16.「大好きだよ」
「つむぎぃ、そろそろ起きな講義間に合わへんで」
あぁ……。
どれだけ大きな音よりも、効き目の良い目覚まし。
前までなら、この距離の澪を目にするとうっかり
「澪……」
「もぉ、寝すぎな? 全然起きひんねんから」
「澪……あぁ……」
「な、なんやねん……!?」
私のよく知る優しい澪だと分かって思わず
澪の部屋で起きた時点でおかしいけれど、彼女が優しい世界線というだけでとてつもなく嬉しかった。
「え、
「ちが、違う……よ……」
「え、じゃあ嫌な夢でも見たん? 起きていきなり泣かれたら、さすがにどうしたらいいか分からへんって……」
「ごめんなさ」
「だぅ!」
「っ!?」
澪が叫ぶ――私の口癖を、矯正するために。私が、澪と交わした取り決め。
だめ、だめだめ。泣いてる場合じゃない。嬉し泣きなんて、そんな悠長なことをしていられる状況じゃない。念のため、確認しておかないと。
気力で頭をもたげると、心配そうな澪の顔。
「ねぇ、澪……」
「うん……なに?」
「私と澪って、どういう関係?」
「え? ……え、どしたん、急に」
「いいから、答えてほしい」
「いや、どういう関係って言われても……」
期待のような、緊張のような、どうとも形容しづらい高鳴りを胸に、私は澪の答えを前のめりで待った。私の目力か何かに
「普通に……友達、やろ」
「…………」
とも、だち――……。
胸の高鳴りは。
痛みよりも
友達。
セフレなんかよりよっぽど良い関係性だ。セフレでは芽生え得ない、友情という繋がりがあるのだから。
けれど、
そんな心中が態度に漏れ出たようで、澪は焦りの表情を浮かべた。
「え、あ、ごめん、親友って言ってほしかった!? ごめん、親友! 別に後付けじゃなくて、ほんまに親友って意味で友達って言ってん!」
「親友……?」
「そう、親友! ビーエフエフ!」
ビーエフエフとは、ベスト・フレンド・フォーエヴァーの頭文字を取った言葉で、英語圏で用いられる言い回しだ。もちろんこの言葉は深い友情を示す
このログでは、私と澪は恋人ではない。
なんで。
澪がレズビアンじゃないということ? いや、いくらログが狂ってしまったとしても、そんな根本的なところから書き換わるなんてことはさすがに考えられない。じゃあ、互いに同性愛者でありながら、ただの友達止まり――出会って二年目に突入しておいて? 進展が遅いならまだしも、澪が私を恋愛対象として見てくれていない世界線だったら――……。
不安。
私の顔色を
「澪、ごめん。それじゃ満足できない」
「え、……なんか、ごめん。そんな、泣くほど不満なこと言っちゃって」
「ううん。澪は悪くないよ。悪いのは私」
澪に言っているようで、本当は自分に言いつけたくて。
「私のせいで、こんなことになっちゃったんだよ」
「えっと、……ごめん、どういう、」
「澪、」
いつの間にか、我慢も
見えなくて、よかった。
お
「大好きだよ」
突然友達から愛の告白をされた澪は、返す言葉を決めあぐねて硬直してしまって。
そんな彼女がとてつもなく愛らしく、一瞬理性を手離して唇が重なるまで、ものの数秒もいらなかった。
だけど――今の彼女は混乱に固まってしまっているから
こんなに
私はやっぱり、自分が大好きな愚か者。
「――ロード」
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