第5話 外伝~友人Aは空気を読む①~

旭陽太の友人Aこと、空井そらい英樹ひできは困惑していた。

それは、前話(第4話)の数十分前のこと……。


「俺、日向のこと……好きみたいなんだ」


大学で出来た友人、旭陽太の突然のカミングアウト。

まず、友人の好きな人の告白。その時点で驚愕必須なことであるにも関わらず、相手は可愛い系の容姿を持つとはいえ正真正銘の男子。

どう反応をすれば良いのか困惑するに決まっていた。


「そ、そうなのか……陽太って、可愛い系が好みだったんだなぁ~!」


とりあえず、当たり障りの無さそうな言葉を選択する空井。

彼は見た目のチャラいファッションが偏見を抱かせてしまうのだが、実際はこの装いは大学デビューで。中身はかなり平均的な男子であった。


「やっぱり……変、だよな。男の癖に、男が好きなんて……」


変、という認識を抱くよりも先に。


(いや、そんな大事な秘密。俺に話しちゃって大丈夫なの!?)


という困惑の方が、空井には強かった。


「いっ、いや! 変とかじゃねーよ!? ただ、急にカミングアウトされてビックリしただけっつーか……」


俺らまだ、会って半年くらいしか経ってなくね!? と、空井は内心でハンパ無く戸惑っていた。


「今時、男とか女とか。結構、重要じゃなくね? 何なら、男同士の恋愛ドラマとかも普通にやってるし!」


明るく言うが、空井は脳内で旭を傷つけない言葉選びに必死であった。


「あっ、まあ! リアルとフィクション一緒にすんのも違ぇけどな!」


こういう事柄は、とりあえず黙り込んだら相手を傷つける可能性が高い。

テキトー過ぎる言葉を選ばないように気を付けつつ、旭の気持ちが軽くなるようなことを言わなくては……空井はヘラヘラとした笑みを顔に象りながら、内心ではオーバーヒートしそうな程に頭を高速回転させる。


「……ありがとう、ヒデ」


すると、旭の口からそっと言葉が紡がれた。


「俺、人を好きになったの初めてでさ……どうしたら良いとか分かんねーし、相談する相手もいなくってさ……」


旭は少し照れたように、気まずそうに。


「ヒデになら、相談出来っきかな……って思ってさ」


そう言うと、「急にごめんな」と。旭は少し顔を俯かせる。


「なんだよ! 陽太、俺に遠慮なんてする必要なんてねーんだぞ!」


空井は明るい声で、旭の肩に馴れ馴れしく腕を回した。


「恋愛のことなら、この恋愛マスター。英樹兄さんにまっかせなさーい!」


まだ出会って半年、長いとは言えない付き合いにも関わらず。自身に大切な恋愛相談をしたいと思ってくれた旭の不器用な気持ちが嬉しくて、空井は浮かれながら彼へと告げる。


「じゃあ、まっ! とりあえず、食堂行こうぜ! 早くしねーと、飯食いそびれちまうよ」

「……そうだな」


そう言葉を交わし、二人は少し晴れやかな気持ちで食堂へと歩き始めるのであった。

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