第29話 雨降って地固まる?
「いやぁ、実に素敵な告白だったよ。それにしても、ディファーソン侯爵は、素晴らしい伴侶を手に入れたんだね」
私たちの元にやって来たのは、今回のパーティーの主催者でもあるグリース公爵だ。
「こんな騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません。公爵」
頭を下げる旦那様に続いて、私も頭を下げた。いくらダニエルが絡んできたからと言っても、人のパーティーで騒ぎを起こすなんてあり得ない行為だ。
「そんな事は気にしないでくれ。私たちもいいものを見せてもらった」
「そうですわ。あんなにも情熱的な告白を間近で見られるなんて。もう興奮ものですわ」
情熱的な告白…よく考えてみれば、公衆の面前で、私たちは愛を伝えあったのよね。ヤダ…恥ずかしいわ。
急に恥ずかしくなってきて、真っ赤な顔をして俯いてしまう。もう、また社交界で噂の的になるわ…
「マリアンヌ夫人、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ。そうだわ、せっかくだから、夫婦でダンスでも踊ってきたらどうかしら?」
俯く私に、優しく声を掛けてくれたグリース公爵夫人。ダンスか…そうだわ、今日は旦那様と踊ろうと思っていたのだった。
「旦那様、せっかくなので、一緒にダンスを踊って頂けますか?」
「もちろんだ、さあ、一緒に踊ろう」
差し出された旦那様の手を握り、2人でホールの真ん中へとやって来た。そして、音楽に合わせてゆっくりと踊る。
「私、旦那様とこうやって踊るのが夢だったんです。やっと夢が叶いましたわ」
「俺と踊る事が夢か。嬉しい事を言ってくれるな。そんな夢なら、これからいつでも叶えてやる。これからは、毎回2人で夜会に参加しようと思っているのだが、いいか?」
「はい、もちろんです!」
それにしても、旦那様とのダンス、とても踊りやすい。きっと私の動きに合わせてくれているのだろう。そういうちょっとした気遣いも嬉しい。
結局3曲も踊ってしまった。
「さあ、今日は疲れただろう。そろそろ帰ろうか」
ふと周りを見ると、他の貴族も帰り始めている。確かに今日は色々とあって疲れたわ。
「はい、帰りましょう」
2人で手を繋いで帰ろうとした時だった。
「ディファーソン侯爵、マリアンヌ」
声を掛けてきたのは、両親だ。そういえば両親も、さっきの私たちの愛の告白を聞いていたのよね。イヤだわ…両親にまで聞かれるなんて…
「ディファーソン侯爵、マリアンヌを大切にしていただいている様で、本当にありがとうございます。どうかこれからも、マリアンヌをよろしくお願いします」
深々と頭を下げる両親。
「義父上、義母上、頭をお上げください。こちらこそ、マリアンヌとの結婚を認めていただき、ありがとうございます。中々マリアンヌの顔を見せられずに申し訳ございませんでした。これからは、なるべく元気な顔を見せる様に致しますので、どうか温かく見守っていてください」
「もちろんです。マリアンヌ、今日はあなたの幸せそうな姿を見られてよかったわ。また実家にも顔を出しなさいね」
「はい、ありがとうございます、お母様」
結婚してから実家には一度も帰っていなかった。また近いうちに実家に帰ろう。両親の姿を見て、そう思った。
両親と別れた後、帰りの馬車に乗り込む。それにしても、今日は本当に疲れた。でも、旦那様と気持ちが通じ合ったのだ。こんなに嬉しい事はない。
なんだかもっと旦那様の側にいたくて、旦那様の隣に移動した。
「旦那様、今日はありがとうございました。まさか旦那様が、私を好きでいて下さるなんて思いもよりませんでしたわ」
「それは俺のセリフだ。まさか君に好かれているなんて思わなかった」
「ねえ、旦那様、今日初めて私の名前を呼んでくださいましたね。とても嬉しかったです。これからも、名前で呼んでくださいますか?」
結婚してから今まで、一度も名前を呼んでもらえなかった。でも今日、初めて“マリアンヌ”と呼んでくれた。それが嬉しかったのだ。
「名前なら、いくらでも呼ぶよ、マリアンヌ。それなら、俺の名前も呼んでくれると嬉しいのだが…」
少し恥ずかしそうにそう言った旦那様…いいや、グリム様。
「分かりましたわ。それなら、グリム様と呼ばせていただきますね。それから、これからは言いたい事は何でも言い合いましょう。今日改めて思ったのです。随分とすれ違っていたのだなと」
「そうだな。自分の思い込みで、随分とマリアンヌを傷つけていた様だし。色々とすまなかったな」
「私の方こそ、勝手に思い込んでいた節がありましたので。とにかく、これからは何でも言葉にしますわ」
これからは何でも話せる夫婦になりたい。その為にも、言いたい事は言える様にならないと!改めてそう思ったのだった。
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