双子・弐
長万部 三郎太
手伝ってもらうぞ
「兄がいなければ、どれだけ清々しいことか
兄がいなければわたしは……もっと……」
わたしたちは双子だが、容姿が似通ったもう一人の“自分”がどうにも馴染めず、
幼少の頃より、いつもこのような妄想遊びをしていた。
自慢のオーディオ部屋、集めに集めたレコードの山、お洒落な服に先輩から格安で譲ってもらった車。兄には付き合っている女性こそいなかったものの、自分には無いものばかりを持っている。
兄の生活ぶりが目に入るたびに、わたしは兄への憎悪を募らせていた。
そのような妄想癖が転じてか、ある晩わたしはもう1人の『わたし』と遭遇した。
彼もまた双子の兄弟が許せずにこちらの世界へと力を借りに来たらしい。
我々はすぐに意気投合し、もう1人のわたしは用意していたという殺害プランを説明した。
「手順はこうだ。
別の世界からきた俺が、兄を殺害して『なり替わる』。おまえは万全を期すため、その時間帯に彼女と適当なアリバイでも作ってくれればいい」
おどろくほど計画はスムーズに進んだ。
もう1人のわたしは兄にすり替わると、わたしの要求通りにレコードや車など欲しいものをすべてくれた。彼女とのドライブに清々しい毎日。これでわたしの生活は安寧を迎えたかに思われた。
兄が入れ替わってしばらく経ったある晩。
兄……つまりもう1人のわたしが等価交換のように、こう持ち掛けてきた。
「こっちの世界では俺たちの計画通りになった。そうだろう?
次は俺の番だ。お前にも“弟”を殺すのを手伝ってもらうぞ」
わたしは驚いてこう尋ねた。
「弟? 兄のほうではないのか?」
もう1人のわたしだと思っていた男の背後には、始末したはずの兄が立っていた。
(すこし・ふしぎシリーズ『双子・弐』 おわり)
双子・弐 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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