何だ、何なんだお前は!


『ふはははは! 面白い事をしているじゃないか、友よ! 及ばずながらこのオルトリタール・ルム・リギューラも助太刀するぞ!』

『せんぱいの可愛い娘さんを虐めるとか、絶対許せませんからねーっ!』


 元・皇太子オルトリタールと元・聖女アリシア・ルインフォードの声が響くと共に、閃光の雨が大地を穿っていく。

 そして戦闘機が降下し、銃を撃つ。あるいは船から冒険者や賞金稼ぎ、狩人たちが降下していく。

 対するドラゴニアン達も慌てて臨戦態勢に入る。

 ドラゴニアン、それは竜の眷属とも呼ばれる巨大な力を持つ人種である。

 人の姿あるいは半人半竜の姿から竜の姿へと変化し、宇宙空間すら飛び回る。

 しかし――


「殺せ殺せ殺せぇっ!」

「よくも俺たちの故郷をォッ!」

「ヒャッハー竜狩りだあッ!」


 人間たちは止まらない。次々とドラゴニアンたちを倒していく。

 いくら強靭な肉体を持つ彼らでも多勢に無勢ではどうしようもない。

 やがて彼らは気づく。自分たちが狩られる側なのだと。


「クソっ、やってられっかよ!」

「遊んで暮らせるって話だったのに……」


 あわてて逃げ出す個体もいる。

 だが……


「ど・こ・へ・行くのかなあー?」


 ユルグの父、ヘイタルがドラゴニアンの尻尾を掴む。

 逃走のため、数十メートルサイズのドラゴンの姿になって飛翔しようとしていた、その尻尾を掴んでいた。


「なっ……!?」


 ドラゴニアンは動けない。


 魔術――ではない。単純な、エーテルによる身体強化。鍛え上げた肉体の膂力である。


「ば……バケモンか!?こっちはドラゴ――」

「ふんっ!」


 彼はそのままヘイタルに引き戻されるようにして墜落した。


「ぐはっ……!」

「逃さねえぜー? おめーらが逃げれば逃げるほど被害が増えるんだからよお」


 そう言ってヘイタルはにやりと笑った。


「助け……ひっ」


 ドラゴニアンが助けを求めたその視線の先では。

 彼よりも巨体のドラゴニアンが、ケルナーによってちぎられていた。


 びりっ、とかべりっ、とかそんな音をして巨体がただの肉塊になっていた。


「俺たちの家族に……手ぇ出したらどうなるか……」


 返り血を浴びた顔で笑うケルナーの顔はまさに悪鬼羅刹のようだった。

 その光景を見た他のドラゴニアンたちは恐怖で動けなくなる。

 もう戦意はない。ただ殺されるだけの獲物でしかない。


「潰す」


 ケルナーとヘイタルは、そう言って笑った。



 彼らだけではない。

 この話を聞いて集まった宇宙冒険者、宇宙賞金稼ぎ、宇宙狩人たちが次々とドラゴニアン達を潰していく。


 おかしい。

 ドラゴニアンは、宇宙最強である宇宙ドラゴンの眷属なのだ。

 宇宙ドラゴンは宇宙戦艦の攻撃をものともせず、惑星すら破壊するという。


 それが、何故――。


『それは、君たちが宇宙ドラゴンの眷属であり、宇宙ドラゴンではないからだ』


 空中に投影された映像から、シュミットが語る。


『ドラゴニアンは宇宙ドラゴンの――亜種にすぎない。かつて人と交わった竜の子。

 人と交わったが故に、若い個体から知性知能が発達し、人の姿を取れる。

 しかしそれは決して、ドラゴンより優れているとは限らない――ということだ。

 無論、ただの人間より確かに個体としては強いだろう。

 だが、ドラゴニアンは百メートルを超える姿に「変身」出来たとして、それはあくまで擬態だ。

 同サイズの宇宙ドラゴンと比べると足元にも及ばない――弱者なのだよ』


「…………ッッッ!!」


 その言葉にファーヴガンは絶句する。


 だが、まだ。まだだ。

 ここさえ切り抜ければ――。


「逃がさねえよ」


 ユルグがファーヴガンを見据えて言う。


「お前だけは逃がさねえ。絶対にだ」

「ま――待て、待ってくれ! これは何かの手違いだ、そうに違いない! きっと誰かが仕組んだ陰謀だ! 我々は被害者なんだ!そうだろう!?」


 必死に叫ぶファーヴガンを無視し、ユルグは言う。


「黙れよ。さっきも言ったはずだ、戦争だってな。

 辺境の戦争はな、和平も停戦も講和もねえ。どっちかが潰れるかだよ」


その言葉にファーヴガンの顔が憤怒に染まる。


「ふっ……ふざけるな猿があああああ!!!」


 ファーヴガンの叫びとともに、彼の身体が膨張していく。

 いや違う、変化しているのだ。人の形を捨て、竜の姿に。


「死ねぇええええええ!!」


 その拳がユルグを襲う。だが……


「――なっ!?」


 ユルグはその拳を、交差させた両腕で受け止めていた。

 全長20メートルを超える巨体の拳を、その小さな人間の身体で。


「パパ……!」


 娘の声を背中に受けながら、ユルグは言う。


「軽いんだよ。俺はな、この一週間ずっと耐えてきた。

 すぐにでもすっ飛んで行きたいのを必死にこらえてな……わかるか?

 もし、兄さんたちの推論が間違ってて、てめぇがユリシアに手を出してたらとか思うと……気が狂いそうだった。

 だが耐えた。兄さんとフェリスを信じて耐えた」

「な……何を言っている……!? 何だ、何なんだお前は!」


 ファーヴガンは理解できない。


 なぜこんな小さい猿が自分の体重を支えられる。何故潰れない。


「知ってるかトカゲ野郎。エーテルってのはな、生命力と精神力に連動している。

 暴発しそうになる感情、それを必死に抑える……。

 魔力制御の訓練って、そうやるんだってな」


 必ずしもそうとは――限らない。だがその方法もあるのは事実である。

 そして。

 ユルグはその手に。小さな武器を手に取る。

 勇者の杖アエティルケイン。ユルグが、魔力制御の技術が足りず、使えなかった武器。


「だから――そこだけは感謝してやるよ。 

 てめぇへの怒りが、こいつを可能にした」


 そして。


 光の刃が灯る。


 強力で強大なエーテルの光。


「てめぇは――俺の娘を泣かせた。俺の娘の、肉親を、本当の親を殺した!

 遺言すら残させねえ、ただ死にやがれ――――!!!!!」


 そしてそれを、裂帛の怒りと共に――振り下ろす。 


 ファーヴガンはその巨大な光刃によって両断された。



 ファーヴガンは思う。

 なぜこうなってしまった。


 ああ、そうか。

 ファーヴガンは今更ながらに悟った。

 大地に降り注ぐ光の雨と、響き渡る爆音、同胞の悲鳴を聞きながら。



 自分たちは、決して手を出してはいけない者に手を出してしまったのだと――

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