第2話 見覚えのある駅

 俺が復縁神社なんかに行ったのは、自らの復縁を望んでいたからではない。知り合いから、『絵馬がかかってたよ』と、教えられたからだ。写真も添付されてた。


『江田聡史さんと復縁できますように 東京都〇〇区〇〇 松村A子』


 俺は仕事を通じて色々な人に会っているから、松村A子が誰なのかわからなかった。復縁と言ったら、男女の仲だろうけど、今までの経験人数は三桁。その中の一人だろうか。俺にとっては記憶にも残らない存在なのに、あちらはそうは思っていないようだ。恋人と思って付き合った相手は今まで誰もいないし、同じ相手と毎週会ったりというのもあまりない。毎週会ってて最長で3ヶ月くらい。一緒に泊まりで旅行に行ったこともある。こういうのは相手にしたら、付き合っていると思っているのかもしれない。

 でも、俺はそう思ってない。俺が飽きるまでのセフレみたいなものだ。なぜ俺がそんなにモテるかと言うと、独身、大企業勤務、そこそこのイケメンだからだ。俺の相手は既婚者が多い。相手も割り切った付き合いを望んでいるから、話が早くて、あちらも俺に執着しない。


 俺はもう一回考える。ネットで調べると〇〇区〇〇の住所だと・・・最寄り駅は私鉄の〇〇線の〇〇という駅しかない・・・その駅で降りたことはある。いつ頃だろう・・・5年くらい前だ。その人の家に行ったのかもしれない。


 俺は電車に乗って行ってみることにした。とりあえず眼鏡をかけて行くことにする。眼鏡は人の印象を変える。さらに服は黒いジャージの上下。もし、再会しても復縁したいと思われないようにするためだ。それに、いまどうしてるか聞かれたら「結婚して子どもがいることにしよう・・・」


 電車でジャージは恥ずかしかったが別にいいんだ。〇〇駅に着いて、とりあえず商店街を歩いてみた。おいしそうな総菜を売っている店。タバコが吸えそうな喫茶店、はんこ屋、おばあさんが着るような洋服や、古本屋などがある。確かにそこに来たことがある。しかも、何回も・・・来たはずだ。家に行ったってことは人妻ではない。そんな人に再会したらますます面倒だ。よりを戻して再婚なんてプランを描いていたら困る。


 途中で行ったことがある店を発見した。古びた外観のケーキ屋さん。昭和な感じの店で懐かしい感じがする。ショーケースの中は、オーソドックスなケーキしかなく、種類が少ない。「ここでケーキを買った・・・」何のために買ったんだろう?そうだ、相手の誕生日が近かったんだ。そこのケーキはまずかった。まるで、スーパーのクリスマスケーキみたいだった。俺は目をつぶって、その時のことを思い出す。そのケーキを買った相手は・・・。


 女?男?

 でも、一人で行ったんじゃない。他に何人かいた。

 ああ、そうだ。あれは・・・。

 あれ、会社の人が病気で自宅療養してて、見舞いに行ったんだ。他に3人くらいいたはずだ。


復縁なんて言っても、俺たちは恋人同士なんかじゃないし、相手はおじさんだ。なぜだろう。俺の足は自然と松村さんの家に向かっていた。あの人は、、、今どうしてるんだろう?前の会社の人だし、どうしてるかわからない。病気はうつ病だった。今も自宅療養してるだろうか?




 







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