いと思うし、どれだけ自分のステータスを高めたかどうかでそういう人生って決まるんじゃないの? やっぱ努力してなんぼの未来だろ」


 前の世界もそれは同じ。サボればサボる分だけ未来にツケが貯まっていく。いつか絶対にしっぺ返しを払うことになる。オタクがどうかと悩む前に自分がどうしたいのか考えて行動に起こすことが大事だと思うな。

 友達はできなかった俺だけど、勉強したお陰で良い大学にも入れて、騒がしくても楽しい飲み友達ができた。


 努力すれはスウィートなのが人生よ!(大嘘)


ーー

『うわ……こうやってたまにぶっ込んでくんのズルい』

『お前さぁ……お前さぁ……なんでそんなふざけてんのにさぁ……』

『あー……くっそwww』

ーー


「なんだ急にどうしたお前ら。変な下僕だな。次の行くぞ」


 経験論を交えたただの一般論だろ。少々下僕の反応がおかしいけど次行くか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

前の世界の一般論と、こっちの世界の一般論はちょっと違う。

ハルくんの言葉が響いた理由についてはご自由に考察を!

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