ノスタルジーコンプレックス
ごぼう
第1章 第1話 神隠しの町
僕は手に汗を滲ませながら車のハンドルを握っていた。免許を取ってまだ2か月半くらいで高速道路なんか皆んな怖いに決まってる。そう自分に言い聞かせながら、ただ単調に続く直線を進む。調子良く「折角だから車で行く。」と親に啖呵を切って借りて来たこの黒い車も、車名すら分からない僕に運転されるなんてさも不安だろうと意味のない心配をする不必要な余裕だけは持ち合わせていた。
「電車で行けば良かったかも。」
ついつい後悔ばかり口から溢れる。退屈な大学の退屈な地理学の課題で自分の故郷や地元の特色や歴史についてレポートを書かなければならなかった。それこそがこんな雪崩の様な後悔を生み出した根源である。自分の故郷である柳町の土を踏むのは中学生時代以来、“あの事件”が起きて以来であった。その事件、或いは事象は僕にとって「ただの故郷」を「嫌な思い出の眠る故郷」へと変貌させてしまった。
正直に言えば2度と柳町に行くつもりは無かった。
「タイムカプセル掘り起こそうぜ。」
その柳町から掛かってきた旧友ヒデからの一通の電話が故郷から目を逸らし続けていた僕の肩を叩く。
中学3年生、15歳の夏。20歳になったら皆んなで掘り起こそうと誓ったあのアルミ缶。
一丁前に感傷的になった僕はかなり薄れていつつ強烈な違和感を抱き、大学の課題に託けて柳町へと向かう覚悟を決めた。
宿に関してはヒデの家に空いている部屋が一部屋あるようなので、その部屋を貸してもらう算段となった。
変哲のない夏休み中の5日間。メモ帳と最低限のお泊まり道具を携えた僕の帰郷は始まった。
神隠しの町へと。
ノスタルジーコンプレックス ごぼう @kate0518
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