恋するウサギの守り方

@tonari0407

赤い目のウサギを見つけました

『好き』何て言ってない。

 勿論『告白』なんてしていない。

 でも俺には小動物系の彼女がいる。


 彼女はほぼ毎日『さっくん、好きっ』と笑いかけてくるんだ。


 そんな彼女のことは俺も好き。


 でも絶対そんなことは言わない。そういうの柄じゃないから。

 言ったらきっと喉が焼けて痛くなる。たとえ要求されても言ってはやらない。

 そういうのは安易な言葉じゃなく行動で示すもんだ。


 これは俺と彼女が付き合うまでの話。


 どこで俺が彼女を好きになって、どこで彼女が俺を好きになったかわかるかな?


 ああ、俺には未だにわかんねー。



 ○○○



 中学校の教室内をぴょんぴょん飛び回る彼女は、さながらクラスのマスコットだった。


 華奢で小さい身体は小学生にも見える。


 特別美少女でもないが、不細工でもない愛嬌のある顔。柔らかそうな髪、くるくる変わる表情に屈託のない笑顔。


 その口から出てくる言葉は決して不快感を与えない。悪口は言わないし、無邪気な顔で人を褒める褒める褒める。


 姉御肌の女の子や先輩、先生からは可愛がられていたし、密かなファンの男もいたと思う。

 そんな俺もその1人……――ではなかった。


 彼女の好意が何処に向いているかなんて、分かり易すぎてクラス中の人間が知っている。

 部活の先輩、理科の先生、あとは……同級生だっけ?


 興味がなかったからあまり覚えていない。だってそんなのは何年も前のこと。



 ◇



 でも、駅で彼女を見つけたときはすぐ分かった。全然変わっていなかったし、思い切り泣いていて目立っていたから。


 明らかに怪しげなおっさんが彼女に近づいて行ったから、俺も行かざる得なかった。

 性善説を本気で信じているような頭の中身が変わっていないと危険だ。


「きみ――」

 彼女の肩に手をかけようとするおっさんと彼女の間に割り込み、ギロリと睨み付ける。


「俺の連れに何か? 」

 少し声に重みを持たせてやった。気弱なおっさんは怖じ気づいたのか立ち去っていく。


 待ち合わせの有名スポットに座り込んだ彼女は、俺の声に気づいて見つめていたスマホから顔を上げた。


 泣き腫らした真っ赤な目。昔と変わらない柔らかそうな長い髪はゆるやかにカーブを描く。


「井上ひまりだろ? 覚えてる? 中学一緒だった織田朔也おださくや。何してんの? 大丈夫? 」


 下心なんてなかった。もう20歳をとうに超えているはずなのに、中学生に間違われそうな彼女に手を出す気なんてない。


 不思議そうに俺を見つめる瞳は、一旦宙をさ迷ってから俺のところに戻ってきた。


「わ~織田くん。久しぶり~」

 笑い方も昔と変わっていない。さっきのおっさんが表面上だけ優しい言葉を掛ければきっと同じ笑顔を返していただろう。


 この時点で俺は彼女のことは何とも思っていなかった。ほっとけばまたぴょんぴょん跳ねるであろうこのウサギを、安全な所に捕獲しようとしただけ。


 ああ、誓ってそれだけだ。




 ★余談★

 ひまりのイメージイラストを近況ノートに載せています。

 よかったら見てみて下さい(,,・д・)

https://kakuyomu.jp/users/tonari0407/news/16817139555930042715

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