第6話 冷たいさよなら
まず驚いたのが、この船には寝室があること。小さなオルバートにそんな部屋は無かった。ベッドは大きめで、ゆったり寝られるだろう。
「シロタマはここで寝たことあるのか?」
シロタマは首を左右に振った。
「ココデハナイ」
と言う事は、おっさんしか寝ていない。ある意味、安心する。いや、今夜は寝かさない、的な? それは別の意味で寝――考えるのはやめよう。
ベッドは一つしかないが、二人で寝ても問題なさそうに見える。その前に、おっさん臭そうなシーツは変えないといけないだろう。
次にキャラメルが驚いたのは、小さいながらも厨房の存在。もちろん、オルバートには無い。
キャラメルはオルバートでの長旅を合成食品で過ごす。栄養面は問題無いどころか非常に良いのだが、味はまずくもないが、決して美味いということもないといういまいちさ。それでも腹に詰め込むには十分だと思っている。その影響で、キャラメルは地上で食べる食事が最高に美味しく感じた。
ここで調理をするのなら、それがいつでも体験出来る訳だ。
「で、誰が
「コブン、ツクル」
ぱっと見、食材が有るようには見えない。小さな冷凍・冷蔵庫はあるが、食材が多く入るようには見えない。
「食材とかは?」
「ソウコ」
二人はキャラメルが最初に見た倉庫へと来た。改めて見ると、確かに保存の利く食材が置いてある。大きな冷蔵・冷凍庫も完備。これなら問題は無い。
「デモ、チュウボウノデバン、オオクナイ。ウチュウハワープツカウ、イッシュン」
「まぁ、泊まるとこなくて船を拠点にするなら、出番有るだろ」
食料問題は解決した。
が、別の問題が発生する。
「これ、邪魔だなあ」
それはアディアムが残した大量の旗。当然、キャラメルには必要無い物だ。かといって、売っても金にはならないだろう。
「オレは要らないんだよなあ。こいつはオルバートに置いて行くか」
キャラメルは外を指差す。
「あれも放置出来ないしな」
あれとは、アディアムのこと。シロタマの元飼い主でキャラメルとはまったく接点も無いが、このまま野ざらしにするのは可哀想に思えた。
「さて、おっさんをどう運ぼうか」
キャラメルは亡骸の横に立つ。このアディアム、どう見てもキャラメルが抱えていける重さではなさそうだ。
「仕方無い。スゴアーム使うか。おっさん運ぶ為の機械じゃねえんだけどな」
イヤイヤながらスゴアームを置いてるアディアムの船へ戻ろうとした時、そばにシロタマがいるのに気付いた。
「どうした?」
「コブン、ハコブ。ドコヘ?」
「オルバートに運ぶつもりだったが……」
キャラメルはシロタマを見るが、チュニックから伸びるのは、細い腕。キャラメルよりも、ずっと細い。
「無理だろう、シロタマにゃ」
と言ったが、シロタマはアディアムの背中と膝裏に手を回すと、そのままひょいと抱え上げてしまった。
「ダイジョブ」
「…………意外に力持ちなんだな」
キャラメルはシロタマを怒らせないようにしようと思った。あの腕力で攻められたら、何も出来ないと思う。
アディアムの亡骸はオルバートのコックピットへと運ばれた。地上も可哀想だが、倉庫や通路に放置するのも可哀想だというキャラメルの配慮だった。その狭いコックピットに、大量の旗とともに押し込める。
「これでおっさんも寂しくないだろう」
「サヨ……ナラ? カイヌシ」
シロタマがポツリ。その言葉に悲しみの感情は無かった気がする。
「オルバートにおっさん残していくけど、オレをおっさんだと思うバカいないよな? いる訳ねえか」
余計な心配はいらない。
二人はオルバートを降りた。新しい船に荷物は運び終え
新しい船へ向かう途中、キャラメルは足を止めて振り返り、オルバートを見る。もう二度と見ることはないだろう。これがオルバート最後の姿だ。
「サヨナラだ、オレのオルバート」
苦楽を共にしたキャラメル一人の思い出が詰まっているが、これからは新しい船で二人の思い出を作っていくことになる。
キャラメルは再び新しい船へと向けて歩み始めた。
「オヤブン、アタラシイフネノナマエハ?」
「オルバート二世、かな?」
「オルバートニセ!」
「偽じゃねえよ」
キャラメルとシロタマはメルエへと向けて飛び立った。
その日のうちにオルバート二世は商業惑星メルエのチカモール駐船場へと降り立つ。
帰り道も驚きの連続だった。
オルバート二世は燃費もいいし、ワープ酔いも起きない。戻るのは一瞬だった。通常航行よりもワープ航行の方が
それに驚いているとシロタマから、
「オヤブンノフネ、ボロダカラ」
と言われた。せめて年代物の船と言って欲しい。
オルバート二世のタラップを降りると、いつもの初老の男が驚いた表情を見せた。
「おや? キャラメル様。船を買い換えたのですか?」
ブラックパスで誰が来るかは事前に分かる。ただ、いつもの船で無かったことに驚いていた。
「いや、今回の戦利品はこれだ。だから今日は売る物が無い。ただ、
「少々お待ち下さい」
確認した所、ブンタは今何もしていない。キャラメルとシロタマはブンタのいる部屋へと向かった。
「驚いたな……」
ブンタも驚いている様子。その目線はシロタマへと向いていた。
「お前さんは泥棒三原則の
「
必死に言い訳するキャラメルを見て、ブンタは静かに笑う。
「ま、そういうことにしておこう」
「絶対信じてねえだろ!」
「はいはい、信じてる信じてる」
ブンタは凄く投げやりだ。絶対信じてない。
「で、用事はなんだ?」
「まず、この姿を何とかしてあげたい。最適な店はどこだ?」
シロタマのボロボロの服、ボサボサの髪、足元も裸足で、チェーンの切れた足枷は着いたまま。
いくつかの店を回る必要があるだろう。効率的に回るために、事前にブンタに聞いておきたかった。
そんな姿のシロタマを、ブンタはじっと見る。
「あんだろ。あそこに行けば全て出来る」
ブンタは人差し指と中指を立て、横に動かして閉じたり開いたりしている。
それを見て、キャラメルはピンと来た。
「あそこか。その前に風呂だな」
「店には俺が連絡しておこう。風呂の間に準備を進めておく」
「すまねえ。あとだな――」
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