第52話 この先でゴブリンが湧いて被害が出ているらしくて


「貴様ら、この先になんの用だ」


 向こうから絡んできた。



「この先でゴブリンが湧いて被害が出ているらしくて、状況確認と必要なら炊き出しとか?」


「ポーターだろ?」


「補助職とはいえD級ですからね。ゴブリン数匹程度ならなんとかしますよ」



 いぶかしんでいる。結構警戒されている。ここでダメ押しだ!



「そのゴブリンなんですけど揃いの鎧をつけて組織立って動いてるようなんですよ。

 もしかしたら上位種が率いている可能性もありそうで。


 あ、先日向こうの村にも集団がひとつ迷い込んできましてね」



「!! 貴様ぁっ!!!」


 やっと比喩というか皮肉に気付いてくれたようで。

 マップ上の反応が『警戒』から『敵対』に変わる。


(アルファ)

(はい)


 帝国兵が膝から崩れる。

 さすがマスターウイザードの〈睡眠スリープ〉、俺が唱えてもこうはならない。




 殺す気は無いが逃がす気も無い。

 さてどうしてくれようか。



〈箱庭〉に地下空間を作る。宮殿の下は嫌だから敷地の外の空き地に。


 磨かれた大理石で直径20mほどのすり鉢状空間を作る。

 簡単に〈不壊属性〉がつくのはダンジョンっぽいなあ。

 壁に〈潤滑油〉を霜状に薄く付着させる。これも〈自動修復〉で復活する、はず。



 部屋に〈自動空間拡張〉がつけられるのでつけておく。

 この流れで〈体力吸収〉〈魔力吸収〉を最大効率で乗せる。


〈魔力吸収〉はMPゼロまで吸い尽くす。魔力切れのキツさは時にひどい二日酔いに例えられる。

 そんな話を聞くから、魔力切れを知ってる自分としてはアルコールは怖い。


 一方、〈体力吸収〉はHPを吸うけど1残す。吸い尽くされてそれで死ぬことは無い。

「HP1、あと一撃で死ぬとはどんな状態か」議論がまた熱くなるね。



 たぶんここに放り込まれる時は複雑骨折してるだろうから、〈怪我治療(微弱)〉もつけておく。

 あと親切心で〈人物鑑定(罪状)〉も。


 部屋全体に〈闇〉を付加してあるが、〈鑑定〉の結果は相手の姿と共に判別できる。

 視覚に入るのはゲームっぽく? 対象に張り付く形で見えるけど情報自体は意識に直接飛び込んでくるようで、距離関係なく認識・情報の処理ができる。


 真っ暗な闇の中、自分の手を見て自分が行ってきた罪の深さを心に刻んで欲しいという俺の優しさ。



 部屋の中央、すり鉢の底にセーフエリア御用達の『回復の泉』を。

 無くてもいいんだけどね。年単位で水も食料も無く放置されても死なない死ねない。

 ただ普通におなかは空く。命に関わるところまで行ったら〈箱庭〉が自動回復してHP1をキープしてくれる。


 出るもの出しても、しばらく周囲に不快を撒き散らすだけで〈自動修復〉で勝手に掃除してくれる。




 こんな感じで『反省部屋』を作って、第一号を身ぐるみ剥いで放り込んでみる。

 半日もすれば、〈睡眠〉魔法から起きる頃にはHPMP全部すっからかんになっているだろう。


「鼻をつままれても見えない」闇の中、自分の罪状だけ見つめてしばらくゆっくりと反省していてほしい。


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