転生チートで青春ラブコメがしたい
モノリシックサプレッサー
第1話 転生チートは別にいらない
ぼんやりとした視界の中に、確かな眩しさがあった。
スポットライトのような妙な高揚感もあり、手術台のライトのような冷たさも感じる不思議な光は、どうやら頭上から降り注いでいるらしい。
視界がだんだんと明瞭になるにつれて、風景に輪郭が宿っていく。
――といっても、目の前に白っぽい何かがある、という感覚だけで、それ以外は黒しか見えないようだ。
ようやく完全な視覚を取り戻したところで、俺は、目の前で椅子に座っている女性の存在に気付いた。
ゆったりとした白い羽衣に身を包んだ女性。
黄金色の髪をたなびかせ、落ち着いた様子で椅子に腰かける。深い森のような色をした目に、危うく心臓が掴まれそうになる。……そして何より、胸がでかい。でっか!胸でっか!
その容姿は、女神、と形容するにふさわしい。
女性の、艶やかな唇が動く。
「気が付きましたか? ……では初めまして、城ケ崎譲さん」
柔らかで優しい声は、ベールのように俺の心をふんわりと包んだ。あと、胸がでかい。
しかし、次に発せられたその言葉で、俺は胸とかどうしようもないことを気にしてはいられなくなった。
「あなたは、残念ながら……お亡くなりになりました」
「……え?」
俺が、死んだ? ……俺が?
……死んだ?
……死んだ!?
いや、で、でも、俺はここにいて……
「思い出せませんか? あの青いトラックを」
……青い、トラック?
青いトラック……。
ふと、とある一瞬の風景が脳裏に浮かんだ。
それはおそらく、俺の人生最後の一瞬。
……そうか。
すべて思い出した。
暮れかかった、深い藍色の空。
いつもの通学路。
横断歩道の緑のランプが点滅する。
鞄を抱えて、急いで渡り切る――ことができなかった。
それはあの、青いトラックのせい。
そう、俺は死んだのだ。トラックに轢かれて。
何ともあっけない最期だったと、自分でも思う。
すべてを思い出して、俺が顔を上げると、女性は再び喋り出す。
「ここは、転生の間。今からあなたには、いくつかの選択肢が与えられます」
「……て、てん、せい……?」
今、「てんせい」って言ったか?
天性? 点睛? それとも展性?
……転生?
「はい、転生です。一つの世界で生を終えた人間は、再び別の世界で生を受ける定めなのです」
「………」
俺が死んだのなら、輪廻の軌道の次の生を受けるというのは理解できる。
どうやら本当に、俺は死んでしまったみたいだ。
思い出す、家族と過ごした時間。学校での思い出。何てことない日常の瞬間。
……勉強、勉強、勉強、勉強……。うん、クソみたいな人生だったわ。ただ一つ挙げるとするなら、「青春」したかったことくらい。
「……しかし城ケ崎譲さん、あなたには特別な選択肢が用意されています」
「特別な、選択肢……?」
俺に?
「通常の死者に与えられる選択肢は、天国でのんびりと暮らすか、記憶を失って新たな命として別の世界に産まれるかの二つです」
女神は、ふっと息をつく。
「……しかし、あなたには、特殊な能力を持って記憶を保持したまま異世界に転生する権利が与えられます」
特殊な能力……異世界転生……。
それってつまり。
……世間で言うところの、「チート」ってやつ?
「……どうしてですか?」
どうして?なぜ俺が?
なぜ俺が、異世界転生してチート無双するのか?
なぜ俺に、そんなベッタベタな展開が用意されているのか?
意味が分からない。
「なぜなら、……トラックに轢かれたからです」
「……は?」
「あれ、知らないんですか? トラックに轢かれた若者が、特殊な能力を貰って異世界で活躍するのはお決まりじゃないですか!」
……は!? いや、は!?
何言ってんだよこの人。いやマジで何言ってんだ。あと何言ってんだよ。
お決まり? んだそれ。トラックに轢かれただけで? 運命とか使命じゃなくて、トラックに轢かれただけで?
それってあくまで物語の世界のお決まりであって、現実世界のお決まりじゃないだろ。
「で、どうしますか?」
「記憶を失って新しい生命に生まれ変わりたいです」
「特殊能力を持って異世界転生ですね、分かりました」
あっ、選ぶ権利、ないんですね。
女性は、指をパチンと鳴らす。
「特殊な能力は、この中から選んでください。気に入ったのがあったら、私のところまで持って来て下さいね」
突然、頭上から紙切れのようなものが大量に降ってきた。
地面にはらはらと落ちていくソレを、一枚手に取ってみる。
……丁度B5サイズくらいの紙には、「魔力無限」の文字と、それに関する詳細な説明が。
……チートだぁ……。
床にしゃがみこみ、他の紙も探ってみる。
うわぁ、どれもこれもチートだぁ……。
まさにチートのようなチートが、ズラリと並んでいた。
コレ、選んでいいんですかね……。
異世界チーレム物のラノベを読んだことがある俺だからこの展開に何とかついて行けるが、これがウェイ系のリア充(笑)だったら「転生」の段階で置いて行かれているだろう。なんたって、奴らは学が無いからな!はっは!(偏見)
一枚一枚をじっくりと上から眺めていると、その中の一つ、青色の紙に目が留まった。
「……!」
俺はその紙を手に取り、目を凝らしてじっくりと読む。
これは、このチートは……!
もうチートとかじゃないじゃん……!
こんなんマジでもらえんのかよ……!
女神に近づき、その紙を差し出す。
「あ、それにしますか?」
「はい」
「どれどれ……『マクスウェル』? こんなのが良いんですか?」
「一定時間、物理法則を書き換えられる」。
それが、転生特典・『マクスウェル』の能力。
……チートじゃないじゃん。
もう、神じゃん。
「分かりました。では、お望みの力を授けましょう」
女神は、両手を前へ突き出し、目を閉じる。
すると、その手から虹色の光が溢れ、俺の体に流れ込む。
「おお……!」
何も変わっていないけど、何かが変わった気分。
「……はい、完了です。では、異世界へ……ちょっと待ってください? 今、下界で……あれ? ちょっと、え? ……あなた、生きてますね?」
「え!?」
……生きてる?
女神はこめかみに手を当てて、目を閉じたまま眉間にしわを寄せている。
「あれっ? ああっ、心拍数が戻っきてますね。あっ、目を腫らした親御さんが喜んでます。お医者さんも、手を叩いてますね。あー……あなた、生き返りましたねぇー……」
「はぁぁ!?」
生き返った!?
俺が!? トラックに轢かれて!?
気付けば、自分の体から光の粒のようなものが溢れ出して、体の輪郭が薄く消えかかっていた。
「あっ、ちゃんと戻ってますね。そうだ、能力返してもらわないと……」
体がどんどんと薄くなっていき、キラキラとした光の粒子は俺の体から離れて上へ昇っていく。
「ちょっと、どうすれ……」
「……まぁ、いっか。では、お気をつけて。城ケ崎譲さん」
天上の光に全身が吸い込まれ、目の前を真っ白な光が覆った。
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