フリマサイトで購入した魔法の杖、単1電池で発動する。

花澤あああ

第1話 フリマサイトで買ったような記憶

フリマサイト「サンデー」とは

吃驚するくらい有名な画家の作品や生産中止したカードゲームのレアカードから、スーパーの広告で作ったおかんの手作りアート作品や使いかけの化粧品、使い古した靴下まで、なんでも売っているごった煮みたいなフリマサイトである。

とくにちょっとおかしな商品は他のフリマサイトと比べて群を抜いている、と俺は思っている。



「……なんや? 【癒しの杖】? wwww 」



そのフリマサイト「サンデー」のおかしな商品を眺めるのが趣味の俺氏、久々に頭のおかしい商品を見つけてしまった。

女児向けアニメでやってるような魔法使い少女の杖ではなく、外国の魔法使い映画なんかでありそうな杖。


「【HPを回復します】って、リアルにHPとかあるんかい。数値化したら今の俺は結構瀕死かな。ふひひひひひ。」


相次いで両親が病死したため、ひとり暮らし歴三年(正確には猫もいるけど)な俺は独り言が激しい。

両親の看病で一時期仕事をやめていたため再就職が難しく、ハローワークでどうにか見つけた仕事はブラックな介護職。

今日も壮絶な夜勤あけの疲労困憊で、HP表示があれば黄色信号に違いない。


「【魔石を入れると動きます】【魔石は付属していません】―――って、魔石ってなんやねんwwww 」


第三のビール二本目に突入していた俺は、笑いながら購入ボタンを押していたのだった。

蝉の声響く熱帯夜の喉には、第三のビールはするする入っていく。

ぶっちゃけ、酒に強くない俺にはこのときの記憶はあまり、ない。

だから届いた荷物を開けたときには「なんぞこれ」とリアルに呟いていた。ネットスラングが口から出るとか痛い奴以外なにものでもない。


「あー、"サンデー"で頼んだんだったっけ? やべえ、また酔って変なもん頼んじまったわ……。なんだあ? 【癒しの杖】? 【HPを回復します】【エリアヒールまで可能】【MPなくても、専門職でなくても大丈夫】 ………設定細けぇな。それにしても良くできたコスプレ道具だなあ。何のアニメのだろ? ゲームキャラかな。最近のはあまりわかんねーんだよなあ。」


学生時代はアニメもゲームもそこそこのオタク程度に嗜んでいたが、最近は仕事でほとんど手を着けてない健全な俺。杖を振り回したり撫で回したりするけど、どのキャラクターのコスプレ道具なのか、全然わかんねえな……。

紙一枚の説明書らしきものにも、サイトに記載された情報以上のものはなにも書いてなかった。

この【癒しの杖】はいつも仕事に持っていくマイボトル(安月給故にお茶は毎日持参)くらいの大きさしかなく、500mlペットボトル程度の重さで持ち運びやすい。いわゆる短杖ワンドってやつかな。木製なのかわからないが、タモとかナラの家具に似た質感である。ファンタジー系の作品なんだろうな、とは思う。もしかしたら国外のファンタジー物かもしれない。


「【魔石は付属してません】の【魔石】が入ってるはずの場所はこれか。」


杖の先端の、ぽっかりと空いた「魔石を入れる」場所は、ちょうど単1電池はいりそうくらいの空洞で……単1電池? ……単1電池、単1電池。

サイドボードに常備してある、懐中電灯用の単1電池の予備が目に入る。防災意識の高かった父が準備してたやつだ。災害時に懐中電灯つかなかった事件を繰り返し話してたからな。


「単1魔石、装着っ! お、まじでピッタリ入るじゃん。えーい、『エクストラヒール』!―――なんてね!」


「……にゃーん。」


「中曽根さん、回復した?」


「にゃーん。」


杖を向けた先には、愛猫の中曽根二世が自分の毛繕いをしているだけだった。とくに光りもせず、何かの効果音もなく、回復したのかどうかは俺にはわからなかったがうちの猫は可愛い。めっちゃ可愛い。


「にゃーん。」

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