第8話 お前にだけは渡さない~グリム視点~
あのパーティー以降、俺のマリアンヌ嬢に対する思いは、日に日に強くなっていく。そんな中、久しぶりに参加した夜会。なんとマリアンヌ嬢も来ていたんだ。
マリアンヌ嬢が入場するや否や、周りが明らかにひそひそし始めた。クソ、何なんだよこいつら!体中から怒りが沸き上がる。それでも彼女は、何事もなかったかのように、背筋を伸ばし、凛としている。
その姿は本当に美しく、見とれてしまうほどだ。どうしよう…話しかけた方がいいのだろうか?そう思っていると、彼女の周りに、何人かの令嬢がやって来た。どうやら友人の様だ。
ホッとしたように笑顔を見せる、マリアンヌ嬢。やっぱり緊張していたんだな。
その後も、パーティーに参加し続けるマリアンヌ嬢。そのたびに、貴族どもがヒソヒソしている。あからさまに彼女に嫌味を言うものまで現れたが、文句も言わずひたすら耐えている様だった。
どうして彼女がこんなひどい目に合わないといけないんだ!そう思ったら、つい悪口を言っている令嬢たちを睨みつけてしまった。俺の視線に気が付いたのか、そそくさと逃げて行った。
そして別の夜会では、マリアンヌ嬢を地獄に叩き落したダニエルが来ていた。楽しそうに他の令息たちと話をしている。クソ、マリアンヌ嬢はあんなにも苦しんでいるのに、この男は!
抑えきれない怒りが、殺気となりわきがある。殺気立った俺に、近づくものなどいない。そう思っていたが…
「グリム、気持ちはわかるが、怒りを抑えろ。お前、このままだと殺人者になるぞ」
俺に声を掛けて来たのは、デービッドだ。
「別に俺は、あいつに手を出したりはしない」
「手を出さなくても、目でやっちまいそうな勢いだったからさ。それくらい、殺気立っていたぞ」
「うるさい!そもそも、どうしてあの男はあんなにのうのうと生きてやがるんだ!マリアンヌ嬢は、いつも針の筵状態で夜会に参加しているんだぞ。それなのにあの男は!」
「とにかく落ち着け!そうそう、さっきダニエルたちの話しを盗み聞きしたんだけれどさ。ここじゃマズいから、ちょっとこっちに来い」
何を思ったのか、会場から俺を連れ出すと、人気のないところにやって来た。一体どういうつもりなんだ。
「おい、デービッド、こんなところに連れて来て、一体どういうつもりだ!」
すかさずデービッドに文句を言う。
「ギャーギャー騒ぐな。うるさい奴だな。いいか、よく聞けよ。さっきダニエルが話しているのが聞こえたんだよ。どうやらあいつ、マリアンヌ嬢とよりを戻そうとしているらしいぞ」
「なんだって!あの男、あれほど彼女を傷つけ苦しめておいて、なにをふざけた事を抜かしているんだ!」
怒りから、壁を叩きつけてしまった。
「落ち着け。だから人気のないところに連れて来たんだ。お前、壁を壊すなよ。迷惑だから」
「そんな事はわかっている!それで、マリアンヌ嬢はどうするつもりなんだ?」
「さすがにあんな酷い仕打ちをしたダニエルと再度婚約を結ばせるつもりは、ディアレス伯爵もないみたいなんだ。その為、伯爵家に訪ねて来ても、門前払いをしているらしい。さらに、マリアンヌ嬢の友人たちも今回の件で相当ダニエルに怒っているみたいで、ダニエルが少しでもマリアンヌ嬢に近づこうものなら、鬼の形相で睨んでいるらしく、一切近づけないと嘆いていたぞ」
「そんなもの、当たり前だ!ダニエルは自分がどれほど酷い事をしたのか、分かっていないのか?」
怒りが抑えきれず、デービッドに怒鳴りつけた。
「俺に怒るな!ただ、ダニエルの家は侯爵家だからな。伯爵もあまり強く出られないのだろう。それに、マリアンヌ嬢は嫁の貰いてもなさそうだし、このままいけば、やっぱりダニエルの元に嫁ぐしかないんじゃないかって。ダニエルもそこを狙っているらしいんだ」
「ふざけるな!あんな奴に渡すぐらいなら、俺がマリアンヌ嬢を嫁に貰う」
そうだ、あんな男の元に嫁ぐぐらいなら、まだ俺の嫁になった方がましだろう。
そうと決まれば、こうしちゃいられない。
翌日、早速ディアレス伯爵にアポを取った。すると、すぐに我が家に足を運んでくれた伯爵。
「急にお呼びたてして申し訳ございません。単刀直入に申し上げます。どうか、マリアンヌ嬢を、私の妻として迎えさせては頂けないでしょうか?」
俺の申し出に、目玉が飛び出るのではないかと言うくらい、驚いている伯爵。
「あの…侯爵もご存じの通り、家の娘はいわくつきと申しますか…なんと言いますか…」
「その件は存じております。そもそも、私はマリアンヌ嬢に非があるとは思っておりません。ダニエル殿が一方的に悪いと考えております。失礼ですが、ダニエル殿から、再度婚約したいと言う旨が届いていると噂で聞きましたが」
「はい。実はクラッセロ侯爵家から、再度婚約を結び直したいという打診が来ているのは確かです。でも、今回の件で深く傷ついた娘に、再度ダニエル殿と婚約しろとは言えず…悩んでいたところなのです。ですから今回、ディファーソン侯爵からの申し出、本当に有難い事でございます」
「では、受けていただけますか?」
「大変申し上げにくいのですが、正直これ以上娘を傷つける様な事はしたくありません。一度娘に確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
ものすごく申し訳なさそうにそう言った伯爵。通常爵位が高いうちからの打診に対し、保留にするという事は、異例中の異例。でも、それだけ伯爵はマリアンヌ嬢を大切にしているという事なのだろう。
「わかりました。それで大丈夫です」
俺もマリアンヌ嬢の気持ちを大切にしたい。もしここで断られたら、その時はすっぱり諦めよう。
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