桂木丈助と三笠千尋
私は、後頭部に触る。
これが、最後のお別れだ。
ドクン…
「ジョー、会いたかった」
「千尋……なのか?」
桂木丈助に、三笠千尋は、抱きついた。
多分、不思議な感覚が走っているのだろう
リアルにいる彼は、ジッと泣いてるだけなのだから…。
これは、魂の再会なのだから…。
「ジョー、蕪木さんのせいだったのね」
「ごめん、言えなくて」
「いいの。二人に何かあるのは、薄々気づいていたから…。」
「それでも、話すべきだった。きちんと、千尋に…」
「あのね、ジョー。私が、死んだ事とジョーのあの出来事は偶然一致しただけに過ぎないのよ。」
「そんな事ないよ」
三笠千尋は、首を横にふった。
「ううん、今ならわかってる。たまたま、偶然だったって。ジョーが、あの日ラブホテルに行っていなくても私はあの選択をしているのよ。」
「どうして?」
「それが、運命だったなんて言わないわ。私が、ジョーにプロポーズされたくて、ある場所に行った。その結果なの。だから、どうか、わかって欲しい」
三笠千尋は、桂木丈助の頬に手を当てる。
「千尋…俺は…」
「一ノ瀬さん、とっても素敵な人ね」
「知ってるのか?」
「ええ、何度か見に来てたもの。凄く素敵な人。ジョー、幸せになっていいのよ。私は、ジョーが幸せに笑って生きてるのを見るのが幸せなのよ」
桂木丈助は、三笠千尋の手を握る。
「ヤキモチを妬いたりしないのか?」
「フフフ、そんな醜い感情はね。肉体を脱ぎ捨てればなくなるの。欲も何もない。あるのは、ただ穏やかな気持ちだけ。心を書き乱されるような感情もない。痛みも苦痛も憎しみも悲しみもない。ただ、ただ、穏やかな愛が広がっているだけよ。」
「そうなのか…。一人ぼっちで、寂しくないのか?」
「一人じゃないのよ。私は、今。一ノ瀬倫さんのパートナーと一緒にいるの。不思議でしょ?ジョーが、選んだ人が愛していた人と、私は向こうでいるのよ」
桂木丈助は、三笠千尋の頬に手を当てる。
「不思議だな。それは…。」
「そうなの、ジョーが、一ノ瀬さんに出会った日に彼女に会った。私達は、引き寄せられるように手を繋いだのよ。あれから、ずっと、一緒にいるの」
「俺達と連動してるのか?」
「そうかも知れないわね。生きていても死んでいても、わからない事があるものね」
「千尋とキスがしたいと言ったら怒るだろうか?」
「ううん、しましょう。ジョー」
三笠千尋と桂木丈助は、ゆっくり唇を重ね合わせる。
「ジョー、これは、私がもらっていくわ」
そう言って、三笠千尋は桂木丈助の胸にキスをする。
いつ見ても、美しい光景だ。
引き寄せられる黒。
三笠千尋は、それを飲み込んだ。
「千尋、何をしたんだ?」
「いつか、ジョーにわかる日がくるわ」
「ありがとう、俺に会いに来てくれて」
「ううん、愛してるわ。ジョー。永遠に…。一ノ瀬さんと幸せになってね。」
そう言って、またキスをした。
.
.
.
.
.
さっきの人の後ろ姿を見つめていた。
何が起こったか、理解できなかった。
ただ、凄く暖かく幸せだった。
千尋と会えて、キスをした。
許しを得たのを感じた。
俺の中の、謝罪の念が薄らいでるのを感じた。
これから俺は、もっと倫と向き合えるのを感じていた。
千尋は、俺を今もずっと愛してくれてる。
でも、それは縛り付けるような愛ではなく、俺を包み込むような愛だった。
もの凄く暖かかった。
無償の愛の意味が、わかった。
降り注ぐ優しい愛だった。
千尋には、もう何の欲もないのをハッキリとわかった。
心の隅にあった申し訳ない気持ちや自責の念が、少しだけ薄らいでいる。
ありがとう、千尋
そっちに行くまで、待っててくれ
俺は、倫と余生をゆっくり過ごしてから、千尋に会いに行きます。
ビューと、風が吹いた。
千尋が、わかったと言ってくれた気がした。
永遠に愛してる、千尋。
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