アリスよ。ただのアリス
町から出て、森まで走った。
俺たちは足を止め、息をつく。
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがと」
「いやー……」
何やってんだ俺。
よくよく考えたら国家権力に喧嘩売ってんじゃねーか。
「大丈夫?」
「あ、ああ……つかなんでトルーパーなんかに追われてたんだ?」
俺は少女に聞いた。
「それは……わ、わからない、かなー……」
「ふーん。まあいいや。なんか色々どーでもいいや考えるだけ無駄だわ」
「あんた、なんか色々大変そうだね……」
ぐったりする俺に彼女は同情しているようだ。引いている、とも見える。
「まーな。
そういやお前、名前は?」
「な、名前?
うーんと、アリスよ。ただのアリス」
「タダノア・リスか」
「うん違う。君は?」
「……ジャックでいいよ」
アリスとくるならジャックだろう。
決して兵士に喧嘩売ったし名前ごまかして逃げようとしてるわけではない。
断じて。
「ふーん。まあいいけどね。
ねえ、それより遊びに行きましょうよ、ジャック」
「いいけど……兵隊さんどうすんだ」
「だから、兵隊さんとあそぶのよ」
「……」
この女、やばいメスガキなのでは?
◇
「こっちに来たはずなんだが……」
「ここは森だ、危ないぞ。一刻も早く……」
宇宙トルーパー達がやってきた。
彼らが話していると、そのうち一人が一瞬で空中に跳躍する。
……違う。そう見えたほど鮮やかに、宇宙トルーパーは逆さに宙吊りにされたのだ。
罠だ。
シュミット兄さん直伝、森にある材料だけで作れる害獣退治用ブービートラップ。
彼をとらえたのはくくり罠だ。
「おい、大丈……」
慌てて助けようとした宇宙トルーパー。
「うわっ!?」
彼は落とし穴に落ちた。
「やっぱりね、あいつら原始的トラップに弱いわ」
「そりゃ予想してなかっただろうし」
木の上で、俺とアリスはその光景を見ていた。
「でもジャックすごいわね、あんなの作れるなんて」
「単純なやつだしな」
「でも子供にはふつー無理よ」
「そう思っててやらせるアリスお前は何だ」
「てへ」
有り余る魔力で肉体強化したり、魔力弾などを使ったりした結果だ。
だけど……
「兄さん達ならもっとうまく簡単にやったよ」
シュミット兄さんならもっとえげつない罠を作った。
ケルナー兄貴ならもっと深い穴を掘っただろう。
ユクリーンなら魔術だけでトルーパーたちを翻弄出来た。
俺に出来るのは、アリスに命じられた単純作業をなんとかこなすだけ……
「こんなの、辺境なら誰でも出来る」
「いや無理でしょ」
何を言ってるんだろうアリスは。
普通にだれでも出来る程度だぞ。
「目の前で九歳の妹が宇宙スライムを魔術で煮て干からびさせる様を見てないからそういえるんだ」
「それは……すごいわね」
数十メートルはあったからな。
俺が言うのもなんだが妹は天才だ。
同時に天災でもあるけど。
「結局、こんなのも子供のいたずらに大人が油断して慌ててるだけだよ」
「けっこうガチで逃げてるけど。
あ、潰れた」
トルーパーが転がる丸太に潰される。
宇宙テレビのバラエティ番組でああいうのあったな。
ターケージ・キャッスルだっけ。
「つきあいいいんだよ。それが大人だろ」
「そうかな……」
流石に大人の兵士が、俺たちみたいな辺境のガキにいいようにされてばかりではない。
「見つけた!!」
トルーハーが俺たちを見つけた。
潮時だ。
謝ってごめんなさいしよう。今こそ子供のやったことです作戦だ。
だが、その時……
「!! 逃げて!!」
アリスが叫ぶ。
トルーパーの後ろに巨大な影が見えた。
その巨大な獣は、宇宙トルーパーを殴り、ふっとばした。
巨大な獣だ。
山羊、ライオン、狼の頭。尻尾は蛇。
「な……宇宙キマイラ」
「なんで……!?」
危険な宇宙モンスターだった。
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