第4話・入学式


 入学式では、驚いた事が二つもあった。

 その一つ目は、理事長の挨拶の時。

 壇上で理事長だと挨拶をした男の人を見て、私はとても驚いた。

 だって、周央先生に写真を撮ってもらった後、おじいちゃんたちが向かった先に居た優しい笑顔の男の人が、この周央学園の理事長だったからだ。


「みなさん、入学おめでとうございます。私は理事長の、周央崇です」


 理事長を見た瞬間、どうして、という気持ちしかなかった。

 どうしてこの学校の理事長が、おじいちゃんたちに、あんなに丁寧に頭を下げたのだろう。

 おじいちゃんは、ただの定食屋の主人だよ? 一体どうして?


 そんな事を考えていると、壇上で話す理事長と目が合った。

 不思議なんだけど、理事長と目が合った後は、理事長の話を落ち着いて聞く事ができた。


 理事長の話は、簡単にまとめると、入学おめでとうというお祝いの言葉と、とにかくみんな仲良く、楽しんで、というような内容だった。

 言っている事はすごく普通の事なんだけど、とても優しい笑顔と声で言ってくれて、その優しい笑顔を見つめながら聞いていると、理事長の話が心に染み込んでいく感じがした。


 驚いた事の二つ目は、生徒代表として、ちい兄が挨拶をしたという事だ。

 しかも、ちい兄が壇上に立つと、すごい声援が!

 それも、女の子だけじゃないの、男の子の声も聞こえるの!


「千隼先輩、素敵ー!」


「千隼先輩、ずっと付いて行くっすー!」


 驚きながらも、ちょっと鼻が高かった。だって、あれは私のお兄ちゃんなんだもの。

 うちは家族馬鹿だから、多分おじいちゃんたちもすっごく喜んでいるはずだ。

 そう思ってちらりと保護者席を見ると、目を輝かせているおじいちゃんと目が合った。うん、て頷いている。

 やっぱり、嬉しいよね! ちい兄、カッコいいよね!


「新入生のみなさん、ようこそ、周央学園高等部へ。俺は、三年A組、西園寺千隼です。周央学園高等部への入学、おめでとうございます!」


「キャー! 千隼先輩―!」


「カッコいいー!」


 ちい兄はちょっと挨拶をしただけで、またキャーって言われている。

 アイドルか、と心の中で突っ込みながらも、生徒代表として何を言ってくれるのだろうと、ドキドキしながら私は壇上のちい兄を見つめた。


「えーっと、三日ほど前にですね、先生たちから入学式で挨拶しろって言われたんですけど、俺、こういうの苦手なんだよね。なので、短めに言いたい事だけ言います。みんなも、あんまり長いスピーチとか、嫌だろ?」


 どっと笑いが起きる。確かに長いスピーチとかは嫌だけどさ、何を言ってるのよ、うちのお兄ちゃんは。


「つまり、だな……みなさんのこれからの三年間、俺は、精いっぱい楽しんでもらえたらいいと思います。それで、さっき理事長も言ってましたが、仲良く、楽しんでいこうぜ、て思います。というわけで、これからよろしくな!」


 こんなスピーチでいいのかとちょっと思ったけど、とてもちい兄らしいし、多くの声援と拍手を貰えていた。


 仲良く、楽しんで。


 理事長とちい兄のメッセージを、私は胸に刻む。

 偶然かぶっただけなのかもしれないけれど、多分それが一番大切な事なのかもしれなかった。

 ただ……もしかしたら過去に、とても仲が悪い学年があったのかな、なんて、ちょっとだけ思ってしまったけど。

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