第11話 格ゲー配信(服が脱げます!!) #誰得


 今日の配信準備完了。

 チャンネル登録者は増えに増え7690人。Tnitterのフォロワーも五千人を超えた。

 いつもなら配信前は心臓がバクバク大きく脈打つほど緊張するだろう。だが今の俺は、今日それ以上やべぇことがあったから、緊張なんてものは消し飛んでいる。


 やるぜ!!



「はいどうも、こんにちは! 黒樹ハルです!」



ーー

『待ってた!!』

『こんハル!』

『こんばんは、じゃね?w』

『確かに』

ーー


「魔界だと今は昼なんだよ。気にするな」


 投げやりな設定とか言わんといて。


ーー

『あぁ、そういえばそんな設定だったか』

『素で忘れてた』

『元来のキャラが濃すぎて、Vtuberとしての設定を完全に忘却してた件』

ーー


 正直俺も忘れてた。

 

「まあ、それはともかく。ゲームの前にちょっと聞いてほしい話があるんだよ」


ーー

『お、なんだなんだ?』

『しゃーないからワイらが聞いてやってもええで』

『なんで上からw』

ーー


「おん。今日の昼に男性保護官呼んで、散歩しに行ったんだよな」


ーー

『なにやっとん、お前』

『馬鹿?』

『相当重要な用がない限り男性が外を出歩くことはないぞ。危険だからね! ワイらみたいのがいるから!!』

『一緒にすんなよwww』

『だ、だ、だ、誰がワイらみたいだって?』

『動揺しまくってて草』

ーー


「いやぁ、それ知らなくてさ。開始5分で絡まれて。……まあうちの保護官様に2秒で取り押さえられてたけど」


ーー

『噂ではよく聞くけど、保護官って本当に強いんかな』

『訓練内容とか極秘だし、実際に護衛することがほとんど無いから分からんよなぁ』

『給料高いから夢はあるw』

ーー


「へー、世間の認識もそうなのか。俺もちょっと危機感なくて、まあ絡まれるの一人くらいかなと思ったら。なんか続々現れて。ゴキブリかと思ったわ」


ーー

『思うなよwww』

『せめて人扱いを……』

『まあ、害悪さはゴキブリレベルだろうな。なにせ女性全員が犯罪者予備軍なわけだしw』

ーー


「そこからはもう千切っては投げての大乱闘よ。保護官様、一度も掠ることなく制圧してたわ。あれは、もう格ゲーの世界線に存在してる」


ーー

『格ゲーwww』

『それはさすがに嘘だろwww』

『人間辞めてて草』

『ありえねぇw』

ーー


「と、いうわけで……今日は格ゲーをします!」


ーー

『どういうわけだよ』

『意味分かんねぇw』

ーー


「や、現実では貧弱なんだし、せめてゲームの中くらい強くありたいじゃん?」


 保護官がチートすぎて完全に男のプライドがポッキリ逝っちゃったのも原因だけどね。あんな守られ方するならお家から出たくねぇ……。怖すぎだろ。世紀末すぎる。


ーー

『ゲームが強くなったって現実のお前が強くなることはないぞ』

ーー


「血反吐吐きたくなる正論言うのやめてもろて。心が死ぬ」


ーー

『www』

『黒樹ハルにダイレクトアタック!』

『ぐわぁぁぁぁ!!!www』

ーー


「んじゃやるぜ。今回はねー。『冒険者の村』やったやん? あの後、開発者からDM来てさぁ。炎上してからずっと抱えていた苦しみが消えました。ありがとうございます、って言われたんよね。俺すごくね? 心の悩み晴らしちゃったよ!」


ーー

『調子乗んな』

『たまたまだろ』

『そうやってすぐ、調子に乗る』

『囀るな。貴様に慢心はまだ早い』

ーー


「ひっど。みんな辛辣じゃねぇか。てか、たまに現れる囀るな発言はなんなん? 地味に傷つくんだけど。……まあいいや。で、話の続きだけど、その開発者が『冒険者の村』より前に作った格ゲーくれたんだよな。だから、今回はそれをやります」


ーー

『神ゲーの気配www』

『きちゃ!!』

『まさかの開発者からのコンタクトwww』

ーー


「いやぁー、嬉しかったわ。というか、まさか見てくれているとは思わんかった」


 そして俺はゲーム画面を起動させ、配信画面と共有させる。

 

「バンッ! 『カクトウげぇ夢』です!」


 いや、名前草。


ーー

『いや、名前草』

『いや、名前草』

ーー


 本当にそれな。

 

 現れたのは勿論、2Dのドット絵だ。一応二人プレイも対応しているらしい。なんだ、その無駄な高性能は。


「二人プレイもできるらしいけど、生憎とやる友達もいないので、今回はCPU対戦をしていきまーす」


ーー

『あっ……自分で男とか言ってる狂人だもんね……』

『泣くなよ。ワイらが付いてる』

『元気出せよ……』

ーー


「はぁー? 作ろうと思えば作れますが?? なんなら保護官様と友達になろうか? 今は『仕事ですので』が口癖だけど、いつの日か『友達ですので』って言わせてやんよ」


ーー

『はいはい、友達いないからってそんな虚しい嘘はつかなくていいぞ』

『乙』

『おっ、頑張れwwwwww』

ーー


「お前らさぁ……殴るよ??」


ーー

『何を言い返すのかと思ったら純粋な暴力だった。怖い』

『殴るのはよくないです!!!』

『草』

ーー


「ふっ、そういうお前らだって、画面に張り付いてばかりで友達がいないんだろう? 俺にはお見通しやで」


 煽るように鼻で笑いながら言う。コメントが加速していくことに内心ほくそ笑むが、自分で地味にダメージを受けているのは内緒だ。

 前の世界だと飲み友のあいつら以外大学に友達はゼロ。陰キャ極めてた人間だからな。ブーメランなんだよ。グサッ!


ーー

『はぁー? と、ともどち? いるじ?』

『めっは、誤字っててけさ』

『いいいいいいいるしぃ!!』

『な、何を根拠にそんなこと言ってるのかなぁ???』

『証拠はあるんですか? 私たちに友達がいないって証拠はあるんですか!!!!』

『うるせぇー!! 酒と端末さえあれば世の中生きていけるんだこんちくしょー!!!』

『阿鼻叫喚の地獄絵図じゃんwwwワイも友達いないけどwww』

『お前ら……涙拭けよ(๑´̥̥̥>ω<̥̥̥`๑)ウワーン』

『お前がなwww』

ーー


「草ァ」


ーー

『は?』

『てめ、なに高みの見物ぶっこいてんだ、同類のくせによ』

『処すぞ』

ーー


「まあ、落ち着けよ下僕ども。俺たちが今怒っても、慰めあったって……ただの傷の舐め合いだぜ?」


ーー

『うわ、ド正論。泣きたい』

『人間いつでも傷だらけ』

『やめて。現実に戻すのやめて』

ーー


「げっへっへ。んじゃ、話だいぶ逸れたけど、格ゲーやっていこーう!!!」


 たっーぷーーすたーと!!!



「そういえばいい忘れてたけど、昨日開発者さんが急いでキャラボイスを入れたらしくて。それ、全部俺の声らしい」


ーー

『!?!?』

『は?www』

『開発者ナイス』

『イケボで格ゲーかぁ……滾るな』

ーー


 なんで好評なんだ。俺のイケボって結構需要ある感じ? 知らんけど。


「お、始まったな。キャラを選べ……って、男キャラしかいねーじゃねぇか」


 おい開発者。願望が透けて見えるぞ。


ーー

『草』

『さすがあのゲームを作っただけあるわ』

ーー


「まあいいや。このラージ・マッグ、ってやつ選ぶわ」


 赤色のパーカーを着ている、ボクシングやってそうなキャラだ。ドット絵で格ゲーって現代っ子の俺的に馴染みがないけど、どんな感じなんだろう。


「敵はランダムにして……よし。スタートだぜ!!」


ーー

『楽しみ』

『きちゃ!』

ーー


【げぃ夢、スタートおおおぉぉ!!!】


 そんなナレーションが入り、特徴的なBGMとともにキャラが動かせるようになった。

 CPUのキャラは力が強そうな重量タイプだ。


「いくぜ!! 先手必勝小悪魔パンチ!! ちなみに操作は分からない!!」


ーー

『分からないんかい』

『また事前プレイしてないんかw』

ーー


「とりあえず適当にAボタン!! よし、パンチできた!!」


【あぁ!てぃんこ!】


「おいこら」


ーー

『ふぁwwwwww』

『当たったら服破けたし、黒樹ハルの声で下ネタ話したぞwww』

『待って情報量多いwww』

ーー


「落ち着け落ち着け。コメントの通りだぞ、今。服が破けるのは百歩譲っていいとしても、なんで破ける部分が局所なんだよ!! そこ殴ってねぇよ!!」


 間違いなく腹あたりにパンチが入ったのに、次の瞬間、敵のてぃんこにはモザイクがかかっていた。そこの配慮はどうでもいいから仕組みだけ教えてくれ。


「あと、俺の声で変態ボイス喋らせんな」


ーー

『それは日常から喜々として下ネタ話すお前が悪いだろwww』

『自業自得ってやつw』

『破ける部分は謎だけれどもwww』

ーー


 そんなことを話してる間に、俺のキャラが攻撃を受けていた。


【あぁ! あぁ……てぃん……てぃん。うわぁ!特級呪物が……プラン……】


「やめろ、組み合わせるな!! なんかやだ! なんかやだぁぁ!!!」


ーー

『www』

『特級呪物か……プラン……wwwwwwwww』

『待って、腹捩れるwww』

『やめろ、今夜中なんだ、笑いすぎて騒音被害になるだろwww』

ーー


 実に嫌な感じで組み合わせてやがる、開発者のやつ!! その編集技術に感服すべきか、なんてことしてんだよ、お前ぇ! って叫ぶのが正解か分からんわ!!


「やられる前にやってやらぁぁ!!!」


 どんなボイスも覚悟するぜ!!


「オラオラオラオラオラオラ!!!!」


【とっきゅぅ、あっ、てぃんてぃんてぃん……カルシウム取ってる?】


「急に素になるなよ」


 落差。


ーー

『草』

『開発者です。→B↑Yで必殺技出せます』

ーー


 ラッシュを叩き込んでる時に、ふとそんなコメントが目に入った。本物か知らんけど信じよう!!


「右B、上Y!!!!!」


 押すと、画面がゆっくりと流れて何やら必殺技っぽいモーションが現れた。


「おぉ、すげぇ!!」


ーー

『必殺技だぁ!www』

『絶対普通の必殺技じゃないwww』

ーー


【これで終わりだ!! ラグナロクシャインパワーああああァァァァァァァァァァ!!!!!!!!】


「き、来たァァァァァァァァァァ!!!」


ーー

『これは期待www』

『二 度 目 の ラ グ ナ ロ ク シ ャ イ ン パ ワ ー』

『今度こそは!!』

ーー


 光輝くキャラから光線のようなものが吹き出し……!


「うおおおぉぉぉ!!! ってやっぱポーズ取るだけかいぃ!! しかも無駄に完成度上がってんのくそ腹立つ!!!!」


 再び股間部分に収束した光のまま、キャラがポーズを取った。実に洗練された二段構えの技だった。なんか怒れない。腹立つけども!!


「もう、なんなんだよ!! っていつの間にか敵が倒れてるんだけど!!」


ーー

『ポーズ取り終わった後にダメージ入ってたでwww』

『まじで噴くwww』

『知 っ て た』

ーー


「なんで今回は当たり判定あるんだよ。『冒険者の村』の反省が生かされてて草生えるわ。怒るにも怒れねぇ」


 格ゲーの概念がぶっ壊れてる。

 男の服が脱げるとか誰得なんだよ! 



「いやー、今回の格ゲーで分かったわ。……保護官様やべぇ」


ーー

『あ、格ゲー以上なのね()』

『ゲーム超えてんのかよw』

『お前どこの世界に住んでるわけ?w』

ーー


 ほんとそれな。俺が聞きたいわ。

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