はるなつあきふゆ

MAY

0章

悪夢

運命なんて信じない。

そんなものがあるのなら、今この身に起きている現状を肯定することになるから。

「新城千春です。今日からよろしくお願いします。」

瞳が闇に染まっている。何かに失望した人の目だった。

千春。春を感じさせる綺麗な名前に似合わないその目を見ているだけで僕の胸が異常なぐらいざわついていた。

「よろしくね。新城さん。」

作り笑いでもいいから、そっと笑みを作り千春に語りかけた。

「呼び方。なんと呼べばいいですか?」

「呼び方なんて別になんでも」

なんでもいい。

今すぐにでも千春のその目が元に戻るのであれば。

「では、兄さん。」

気持ち悪い。

数週間前までは普通に「雪斗君」と呼んでくれていたのに。

もう千春の中では僕は兄なんだね。

「まだ荷解き終わってないので戻りますね。」

「うん。」

そういって彼女は自室に戻っていった。


運命なんて信じない。

そんなものがあるなら、壊してしまいたい。

だけど抗う力も、彼女を連れ去る勇気も僕には残っていないから。

ただ今ある現状を受け入れるしかできないのだ。

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