なんでも答えを教えてくれる俺の専属能力(美少女)
青山凌
俺の理想の異世界転生は誰がどう言おうとファンタジーじゃない
――ふう、と一息吐いて俺はシャーペンを机の上に置いた。
テストの一時間は馬鹿みたいに長い。長過ぎる。
なぜなら俺は退屈と手持ち無沙汰を悟られないようにその時間を延々とやり過ごさなければならないからだ。
手元の解答用紙には当たり前だがもうすでにびっしりと答えが埋めつくされている。
そう、〝答え〟。
これは紛れもなく正しい〝答え〟なのだ。
なぜならこれは俺の専属能力が絶対として提示してくれる解。
間違えようがないし、間違っていた試しもない。
ちなみにこの専属能力っていうのはその人にのみ発現する特有の性質を持った能力のことで、本来、この世界においては物凄くレアレアのレアなものらしい。
おっと……恐らくこの世界については多少の注釈が必要だろう。
なぜならぱっと見、ここは平凡な高校の教室。
異世界とは言ってもいわゆるみんなが思い描く異世界ファンタジー的な剣と魔法の世界じゃない。
でも、異世界なんだなーこれが。
俺はさ、思うわけ。異世界って言ったら絶対ファンタジー世界だし、みんなそういう世界観に憧れてるってことなんだろうけど、俺は異議を唱えたい、と。
俺は剣と魔法の世界より、現代異能バトル的な世界観が大好きだ!!!!
異論は認める。好みは人それぞれだ。
だけど俺はせっかく異世界転生して自分好みの異世界で楽しくチートやれるってんなら、やっぱり現代異能バトル的世界観だよねと思った。
だからカミサマにその要望をこんこんと説明して説き伏せた。
カミサマ――例の如く、うっかり手違いで死なせちゃった人間を詫び転生させてくれるありがたくも非常にドジっ子でお茶目な存在――は、やはり例の如くうっかり手違いで死なされちゃった人間である俺に、「やっぱり圧倒的おすすめはファンタジーだよ〜」とファンタジーを推してきたが。
(そう。俺は一度死んでるんです。全く、カミサマのドジっ子)
「いやいや俺はSA○のアニメに激烈に痺れて、とある学園都市ならどんな能力を開発されちゃうのが俺にとって最適かって日夜真剣に妄想してきたオタクなんですよっ!? やっぱ世界観は現代がいいんですとにかく現代異能バトル的な異世界でお願いします!!!!」
と、懇願した。精神と時の部屋的な空間で恐らく半日くらい熱心に説得したら、やっとカミサマも承諾してくれた。
そしてお約束の能力授与。
「……で、君はどんなトクベツが欲しいんだい? 膨大な魔力でも最強の剣技でもなんでも……って、そういうのは世界観的に違うんだっけ? あぁでもその現代モノっていうのにも魔法みたいにエネルギーを操る人間がいるっていう話だから……。まぁ、さっそく決めちゃってよ」
そして俺はこの十五年というオタク人生において俺にとってベストだと考える最高にクールでイケてる専属能力を授かることとなる。
「俺のトクベツな能力……それはっ! なんでも答えを教えてくれる俺専属の全知全能の美少女が傍らに欲しいですっ……!!!!」
***
というわけで、無事お望みの現代異能バトル的異世界に転生した俺は、0歳の誕生時点から再び人生を再開した。
そして能力が開花した15歳の誕生日に上記の経緯を突然思い出した。
その後遅ればせながら〝新・高度養成特区高等学校〟――簡単に言うと特殊な能力を持つ少年少女達を集めた特殊な研究区域の高校――に慌てて出願し、入学を果たす。
とは言え、わけあって俺は〝ステージ0〟。これはいわゆる能力を持たない人間に冠せられるランクだ。
あれれ、色々おかしいんじゃないですかー? って、そう思うだろう。
いやいやこれも計算の内。俺はこういう現代異能バトルモノにおいて、かたくなに感じている確固たる意見がある。それは……。
いやいやどう考えたってバトルする側より、それを第一線で研究したり技術的にサポートしたりするポジションのほうが圧倒的にカッケェじゃん!?
理系って最高じゃん!?
頭脳明晰って言われてみたいじゃん!?
頭脳は裏切らないし知性を感じるし、そういう知性を感じる職業に就く若き研究者(美少女並びに美女)と一緒に研究とかしたいじゃん!?
あぁ〜リケジョ〜白衣〜好きだァ〜!!!!
というわけで、俺の能力はあくまでもただ生まれ持った優秀で賢いこの頭脳だけというていでこの〝新・高度養成特区高等学校〟に入学を果たした。
俺は確かに〝ステージ0〟だ。
が、同時に密かに隠し持つこの専属能力ゆえに、この学園有数の秀でた頭脳の持ち主としてその名を轟かせている。
そんな俺だからこそ、こんなテストに小一時間も時間を費やすなんて退屈にも程があるのだ。
まぁ、その答えを教えてくれるのは俺のトクベツな専属能力の彼女であって俺は別に賢くともなんともないんだけども。
俺は退屈し過ぎて、答案用紙の端に一言書き付ける。
――ハー、なんか面白い話して。
すると誰もいるはずのない空間に一人の美少女が顕現する――とはいっても、それは俺にしか見えない専属の美少女。彼女の声は俺以外の誰にも聞こえないし絶対に認識も出来ない(しかし望めば任意の条件で存在出来るらしい。めちゃくちゃ都合がいい)。
彼女は俺の耳元で吐息っぽい理知的な声色で優しく呟く。
『
そう言って、ハーは
空の存在――とはいえ、俺にはハーは圧倒的な金髪巨乳色白ロングヘア美少女として、この〝新・高度養成特区高等学校〟の制服を身につけているように見えている。
そしてハーはぴっとりと俺の肩の上に小さな頭を乗せて、耳元へ甘やかに囁きかける。その物理的な重さや体温を俺は感じることが出来るのだ(我ながらめちゃくちゃ都合がいい設定)。
『久道くん。待ってて下さい。今〝あなたの頭脳〟は全身全霊を込めて最高に面白いお話を創作しています。ただ、まだ校閲中なだけです』
そうして〝俺の頭脳〟ことハーはテストが終わるまでずっとあぁでもないこうでもないと俺の肩の上に頭を預けて、耳元でくすぐったく囁き続けた。
全知全能でなんでも答えを教えてくれる最強の専属能力……さすがだな、と俺は内心で戦慄を覚える。
なにせ俺が心の奥底で常に欲してるであろうものをかくも自然に彼女は提供してくれちゃっているのだから。
俺はなにも本気で面白い話を要望したわけじゃあない。
ただ、この退屈な時間を楽しく暇つぶし出来ればそれでよかったわけで。
そして、そんな俺の内なる要望を叶えたハーのやり方はこうだ。
さりげなくあざといドキドキスキンシップを維持してくれつつ、可愛い声で全知全能な彼女が一生懸命拙いオチなし話を囁いてくれるというギャップ萌え。
そして最後にそんなオチなし話にちょっと恥入ってそれを誤魔化すように始まった筆談と囁きでのしりとり。
あれはなんていうか……エッチな感じがして個人的にぐっときた。
個室、つまびらか、駆け落ち、痴態、色仕掛け、傾国の美女……のくだりは最高だったなぁ……。
という具合に。
俺はかなり満ち足りた気持ちで残り時間を満喫することが出来た。
あーー、やっぱ俺の理想の異世界転生はこういうのだよなぁ。
人々から表向きでは頭がいいとちやほやされつつ、その頭の良さで特別な研究者になったりそういう人達とお近づきになれたりして、困った時には俺専属の美少女が答えをスッと教えてくれちゃうっていう。
俺のスタンド最高。俺天才。
俺はとかくにやつかないようにだけ気をつけて、今日もイージーなテストをやり過ごすのだった。
でも多分、ちょっとニヤついてただろうから、必死で下向いてた。
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