第31話 ダニエルがまたやらかしました
私たちが結ばれてから、半月が過ぎた。すっかり甘々になったグリム様に、毎日これでもかと言うくらい可愛がられている。さらに今まで我慢していたからか、屋敷にいるときは、ひと時も私から離れようとしないのだ。
さらに結ばれた翌日からは、夫婦の寝室で眠るようになった。どうやら夫婦の寝室は存在していた様で、急いでメイドたちに整えてもらった様だ。寝室には大きなベッドに真新しいシーツが敷かれていた。
もちろん、両端には各自の部屋へと通じる扉も準備されていた。今まで生活していた部屋から、夫婦の寝室の隣の部屋への引越しも完了し、新しい部屋で過ごしている。
そして今は、グリム様と一緒に朝食を食べているところだ。
「マリアンヌ、今日は会議が入っているから、少し遅くなりそうなんだ。悪いが先に食事を済ませておいてくれるか?」
「分かりましたわ。でも、グリム様と一緒に食べたいので、待っております」
「あぁ、俺のマリアンヌはなんて可愛い事を言ってくれるんだ。わかったよ、出来るだけ早く帰るようにするから」
食事中にも関わらず、すかさず私を抱きしめるグリム様。完全に甘々になったグリム様の姿がまだ慣れないのか、使用人たちが大きく目を見開いて固まっている。
気持ちはわかるわ。私だって、未だにまだ慣れないのですもの。でも、こんな風に愛情を表現してもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「グリム様、そろそろ出発しないと、遅刻しますよ」
なぜか頬ずりまで始めたグリム様を軽く引き離す。
「本当だ。急がないとマズいな」
急いで食事を済ませ、グリム様を見送る。
「それじゃあマリアンヌ、行ってくる」
そう言うと、私のおでこに口づけを落とした。
「行ってらっしゃいませ、グリム様」
私もグリム様の頬に口づけをする。これも夫婦で決めたルールだ。グリム様が、行ってきますとおかえりなさいの口づけが欲しいと言ったため、このルールが出来た。
グリム様を見送った後は、1人部屋に戻ってきた。部屋に戻ると、山積みになっている招待状に目を通す。
実はあの夜会以降、私とグリム様の評判は、なぜかうなぎ上り。私たちの愛の告白を聞いた貴族たちから
“こんな風にお互いを大切に思えるなんて素晴らしい。ぜひ仲良くしたい”
と、お茶会や夜会の招待状がどんどん届いているのだ。ただグリム様は
“今まで散々マリアンヌに酷い事をしておいて、今更仲良くしたいだなんて図々しい、無視しておけばいい!”
そう言っていたが、私は出来るだけ貴族間の繋がりを強めたいと思っている。そうする事で、今後グリム様の役に立てると思っているからだ。
ただ、こんなにも沢山の招待状、全てお受けする訳には行かないため、ある程度振り分けているのだ。
「それにしても、凄い量ね。さすがに疲れたわ…」
ずっと招待状に目を通していたら、疲れてしまった。こんな時は中庭を散歩しよう。そう思い、屋敷の外に出た時だった。
「マリアンヌ!!」
えっ?この声は…
ゆっくり声の方を振り向くと、そこにはなぜかダニエルの姿が…
「どうしてあなた様がこちらにいらっしゃるのですか?ここはディファーソン侯爵家の敷地内ですよ。誰の許可を得て入ったのですか?」
びっくりして問いかけると
「許可なんて得ていない。だってこうでもしないと、君に会えないだろう?さあ、俺と一緒に、この屋敷から逃げ出そう」
この人は、何を訳の分からない事を言っているのかしら?
「夜会でも申し上げた通り、私はグリム様を心から愛しております。あなた様に婚約破棄されたあの日、私はグリム様の優しさに触れ、そこで恋に落ちたのです。あなた様は、あの時の私たちの会話を聞いていなかったのですか?」
は~っと、ため息を吐きながらそう伝えた。
「ああ、聞いていた。でも、俺たちは子供の頃からずっと一緒だったんだ。今からでも遅くない、俺と一緒になろう。俺はマリアンヌを愛しているんだ」
そう言うと、私の腕を掴んだ。
「いい加減にして!公衆の面前で、私に婚約破棄を突き付けたあなたが、何を言っているの?あの日、私はあなたに捨てられた。ボロボロになった私の心を救ってくれたのは、グリム様だったのよ!いい、もう一度言うわよ。私が好きなのは、グリム様ただ1人だけ!たとえグリム様に追い出されて独り身になったとしても、あなたなんかとは、ぜ~~ったい、何があっても結婚しないんだから!!いい、分かったらさっさと帰って!」
あまりにも腹が立ったので、ダニエルに向かって思いっきり叫んだ。
「でも俺は…」
「ええい!女々しい!男なら、自分がやった行動に責任くらい持ちなさいよ。これ以上私を幻滅させないで!」
そう叫んだ時だった。
「奥様!!」
血相を変えたクリスと護衛騎士が、こちらにやって来るのが見えた。どうやら私の近くにいたカリーナが、呼びに行ってくれた様だ。
「おい、今すぐこの侵入者をつまみ出せ!いくら侯爵令息でも、人様の屋敷に勝手に侵入するなんて。このことは、我が主にも伝え、正式に抗議をさせていただきます」
私を庇う様に立ったクリスが、ダニエルに向かって叫んだ。そのまま護衛騎士に抱えられ、連れていかれるダニエル。
「待ってくれ、マリアンヌ…俺にはもう君しかいなんだ…頼む…」
あれほど私に暴言を吐かれて、まだあんな事を言っているわ…
あの人、一体どうしちゃったのかしら…本当に…
護衛騎士に抱えられながらも、必死に叫ぶダニエルを見ながら、心底残念な目で見つめるのであった。
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