ヤンデレ幼馴染にわからされる

田中山

第1話 幼馴染は病んでいる

「ねー、付き合ってからでも好きになる事ってできるんだよ?だからボクと付き合ってよ、宗太郎」


 そう言って腕を絡めてくる。

 俺は溜息をつくしかなかった。


「あのな……俺にだって選ぶ権利があるんだぞ?」


「えー!選んでよぉ!」


「お前なぁ……」


 俺は浅利宗太郎あさりそうたろう

 華の高校生だ。


 そしてこのうるさいのは幼馴染みの鈴野美鳥すずのみとり

 小さい頃からいつも一緒にいたし、よく遊んでいた。


 美鳥は昔から可愛い顔をしていたけど、今じゃ美少女。

 腰まで伸びた髪は綺麗で、目もくりっとしていて顔立ちが整っている。

 スタイルもいいし、胸も大きい方だと思う。

 何より、明るくて人当たりが良く、誰からも好かれるような性格をしている。

 本人は知らないけど学校のマドンナって呼ばれてる。

 

「ねぇ、本当にダメかな?」


「ダメです」


「なんでぇ!?」


 そして俺らはお決まりの会話をする。

 こいつはほぼ毎日こうやって告白してくるのだ。


 その度に断っているのだが、それでも諦めないらしい。



 ……正直言ってめんどくさくなってきた。


 そもそもどうして俺なんかが好きなのか理解できない。

 普通に考えて俺なんかよりいいやついるだろ。


「あ、そうだ!今日の帰りにさ、駅前に新しくできたクレープ屋さん行こうよ!」


「ん? ああ、いいぞ」


 美鳥が提案した店は少し前にテレビで特集されていた所だったはずだ。

 確か結構並んでたと思うけど、まあいいか。


「やった!楽しみにしてるねっ♪」


 美鳥は嬉しそうな笑顔を見せる。

 こういうところを見ると、やっぱりかわいいなと思う。

 でも、付き合わない。


「いらっしゃいませ〜!」


 店員さんの元気の良い声に迎えられる。


 店内には女子しかいないようだ。

 少し恥ずかしいなと思いつつ、空いている席に着く。


 メニュー表を見てみると、色んな種類がある。

 どれも美味しそうで、選ぶのにすごい迷う。


「うーん……迷っちゃうなぁ……」


 美鳥も悩んでいる様子だった。

 しばらく悩んだ後、ようやく決まったのか店員を呼んだ。


「チョコバナナクリームでお願いします」


「はい、かしこまりました〜」


「あ、じゃあ俺は苺の生クリームで」


「はい、ありがとうございます〜。少々お待ちください~」


 しばらくして、注文した商品が出てきた。

 とても美味しそうだ。

 早速食べてみるとしよう。


「いただきます」


 一口食べると、甘さと酸味が絶妙なバランスだった。

 これはかなりうまいな。


「どう?おいしい?」


「うん、めっちゃうまいぞこれ」


「良かった!」


 それから二人で完食するまで無言のまま食べた。

 お互い何も喋らなかったけど、何故か心地よかった気がする。


「ごちそうさまでした」


「はい、ありがとうございました~」


 店を後にして、帰路につく。

 家2つ挟んだ距離。


 だから自然と一緒に帰っている。

 いつも通りの他愛もない話をしながら歩く。



 すると突然話題が変わった。




「ねえ宗太郎……ボクのこと好き?」



 真剣な表情をして訊いて来る。

 こう言う時って素直に答えていいんだろうか。


「そりゃもちろん好きだぜ?幼馴染みだし」


「……」



 俺は本心を言ったのだが、美鳥は黙ってしまった。


 何かまずかったか……?



 勝手に不安になってると、美鳥がいきなり抱きついて来た。


「ちょっ!?何すんだよ!?」


 慌てて振りほどこうとするが、意外にも力が強くて離れられない。

 そのまま耳元で囁かれるように言われる。


「……いや、違うね。幼馴染としてじゃないよね?宗太郎は……ボクのことを恋愛的な意味で好きなんだよね?」


 そう言って俺の顔を見た美鳥の目は光ってなかった。



 光を反射しない黒。



 ただただ闇のように黒く濁っていた。


「お、おい、どうしたんだよ美鳥?冗談ならやめてくれないか?」


 声が震えている事が自分でもよくわかる。


 怖い。

 怖くて仕方がない。


「ふぅん、まだ誤魔化せると思ってるんだ。まあいっか……。これからじわじわ分からせてあげるからね?」


 そこでやっと解放される。

 逃げたい。

 今すぐここから逃げ出したいけど足が動かない。



 恐怖が俺を縛り付けていた。


「そろそろ帰ろうよ!暗くなってきちゃったし!」


 美鳥はさっきまでの様子が嘘みたいに明るくなる。


「え、あ、ああそうだな……。俺もう腹減ってきたし」


「えー、さっきクレープ食べたよねー?もう、宗太郎は食いしんぼーなんだからー」


 そう言って、俺の手を握って歩き始めた。


 俺は、その手を振り払う事は出来なかった……。

 その日の夜、俺は全く寝られなかった。



 寝ようと目を閉じると、瞼の裏に俺を見上げる美鳥の顔が浮かんでくる。



 あの、真っ黒な目で。


 ……俺は、これから美鳥とどういう関係になるんだろうか。

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