第9話 幼馴染は看病する


「宗太郎ー!学校行こー!」


 みんなが大嫌いな月曜日。

 休みが明けて学校や会社に行かないといけなくなる週の始め。

 月曜、火曜、水曜、金曜は美鳥が家まで迎えに来る。

 ちなみに木曜は委員会の都合上、美鳥が早く行かないといけないので、一緒には行ってない。

 そんなわけで美鳥は今日も俺を迎えに来ていたのだが……。


「……わりい、今日ちょっと休む」


「え……?」


「だから、風邪ひいたんだ」


 厳密に言うと、風邪をひいたと言うか、軽く寝込んだぐらいだ。

 大事を取って休むだけだから、多分明日には元気に学校に行けるはずだ。


「大丈夫なの?」


 今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる美鳥。

 ……何か俺が死にそうになってる感じがするからその顔やめてほしいんだけど。


「ああ、ただの微熱だし。明日になったら治ると思うから」


「……わかった!じゃあ、ボクが看病する!」


「……は?」


「病院とか行くなら付き添うし、お粥作ったりしてあげる!」


「いやお前学校あるだろ?」


「そんなことより、宗太郎の体のほうが大事!おじさんとおばさんいないんでしょ?」


 いやまあ、確かにいないけど……。

 学校をそんなこととか言うなよ……。


「いいから学校行ってこいよ。なるようになるんだからさ」


「……何?宗太郎はボクに看病されたくないの?」


 美鳥の瞳からハイライトが消えていく。


「そうじゃないけど……」


「……ボクにされるのは嫌?」


 ……ったく。

 しょうがないな……。


「……分かったよ。看病、お願いします」


「うん!任せて!」


 俺の言葉を聞いた瞬間、美鳥の顔はパァッと明るくなった。

 ……俺のことを想ってくれるのは嬉しいんだけどな……。

 どうにも……重いんだよな。

 いやまあ、それが悪いって訳じゃないけど。


「お腹はどう?」


「今は大丈夫」


「そう? じゃあゆっくりしてて。なんかあったらリビングに居るから呼んでね」


「おう。ありがと」


 美鳥は笑顔で俺の部屋から出ていく。

 そして俺はベッドに横になった。

 ……少しだけ眠ろうかな。

 俺は目を閉じて眠りについた。




「……太郎。宗太郎」


「……ん」


 誰かに名前を呼ばれている気がした。

 俺はゆっくりと瞼を開く。

 ……目の前には美鳥がいた。


「あ、起きた。ほら、お昼ごはん作ってきたから」


 そういう美鳥の手には皿に盛られたホカホカのうどんがあった。


「あった材料で適当に作ったけど、宗太郎に嫌いなものないよね?」


「ん、無いぞ」


「……じゃあ、食べれるよね」


「ん、なんか言ったか?」


「ううん、なんにも?」


 俺は起き上がってテーブルの前に座る。

 すると、その隣に当たり前のように美鳥が腰掛けた。

 そして箸で麺を掴み、フーっと息を吹きかけるとその箸をこちらに向けてきた。


「はい!あ〜ん♡」


「やっぱやるんだ」


「そりゃもちろん♪」


 満面の笑みを浮かべながら美鳥はそう言ってくる。

 はぁ……まあいいか。


「……はむ」


 口の中に広がる優しい味。

 体がポカポカしてくる。

 ……美味いな、これ。


「……うまい」


「よかった。一応おかわりあるけどいる?」


「もらう」


 俺はズルズルうどんを食べ進めていった。


「ごちそうさま。うまかったわ」


「いえいえ、宗太郎が喜んでくれて良かったよ」


 美鳥は満足げな表情を見せる。

 ……ん?なんか歯に挟まって……。


「……髪の毛?」


 黒い髪の毛が数本口の中に残っていた。

 いや、え!?


「ちょ、美鳥?おまえ、うどんに髪の毛入れたりしてないよな?」


「え?入れてないよ?」


「……本当に?」


「うん」


「そっか……よかった」


「病気じゃなかったら入れてたよ」


「えぇ……」


 じゃあ、この髪の毛なんなんだろ?

 ……ま、いっか。

 気にしたら負けだな多分。

 ……ちょっと気になるけど。

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