第22話 外伝~ひまわりの眼差し②~
日向葵は、ある日。同級生で同じクラスの真壁万里の、衝撃的秘密を知ってしまった。
(腐女子だァー!!)
日向は立ち尽くしたまま、真壁へと驚愕の表情を向ける。
その時、彼女が自身の方へと顔を振り向かせる。日向は慌てて、本棚の陰に身を隠す。
何故隠れているんだろうか……と頭に浮かぶが、こういう秘密を他人に知られたと真壁が知ったら絶対に良い思いはしないだろう。
日向はひっそりとその場から、本屋のレジへと向かって行った。
――BLか……さすがに、BLは読んだことないんだよな……。
本屋からの帰宅後、日向は考えていた。
彼が良く読むのは、自身の兄が良く購入する少年漫画。そして、誰にも言わずに趣味としている少女漫画である。
(クラスメイトに……しかも、男子に自分が腐女子とか。きっと知られたくないだろうしな……)
日向は小学生の頃、母親が持っていた少女漫画に傾倒していたことがあった。
面白くて感動して、それを無邪気に友人に話して薦めたくなった。
「お前、男のクセにそんなん読んで女子じゃん!」
だが、返ってきたのは無邪気だが無情な言葉。
それから暫く、日向はクラスで“葵ちゃん”と呼ばれ揶揄われた。
クラスメイト達に悪意は無く、イタズラ心の方が強かったのは理解していたが。それでも日向にとっては、傷を帯びた思い出であったのだ。
(……読んだことねーけど、BLって面白いのか?)
脳裏に蘇ってくる過去を振り払うように、日向は愛用する漫画サイトにアクセスし。ボーイズラブのカテゴリページを開いた。
(あっ、今日見かけた漫画あった……しかも、期間限定中で二話無料で読めんじゃん!)
日向は『俺専属のケダモノ君』というタイトルページをクリックし、無料立ち読みを始めるのであった。
***
(夜更かしして……配信されている分、全部読んでしまった……!!)
日向は寝不足で痛む頭と、力が上手く入らない瞼に悩まされながら。教室の机に突っ伏していた。
「日向どうしたー? エロい雑誌でも見て、夜遅くまで起きてたのか?」
「……うるさい、久坂部」
突っ伏す日向の耳元で、久坂部が容赦なく大きな声ではしゃぎ回る。
(エロい雑誌じゃなくて、エロいBL漫画見てたけど……死んでも言えねー……)
「冷たいな~!」
ふざけて拗ねた態度を取る久坂部であったが、眠くて辛い頭に久坂部の声が響き。ぶん殴って黙らせようか……と、乱暴なことを本気で考える日向。
ふいに、彼は視線を真壁の席へと向ける。彼女はいつも通り、着席して一人静かに読書をしていた。
(あれもBLなのかな……)
もし、そうだとしたら……いくら包装紙のブックカバーをしているとはいえ、学校で性癖全開の作品読めるなんて強メンタルだな……。
自分が少女漫画や女性が夢中になるような恋愛小説なんて持ってきた暁には、誰に何を言われるか……と、日向は思った。
ただ好きなだけなのに。こんなに気を遣って、隠して生きていかなきゃいけないなんてなぁ……。
昨日読んだ漫画の内容は、トップアイドルの少年が。あるきっかけから、同じクラスの男子に恋をして。段々と関係を深めてく……というものだった。
あるきっかけ――それは、アイドルとして求められる理想像の自分を私生活でもずっと演じていた彼が。一人で素の感情をあらわにしているところを、そのクラスメイトの男子に見られ。しかし、それを否定されるどころか優しく受け入れて貰ったことだ。
『誰だって、弱い部分も隠したい部分もあると思う。俺の方が、君よりも沢山たくさんあるよ! 誰にも言ったりなんかしないし、幻滅なんてしないから安心して』
アイドルである少年に、クラスメイトが言っていた台詞。
そのシーンが、とても温かくて優しくて。クラスメイトの男子の微笑んだ笑みがとても美しくて、思わず涙が静かに流れてしまった。
(真壁も、あの漫画読んでんのかな?)
話してみたい気持ちが生まれつつ、どんな風に声なんて掛けたら良いのか思い浮かべることは出来なかった。
***
「――ねえ、真壁さん。ちょっと良い?」
放課後。帰り支度をする真壁に、クラスメイトの瑞野という女子が声を掛ける。
(えっ、なんで瑞野!?)
瑞野は、少し前までは久坂部が目を付けていた女子で比較的派手めなグループに属していた。
そんな彼女が、クラスでいつも一人もの静かに本を読んでいる真壁に何の用が……そう疑問を巡らせる日向は、思わず二人の後を追いかけてしまうのであった。
「この前は本当にありがとう!」
何か悪い展開が起こるのではないかと懸念しながら、日向が校舎裏へついて来ると。瑞野の嬉しそうな声と笑顔が弾ける。
「いや……別に、そんなわざわざお礼言われるようなことは……」
「いやいや! 本当はいの一番に真壁さんに報告してお礼言いたかったし! けど……なんか、恋愛相談したなんて他の奴らにバレるの嫌でさ。遅くなってごめんね」
瑞野の言葉に、真壁は笑みを浮かべて首を横に振り。
「瑞野さんの恋が上手くいったなら、それだけで本当に良かった」
そう笑顔を咲かせた。
その笑顔は、日向が昨晩見た。漫画のシーンを彷彿とさせる刺激を胸に与え、心臓の鼓動を加速させた。
「真壁さん優しい! ねえ、今からさ。一緒にアイスでも食べ行かない? お礼に奢るし!」
「えっ……いや、悪いよ。そんな……」
「いーからいーから!」
戸惑う真壁を余所に、瑞野は彼女の腕に自身の腕を絡めて歩き始める。こちらに歩いて来る二人に、日向は「ヤバっ」と身を屈ませるが……。
「何してんの、日向?」
あっさり見つかってしまうのであった。
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