季節が色に染まるまで

南まる

第1話 輪っか

 「キーンコーンカーンコーン」


 授業終了の合図が学校に響き渡ると、みな一斉に筆記用具を筆箱に仕舞う。教師がまだ話しているではないか、と僕はいつも思うのだが、この高校の生徒たちはどうやら僕とは違うようだ。授業中はみな真面目に授業を受けている振りをしているのだ。教師の話に頷いてみたり、教科書にマーカーを引いてみたりして。その演技が、この合図とともに終わったのだ。

 授業が終わると、今度はリア充の振りが始まった。男子は、教室に大きな輪っかを作って盛り上がっているようだ。女子は、机の周りに小さな輪っかを作って作戦会議をしているようだ。時間が経つと、小さな輪っかは増えていった。

 トイレに行こうとして、僕は教室の外へ出た。他のクラスの様子を窓からこっそり覗き見すると、どのクラスにも同じような輪っかができていた。また、どのクラスにも僕のような輪っかの外の住人もいた。輪っかを作っている生徒たちは、休み時間に輪っかを作ることが青春であるとどこかで学習したのだろうか。学習した青春に少しでも近づくために、大袈裟に大きな声で笑ったり、けんかをしたりしているのだろうか。青春の教養がない僕には、よく分からないことだ。青春を学習した人々の目に、こんな僕はどのように映っているのだろうか。

 

 「キーンコーンカーンコーン」

 教室に社会科の先生が入ってきた。今度は眠そうな演技が始まった。僕も彼らの真似をして、大きな欠伸をしてみる。そうすると、僕も輪っかの中の住民になれた気がした。

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