第6話 謝罪(笑)配信

 正直限界。

 Vtuber生活6日目。俺は今最大の岐路に立たされていると言っても過言ではない。自分で蒔いた種なんだけどね!


 チャンネル登録者はこの6日間で千人を超え、Tnitterのフォロワー数も二千人近くまで増えた。

 

 俺はビビった。

 千人以上の人生を動かしていると言ってもいい。いや、それは流石に過言だけど、俺が時間を吸い取っている以上あながち間違ってはいないはず。


 そんな影響力のある俺が……自分を偽っても良いのか?

 このまま小悪魔(笑)としてやり続けていて虚しくないのか……? 


 そう。



 俺は下ネタを話したかった。

 コメントで危うい問を投げかけられても曖昧に濁す日々。健全な配信だって楽しいのは間違いないさ。でも、何か違う。

 俺は自分からリスナーと壁を作って話していたことに気づいた。



「自分を曝け出せ、黒樹ハル。本音でぶつからないでどうするというのだ。下ネタは悪か? ……否ッ! コミュニケーションツールであるっ!!」


 クックック……待ってろよ下僕ども。

 新たな俺……ニューハルを見せてやろうではないか。




 まずは謝罪配信だ!!



☆☆☆



「えー、みなさんこんばんは。本日はお伝えしなければならないことがあり、今回の謝罪配信という場で誠意を見せる所存であります」


 今回の謝罪配信のために、なる早で作ってもらったスーツ姿のアバターが表示された。

 謝罪配信は注目度が高いのか、最初から同接は800人ほどいる。


ーー

『形から入ってるwww』

『スーツで草』

『どうせ性別についてやろ?』

『何を言われても驚くことはないで』

ーー


「性別についてではないです」


ーー

『は、マジ!?』

『他に何あるん?』

ーー


「俺はこの6日間、小悪魔という設定で配信をしていました」


 口調が分からなさすぎてキャラブレブレだったけどな。本当に小悪魔って何すんの? 俺が作った設定なのに本人が一番把握していない最悪の事実。草生える。


ーー

『せやな』

『素しか出てない気がするのワイだけ?w』

『設定言ってて草』

ーー


「それに限界を感じました。自分を偽り続ける配信に意味はあるのかと……!!」


ーー

『大半のVtuberを敵に回したぞ、今』

『比較的偽ってない方だろw』

『なんか苦悩してるのは分かる』

ーー


 や、だから設定を遵守し続けるVtuberってすごいよなって思うわけよ。尊敬。まじリスペクト。俺は無理だった。


「俺はずっと言いたい言葉があった。でも、それはキャラという鎖のせいで言えない……!!」



ーー

『そんなに重要な言葉なのか』

『言いたいことは我慢しないで言えよ』

『そうだそうだ』

ーー


「ならば言おう」


 俺はスゥー……と大きく息を吸って、パソコンの前で大きく目を見開き言った。



「俺は、俺は! ずっとと言いたかったんだあああああぁァァァァァ!!!!!!」




ーー

『は?w』

『ふぁーwww』

『下ネタかよ!!www』

『wwwwww』

『くだらねぇwwwwww』

『そんな叫びながら下ネタ言うやつ初めてみたわw』

『謝罪ってまさかこれ?www』

ーー


 かつてない勢いで流れるコメントに冷や汗が垂れるが、なぜか否定的なコメントはない。むしろ、肯定的な意見が多かった。


 あ、そうか。

 貞操逆転世界ってことは、女性側が下ネタを言うのか。だから大丈夫……?


「ひゃっほい! てぃんこ!」


ーー

『こいつ味を占めやがった』

『小学生レベルの下ネタなんだよなぁ……』

『お茶の間に流せる範囲で助かる』

『すっげぇイケボですっげぇくだらない下ネタw』

ーー


 うるせぇー!

 俺は解き放たれたんだ! ビーストオブ下ネタンと呼んでくれ。ダッサ。


「良いじゃん、下僕だって下ネタ好きだろ?」


ーー

『好きでええええす!!』

『てぃんこてぃんこ!!』

『高校の思い出は下ネタ』

『嫌いになれるはずがないじゃないか……!』

『すでに口調変わってるがな』

ーー


「もう遠慮はしないことにした。言いたいことはハッキリ言う。伝えたいことは隠さずに伝える。それが俺のモットーだ!!!」


 

ーー

『ちょっとカッコイイと思ってしまったじゃないか』

『ええやん』

『おもろいから何でもオケw』

ーー


 ふっ、さすが俺の下僕。

 とは言っても多少スタイルが代わるだけで、大きな違いはないと思うけどな。


ーー

『じゃあ、聞くけど本当に男なん?』

ーー


 そんなコメントが視界に映った。

 時折聞かれて、全てイエスと答えているが一向に信じる様子は無い。だが、俺は嘘はつかない。


「本当に男だぜ。って言ってもお前ら信じないからな。証拠を見せろって言われても難しいし」


ーー

『下を見せろ』

『ド直球で草』

『これ、リスナーも遠慮がなくなるシステムなん?』

ーー


「下を見せろ? BANされるから無理」


ーー

『至極真っ当な回答』

『BANされなきゃ良いのかよ』

ーー


 良くねぇよ。なんで不特定多数に自分の息子を晒さねぇといけねぇんだ。


「ま、それは追々各自で判断していってくれ。俺は変わらず配信を続ける」


ーー

『そのセリフが本物っぽさを物語る』

『え、本当にマジで男なん?w』

『ワイは信じたい!』

ーー


「と、いうわけで。謝罪配信はここまで。一時間後にゲームやるからよろしくぅ!! 下僕乙!!」


ーー

『お疲れと言えよ、毎回』

『おつ。変わったハルを楽しみにしてる』



…………



『結局謝罪してなくね?www』

ーー


 あっ。






 


 

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