桜の季節にだけ現れる神社

始まりと依頼者

いつかの誰かの話した噂話。


「あそこに行ったらいけないのよ」


「あの桜の木の下を最後に通ったら行けないのよ」


「だって、ほら…。こないだも、殺人事件が起きたじゃない」


「名前が、彫られてるんでしょ?」


「どうやって行くの?」


「さあ、勝手に辿り着くって話」


「あそこには、人喰いがいるのよ。神様なんていない」


「でも、神社でしょ?」


「よく見ると黒の鳥居って話。知ってた?」


「お願いをしたら、命まで奪われるの?」


「だから、駄目だよ。お願いしたら」


「でも…」


「紛れ込んでるんだよ。あいつらは、生け贄を待ってる。自ら来るのを待ってるの」


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「あそこの桜が、寄贈されたんだって」


「ホントに言ってるの?」


「まさか、お願いなんてしないでしょ?」


「したら、最後だもんね」


「うん、うん」


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その神社は、桜の季節にだけ、突然辿り着けてしまうと言う。


ルールは、3つ


そこで、けしてお願いをしてはいけない。


そこの、桜の木の下を通ってはいけない。


そこで、恋愛の願いをかけてはいけない。


守らないものには、死が訪れるという話。


いわゆるオカルト話。


この場所のはずだけど、行き止まりか…


ビューーーと突風が吹いて、そこは現れた。


オカルト記事のライターをしている宮部希海みやべのぞみは、不思議な顔をして、それを見上げた。


【恋喰愛喰死巫女】


鳥居に彫られた変な文字。


「何て、読むのかしら?」


神社の名前は、黒すぎて見えなかった。


私は、赤とも黒とも言えない色の鳥居をくぐった。


「こんにちは、探し物ですか?」


「彫られた名前をみたいのですが」


案内人は、やはりいた。


薄汚れた袴を着ている。


「こちらになります。」


「どうも」


私は、木の掲示板を見つめていた。


私は、スクラップした記事を鞄から取り出した。


えっと…。


「五木結斗、あった。」


「こんにちは」


その声に振り返ると、黒いスーツを着た男が立っていた。


さらさらの金髪のボブヘアーが、風になびいている。


「何ですか?」


「初めまして、宮部希海さん」


私に、ゆっくりと近づいてくる。


「だから、何なんですか…」


「貴女は、どうしてそんな依頼を引き受けたのですか?オカルトだから?それとも、少年Aの告白はお金になるからでしょうか?」


優しい声と笑顔で話ながらも、目は、一つも笑っていなかった。


「どういう意味ですか?」


「宮部さんは、五木結斗が事切れる瞬間を知らないから、犯人の協力が出来るわけですね」


「そんなの、貴方も知らないでしょ?」


「私は、知っていますよ」


その人は、黒い手袋を抜いて私の後頭部に手を当てた。


【わぁぁぁぁぁぁ】


叫び声が、響く。


【結斗、何でわかんねーんだよ】


ドンッ、ドンッ、ドンッ


【やめて……】


【俺の気持ちわかってるんだろ?】


ガンッ、ガンッ、ガンッ


頭の中に映像が、流れ込む。


五木結斗が、襲われている。


【ゴホッ…ゴホッ…ウッ、やめて】


【結斗、あいつにどんな風に抱かれてるんだよ】


【ゴホッ…ゴホッ…やめて、やめ


その人が、私から手を離した。


「これは、一部です。」


「霊能者ですか?」


さっきの映像が、脳裏にこびりついて涙が流れ続けていた。


「違いますよ。私は、見せられているだけです」


「見せられている?」


「はい、事故、事件、病死、自殺、あらゆる亡くなった人の映像が、頭を流れる。そして、私はそれを誰かに見せてあげる事が出来る。それだけです。」


「さっきのは、五木結斗に見せられていると?もう、30年も前の事件ですよ。」


「引き出しの用に取り出せると言ってもわかりませんかね?それで、貴女は依頼主の為にやってるんですか?30年も前の事件を掘り起こして…。五木結斗が、愛した人を苦しめたいのですか?」


「そんなつもりは、ありません」


「でも、そこに少年Aと不思議な神社って書いてますよね」


その人は、私の後頭部にまた手を置いた。


【陸……ごめんね。陸……僕は愛してるよ。会い…たい…よ。綺麗に…して……でも、もう……感覚が……ない……会い…たい…愛し…て……る】


弱々しくなっていく声。


「それでは…」


その人は、私の後頭部から手を離して去って行こうとした。


「待って下さい」


「はい」


「陸って誰ですか?」


「調べては、どうですか?」


「そうですよね、すみません」


私は、頭を下げた。



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