最終話 そして、返事の内容は

 紙をじっとながめながら「なつかしのモノクロ二階調にかいちょうだねぇ」とか言って、あやめちゃんはウフフと不気味ぶきみに笑っている。

 その様子をあやしく思いながら、私は言われた通りにマス目をぬりつぶした。


■□■□□□■■□■□□□■■■■□■□□□■□■■□■□□■□

■□■□□■□□■□■□■□■□□□□■□■□■□□■■□□■□

■□■□□■□□■□■□■□■■■□□□■□□■□□■■□□■□

■□■□□■□□■□□■□□■□□□□□■□□■□□■■□□■□

■□■■■□■■□□□■□□■■■□□□■□□□■■□□■■□□


 出てきた文字列は―― I LOVE YOU


「え、これって……」


 私が言葉につまっていると、あやめちゃんが言った。


「読める?」

「このぐらい読めるよ! 授業でやってるし!」

「すごいな、最近の小学生は英語も授業でやっているのか! スズキくん、習ったばっかで使いたかったんだろうなぁ。青春だねぇ……」

「ねぇ、あやめちゃん。これって、告白こくはくとかだと思う……?」


 私がおそるおそる問いかけると、あやめちゃんは自信満々に笑ってうなずいた。


「それ以外ないでしょう」

「だよね……」



 * * *



 ――月曜日。

 ようやく放課後がきて、私は帰ろうとしている寿々木すずきくんの席へと急いだ。


「ねぇ、この間の謎、解けたよ!」

「え、あれ解けたのかよ! ウソだろ!?」


 まさか解かれるとはつゆほども思っていなかったようで、どうやら寿々木くんはものすごく動揺どうようしているみたいだった。

 その様子に私は申し訳なくなって、ズルしたことを正直に白状はくじょうすることにした。


「ごめん、あやめちゃ……工学博士こうがくはくしの叔母さんに、手伝ってもらっちゃった……」

「なんだよそれ、博士とか超絶チートじゃん……。絶対に解けないと思ってたのに……」


 気まずそうな顔をして黙りこむ寿々木くんに、私は勇気を出して口を開く。


「ねぇ、寿々木くんって……中受ちゅうじゅする?」

「ああ、うん。するけど……」


 突然話が変わっておどろいたような顔をする彼に、私は笑いかけた。

 今朝けさ早起きしてみにしてもらった髪に、お気に入りのリボンがゆれる。


「どこ受けるの?」

「角川中等だけど……」

「角中なら共学だよね。じゃあ、私も受けてみよっかな」

「えっ」

「でも私には、ちょっと難しいかも。勉強教えてくれる?」


 寿々木くんはすごい勢いでコクコクとうなずいてから、ずり落ちそうになったメガネをあわててキャッチした。

 なんか、意識したら急にイケメンに見えてきた……かも。ふしぎ。


「えっと、もう何か受験対策とかしてる?」

「うん、いちおう塾で……」

「ふーん……私も塾行きたいってママにたのんでみようかな」

「佐島さんならすぐ特進クラス入れるって……その、オレも特進なんだけど」

「そっか、がんばる」

「塾とか、知りたいことあったら何でも聞いてくれていいから」


 寿々木くんはさっきからずっと目をそらしているけれど、耳が真っ赤になっている。私も熱くなったほほを手のこうでおさえながら、とびきりの笑顔をかべた。


「うん、ありがと!」

「ともかちゃん、かえろー!」


 その時。ベストタイミングで友だちの呼ぶ声が聞こえて、私はそっちを振り向いた。


「いま行くー! じゃあ私帰るね。あ、これ暗号の返信だから!」


 私はとっておきの便せんに書いた暗号を寿々木くんに押し付けるようにして渡すと、ランドセルを肩にかけて手をふった。


「また明日ね!」



――――――――――――――――――

 TO 寿々木くん

 次の暗号を解読せよ


 ♣♡♣♠♡♢♡♡♡

 ♠♢♠♡♣♠♣♣♣

 ♣♣♠♠♡♢♢♢♢

 ♣♣♠♡♡♢♢♢♢

 ♣♡♣♠♡♢♡♣♣


 ※ヒント1:同じだよ!

――――――――――――――――――



 - おしまい -






(暗号の答え:Me too)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ざんねんな博士とひみつの暗号 干野ワニ @wani_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ