インキャラ・ダンジョンズ☆~スキル【アイテム収納】をゲットした俺は認識革命で目の前の【タンパク質】を収納しゴブリンを分解する~

僕は人間の屑です

第1話 弱者


――ずっと…ずっと憎かった。




金持ちが憎かった。



アイツ等は美味いもんたらふく食えるのに、自分は貧乏だったから。物心覚えた時から家畜小屋みてぇな汚い場所で、水道水もまともに飲めない生活だった。






持たざる者と、持つ者…そんな社会が憎かった。



そんな残酷な世界で生き抜くには自分は余りにも非力だから。






強者が憎かった。






こわいんだ。

自分の力が及ばない場所から一方的に傷つけてくるから。






自分からモノを奪う奴が憎かった。






奪われるたびに自分の弱さを知るから。






暖かく…幸せな家庭で……優しい父母に育てられた子が憎かった。




自分は冷たい畳の上で、毎日のように父に殴られているのに……。






弱い自分が憎かった。




なにも…何一つも守れなかったからっ……!!













「……なんだ」




懐かしい夢を見た。まだ幼い頃に父としたキャッチボールの記憶。


しかしそれはすぐに消えた。一瞬の寂しさを覚えつつ、だがそれで良かったと彼はほっとする。なにせ夢の記憶を無理に思い返そうとすれば、蘇ってくるのは大抵ろくな記憶ではなかったからだ。


それであれば全て消えてなくなってしまえばいい。少なくとも歳を追うごとに薄暗くなっていく父の記憶に、彼は安心感に似た感情を抱いていた。


そしてそんな事を考えている内に、彼は先程から自分の耳元で騒ぎ立てる存在のありかに気付く。




「うっせぇなぁ…」




朝方から元気に律動する蝉の鳴き声に彼はかるい悪態をついた。彼は彼らがなぜ鳴くのか、その理由を知っていたからだ。




「なにをそんなに…急いでんだよ……」




これで何度目だろうか。

すでに答えに辿り着いたはずの問いを彼はまた繰り返した。




重たい腕でカーテンを引きはがす。

眩しい火の光が彼の視界をオレンジ色に染めた。






彼はこそばゆい鼻先を指でこすりながら、外の景色を眺める。




「飯…食わねぇと……」





弱き者の孤独な一日が――また始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る