ジーク視点 このぐらいの時期から妻がそわそわし始める

 妻、アイナ・ラティウス・シュナイフォードは僕と同じく23歳。

 長く美しい金の髪に、水色の瞳。

 この国の女性としては少し小柄で、顔つきは10代の頃とあまり変わらない。

 僕の方は身長高め、見た目も普通に20代前半の男……という感じだから身長差はそれなり。年齢もいくつか離れているように見える。

 流石に、成人した男と未成年の女の子の夫婦と間違えらることはないと思うけれど。

 ……この国の成人年齢が20歳とかだったら、ちょっと怪しかったかもしれない。


 ラティウス公爵家に生まれ、王族の僕に嫁いだアイナ。彼女は、物心つく頃には既に僕のそばにいた。

 幼児の頃の記憶なんていまいち思い出せないけど、僕とアイナが出会ってから20年ほど経っていると思う。

 だから、彼女はこの国で生まれ育ったのだと断言できる。外国に長く滞在していた経歴もない。

 そのはずなのだけど、アイナは何故か別の国の文化に詳しい。

 話を聞こうとしてもどこか遠いところと誤魔化されてしまい、詳しいことは教えてもらえない。

 僕にはいまいち馴染みのない米や、しょうゆという調味料が好きだったりもする。

 妻の異国知識や好みがどこから来ているのかよくわからないけど――本人が楽しいなら、それでいいかなという気持ちだ。


 温かい飲み物が美味しくなってきた……を通り越し、寒さを感じるようになってくる時期。このくらいから、アイナはそわそわし始める。

 クリスマスケーキの手配、餅つき大会の準備、こたつの設置……など、やることがたくさんあるようだ。

 彼女に習って僕もそう呼んでいるけど、僕はクリスマスがなんなのか知らないし、餅つき大会はどの辺りが大会なのかちょっと気になる。

 こたつに関しても謎が多いけど、一度入ると出られなくなる恐ろしい暖房器具であることはわかる。

 彼女がこの家に持ち込んだ冬のあれそれに関して考えてみても、やっぱりよくわからない。

 でも、お互い楽しいし、誰かが辛い思いをするわけでもないのだから、止める理由もない。


 僕ら夫婦の部屋にて、アイナが真剣な表情で呟く。


「二人で食べる用の小さいのと……みんなで食べる大きいやつ……。できれば苺はみんなに行き渡るように……」


 これは多分、クリスマスケーキの話だ。

 みんな、というのはこの屋敷の使用人たちのことだろう。

 苺のことまで考えて気遣いはばっちりだ。アイナの中で、ケーキに苺が乗っているかどうかは重要なポイントらしい。

 たしかに、隣の人のケーキには苺がついているのに自分の分にはなかったら、がっかりする……かもしれない。


「ねえ、ジーク」

「なんだい、アイナ」


 ジーク、というのは彼女だけが使う僕の愛称だ。

 他の人には略させず、ジークベルトと呼んでもらっている。


「二人で食べる用はラズベリーのソースを使って……。とかでも美味しそうだよね」

「そうだね」

「チョコのプレート、煙突がついた家の形のクッキー……。二人分の大きさだとそんなに色々乗せられないからちゃんと絞って……」


 アイナはまた思考に沈んでいく。

 うん、やっぱりケーキの話だった。

 君が楽しそうで何より。

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