三日月さんと帰宅

「また、明日。来ていただけますか?」


「はい、次は誰のビジョンですか?」


「次は、旭川愛梨さんです。」


「わかりました。」


三日月さんは、信号を見つめて停まる。


「悲惨ですよ。強姦されてますから…。」


「えっ?」


「恋人は、一ノ瀬倫さん。今は、桂木丈助さんの恋人です。」


「そうなのですね。旭川さんも、もう痛みはないのですか?」


「はい、私が取り除きました。」


「三日月さんは、そんな事も出来るのですか?!」


三日月さんは、悲しそうな顔をしている。


「三笠千尋さんもです。何度も何度も痛みを癒しました。そんな事が出来ると言うのではなく。物理的に、魂になれば脱ぎ捨てるのですが…。いきなりお亡くなりになる方は、脱ぎ捨てれていないのです。私は、そのお手伝いをする。」


「三日月さんは、不思議な人ですね」


「不思議な力を授かっただけに過ぎません。私の力とあの神社は、とても相性がよくてですね。普通の方は、桜の季節にしかあの神社に辿り着けません。」


「普段は三日月さんの力で、隠してるのですか?」


「私に、そんな大きな力はありませんよ。普段は、案内人とあの神社の巫女が隠しています。しかし、不思議と導かれてやってくるんです。春の季節に」


「千尋さんも、やってきていましたね」


三日月さんは、ハンドルをトントンと指で叩く。


「皆さんのお別れが、無事に終わりましたら…。全て、お話しましょう。」


「何をでしょうか?」


「宮部さんには、あの神社の本当の話を書いていただきたいのです。オカルト記事は、お得意でしょう?」


「本当の話ですか?」


「はい、真実を書いていただきたいです。」


「わかりました。約束します。」


三日月さんは、私の家の前で車を停めた。


「なぜ?」


「なぜ?わかるのか?でしょうか?」


「はい」


「私には、何でも見えていますよ。今日は、ゆっくり休んで下さい」


「凄いですね。わかりました」


私は、三日月さんに笑いかけた。


「それから、必ず甘いものを食べて下さいね」


「えっ?」


「糖分を使っていますから」


そう言って、三日月さんは私に笑いかける。


絵のような美しさ


金髪のボブヘアーで、黒のスーツ、切れ長の目元だけれど、目は大きめだ。


三日月さんは、綺麗な人。


「あの」


「はい」


「最後に、桂木丈助さんに見せたのは何だったのですか?」


「ああ、あれは魂の再会です。」


「あの、私も次からは見たいです。記事の参考になるかと思いまして」


「構いませんよ。ただし、声をかけてはいけないと言うルールだけは守っていただけますか?」


「何故でしょうか?」


「あちらで、もう一度再会する為の儀式ですから」


そう言って、三日月さんは笑った。


「あの、三日月さん。」


「はい」


「素敵な仕事ですね」


「私は、仕事でやっていませんよ。」


「ボランティアですか?」


「はい、仕事は別の事をしています。」


「何の仕事ですか?」


「あー。オカルトが好きだったんですね。こちらですよ」


三日月さんは、私に名刺を渡す。


「占い師ですか?」


「はい、普通の仕事が残念ながら出来ないんです。」


三日月さんは、そう言ってスマホを取り出した。


「何をしてるのですか?」


「今は、こちらに集中する為に休んでいるのですが…。時々、依頼がきてしまいますので。お休みである事をご連絡しています。」


「そうなのですね。」


「皆さん、占いが大好きですよね」


三日月さんは、そう言って私に微笑んだ。


「では、明日。また、よろしくお願いします。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


そう言って、私はお辞儀をして車を降りた。


三日月さんは、不思議な人


でも、三日月さんの痛みは、私の感じた気持ちよりもはるかに痛いのがわかる。


だから、私が感じた気持ちなどたいしたことない。


三日月さんの力になりたい。


そう思いながら、家に帰った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る