第3話・一年A組
一年A組の教室に入り、私は自分の席へと向かった。
席には、『西園寺小花』という封筒が置かれていたから、すぐにわかった。
「あの……あなた、受験で入って来られた方ですか?」
席についてすぐに、声をかけられた。声をかけてきたのは、長い髪を一つに結んだ、眼鏡をかけている真面目そうな女の子だった。
「はい、そうです。西園寺小花といいます。よろしくお願いします」
自己紹介をして頭を下げると、
「西園寺?」
と、周りで声が上がった。
なんだろうと首を傾げて周りを見回すと、この場に居るクラスの生徒全員が、私を見つめていた。
「え? 何?」
最初はどうして注目されているのかわからなかったけど、すぐにこの苗字のせいなのだと気が付いた。
この教室の二つ先に、同じ苗字の人間が居るからだろう。
「あなた、さっき千隼様と一緒に居たけど、千隼様と何か関係があるの?」
別の女の子に聞かれ、頷く。こちらはお金持ちそうな女の子だった。長くてサラサラな髪の毛だけど、縦ロールとか似合いそう、なんて思ってしまう。
「西園寺千隼は、私の兄です」
そう答えると、また周りで、「おおっ」と声が上がった。
どうやらちい兄は、有名人らしい。
学年一位を取ったって言ってたから、そのせいなのだろうか。
でも、なんなんだろう……千隼様って言ってるよ、この女の子。
「あなたが、千隼様の妹?」
「うん」
「そして、西園寺の、末娘?」
「そう、なるのかな……」
でも、ちい兄と私の二人で、末娘って言うのかな? 何か少し引っかかる言い方だ。
「わ、わたくしは、南京極家の者ですっ! 南京極茉莉花です!」
ちい兄を千隼様、と言った女の子は、そう言った。
ミナミキョウゴクマリカちゃん……。すごく豪勢な名前だ。この子、絶対にお金持ちの娘さんだと私は思った。
でも、西園寺もお金持ちっぽい苗字だよね。まぁ、私が庶民の中で育っただけで、実際西園寺家はお金持ちなんだけど。
「西園寺小花です、よろしくお願いします」
そう言って南京極さんにぺこりと頭を下げると、
「あなた、私の名前を聞いても何も思いませんの?」
と言われてしまった。
何も思わないのかと言われても、初めて聞いた名前だし、感想と言えば、すごく豪勢な名前ですね、くらいなんだけど、それを言えばいいのかな。
「すごく、豪勢なカッコいい名前だなって思いました」
とりあえず思ったままにそう言ってみると、
「ぶはーっ!」
と、クラスの何人かが噴き出した。南京極さんは真っ赤になって、
「そんな事を聞いているのではありませんわ!」
って怒るし、
「すげえ、茉莉花姫にそんな事言う奴、初めて見た!」
「何この子、すげぇ面白いだけど! 腹痛いわ!」
て笑い転げる男子は居るし、この場合、一体何が正解だったのだろうか。
「あ、あの、わ、私は、浦西渚と言います。小花様、よろしくお願いします。わ、私も、受験組です」
最初に話しかけてくれた眼鏡の女の子が、言った。この子とはいい友達になれそうな気がする。
ただ、小花様っていうのは止めてほしい。
なんなの、様って。やっぱりお金持ちが通う学校だからなの?
「小花様、私は、東野真紀と言います。私も受験組です。そして、あそこで笑い転げているのは、南条厚と、北見武と言います。彼らも、受験組です。これから、よろしくお願いします」
渚ちゃんの隣にいつの間にか居た女の子が言った。
ショートカットの、宝塚の男役が似合いそうな、ボーイッシュな子だった。
身長も私より十センチ以上高そうだし、うわぁ、かっこいいなぁ、と思わず見とれてしまう。
「うん、こちらこそ、よろしくお願いします。それから、真紀ちゃんと、渚ちゃんって呼んでもいい? 私の事も、普通に小花ちゃんって呼んでくれると嬉しい。っていうか、どうして様付けなの? この学校は、友達やクラスメイトを、様とか姫って呼ぶのが伝統なの?」
疑問を口にすると、またクラスの何人かが吹き出した。
私は、おかしな事を言ってしまったのだろうか?
真紀ちゃんは少しツボに入ったようで、笑うのを必死に堪えているらしく震えながら俯いているし、渚ちゃんは少し困った表情で私を見つめていた。
ちらりと南京極さんを見ると、ぽかんと口を開けて私の事を見ていて、いろんな反応されているなぁと思う。
「はいはーい、なんかいい感じに楽しそうだけど、そろそろ入学式が始まるから、出席番号順に廊下に並んでくれるかな~」
パンパン、と手を叩く音が聞こえ、そちらへと顔を向けると、先程校門で写真を撮ってくれた男の人が居た。
「入学式が終わったら、みんなの自己紹介の時間を作る予定だけど、俺だけ先に自己紹介しておくねー。知っている子も居ると思うけど、俺の名前は、周央亘。一年A組の担任の先生でーす。これから、よろしくねー」
この人、先生だったんだ、しかも担任の先生!
驚きながら顔を見ていると、周央先生は私と目が合うと、パチンと悪戯っぽくウインクした。
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