第19回 1章エピローグ

1章最終話は別々の日に投稿、ではまずはこちらから


◇◇◇◇◇◇◇◇


『さーて、日曜昼過ぎ午後イチバン!『週刊ベルレイバー』のお時間です!本日は開幕直前!第三回ギルドバトルトーナメントの特集です!』

 数週間という時間はあっという間に過ぎ、ギルドバトルトーナメントが開幕直前となっていた。


 私達……主に私とエタさんで相談し、ギルドとしては最上位グループにギリギリ入らないくらいの勝ち星をあげながら各自足りないものを補うための研鑽を詰む日々を送っていた。


『司会はいつも通りのわたくし、万年777位のナナです!そして、本日はゲストも豪華ですよ!!なんと!『YOU KNOW』からメチェーレさん!『閃光旅団』からハヤトさんです!』

「あら?あの出たがりのシンシアじゃないのね」

「この前でてたからじゃね?知らんけど」

 私の呟きにゲーレさんが答える。


 まぁ、それもそうか。


 大手ギルドのギルマスだ、ギャラも安くないだろう。

 メチェーレも高ランカーだがシンシアよりは安い筈、情報ギルド代表として彼女が代わりに来たのだろう。


『ハヤトさんは結構来てくれますがメチェーレさんは初めましてですね。本日はよろしくお願いします』

『毎回呼んでるのはそっちだろうが。こっちも暇じゃないんだぜ?』

『でも、私のファンなんですよね?』

『うっせ!それとこれとは話がちげぇよ!』

『ちょっとそこのアイドルとファン筆頭。私が関わりづらい身内話しないで貰いたいわね?視聴者が置いていかれてるわよ?』

『おっと、失礼しました。ではハヤトさんは放っておいて』

『ふざけんな!クソアマ!』

『こんな口悪いけど毎回私のイベントに来てくれるんですよ?ツンデレですねぇ』

『それは良い情報ね?価値は無いかもだけど』

『ああああ!!!?もう二度と来ねぇからな!?ぜってぇ今日で最後にしてやる!』

 ……いつも通りの流れだ、ハヤトがゲストとしてきているときは大体こんな流れになる。


『では本当に気を取り直して、本日は開幕間近のギルドバトルトーナメントの話題ですが……メチェーレさん、情報ギルドとしては今回の注目ギルドはどちらでしょうか?』

『難しいところね。強いギルド、と言われたら幾つでも挙がるけど……そこの熱狂的ファンが率いてるギルドとかね』

『閃光槍』の名で知られるファーストランカー5位、ハヤトが率いるギルド『閃光旅団』は前回前々回通して本選出場、総合成績ベスト8、ベスト4に残る強豪ギルド。

 前々回ベスト8に甘んじたのはくじ運に恵まれなかったから、と擁護の声まであるほどだ。


『うちは今回こそテメェらを越える。覚悟しておけ』

『あら、怖い。仲良くしてよ』

『俺が負ける分には別にいい。何度も負けてる事だしな。だが俺達はもう負けたくねぇんだよ』

 ハヤト自身は何度もランキングで順位が入れ替わっている。

 あれを勝ち負けと取るならば確かに何度も負けていることになる。


『おい『異物』。テメェらも同様だ。絶対王者なんて存在しないってことを証明してやる』

 カメラ目線でそう告げるハヤト、だが恐らくミッシェルの目には入らないだろう。

 それが分かっていてもそう宣言するだけで力になる。

 彼はそういうタイプの人間だ。


『注目しているギルドって言うなら色々あるわよ?例えば、今週で急上昇して枠に滑り込んできたギルド『ブラックボックス』。ギルマスも殆ど表立っての活躍が無かったサードランカー上位の人だし情報が足りないのよね……。案外あっさり敗退するかもしれないしジャイアントキリングをするかもしれない。未知のギルドって本当に面倒ね』

『テメェらでも把握できてないってことは良いブレーンが付いてる感じか?』

『そうとは限らない。毎回この手のギルドは1,2か所あるからね。私達にも限界はあるの』

『っはー、やめだ!どうせトナメ前だから最重要情報は出てこねぇか。……シンシアじゃねぇならワンチャンあるんじゃないかと思ってたんだがなぁ?』

『舐めてもらっては困るわね?出しても良い悪いの区別が付かないメンバーはうちにいないと思いなさい』

『……下っ端が金積まれて最強様の圧に屈して狐の特典品取られる失態があったのはいつだったかな』

 その小言にテレビを見ていた全員がこちらを見る。


「姫、圧かけたん?」

「いくらでもぎ取ったの?」

「どんな特典品だったの~?」

「見せて~?」

「うるさいよ。あと、特典品は今着てる羽織だよ」

 先日オーダーメイドだと偽ったこれが特典品、それを聞いてタソガレさんは驚いた。


「なんだ、僕はその時からもう君の術中だったのだね?」

「……というかよく見たら狐柄とか九色の火の玉とか分かる要素あったのね」

 タソガレ、ナギ夫婦は納得。

 ……そう考えると私もすぐに着るのは無警戒過ぎたかもしれない。

 バレる要素を自分から増やしてたのは失策だった。


 まぁ過ぎたことを悔やんでも仕方ないね。


「金に関しては相場の5倍を押し付けた。圧をかけたつもりはないよ」

「うっへぇ、札束で殴ってる」

「例えアヤさんが圧を発してなくとも金だけで圧になるでしょ、それ」

 メビさんは元からだからともかく、キサラギさんは随分と口が達者になったなぁ。

 今度また何処かの未攻略迷宮最下層に放り込むか。


『あとは……多分番組的にはこの名前を出して欲しいんだろうから言うわね?私達、というかギルマスがご執心のギルド。ギルバトファンならもうみんな知ってるだろうギルド『焼肉処 白鐘』。通称『白鐘』ね』

 やっぱり出た。

 前半に大分頑張ってしまったから後半は少し息を潜めたんだけど……、やっぱり逃げれないか。

 というか最初から番組編成で挙げられることは決定してる風だった。

 チラッとカメラ下部を見たメチェーレは途端に話題をうちに移した、多分カンペで指示されたんだろうなぁ。


『『王』『女王』といった強力な防衛、メイビー氏を筆頭に少ないながらも実力派のベルレイバーが揃っています。最近では一人メンバーが入れ替わり、更に強くなったとか?』

『旧メンバーを悪く言うつもりはないけど、脅威度は間違いなく上がったわね。セコンズランカー43位のシルキー。彼女はあのアザミと同じく大太刀使いで生き残ってる数少ないベルレイバーで自称『アザミ様のファン一号』。上手く秘匿してるけど奥の手も用意してある強いベルレイバーよ。入れ替わった子に関しては裏方扱いで店に居るらしいから縁は切れてなくてよかったわ……彼女はただの被害者だから』

 マリアさんは今もこの場にいる。

 諜報部門や店の営業、戦闘面以外で活動してもらっている。


『言い訳に過ぎないかもしれないけど手加減したとはいえうちに一度勝ってるし。トーナメントをもっと面白い戦いにしてくれること間違いないと思うわ』

『『白鐘』ねぇ……俺達に勝てるポテンシャル、あんのか?』

『さぁ?あなたの謎の自信の根源が分からないから何とも言えないわね?』

「おー、おー、バッチバチだなぁ。流石ベスト4同士」

 ガッツリ睨んでるハヤトはともかく、表向きは薄い笑みを浮かべているメチェーレからも火花が見えそうなくらいだ。

 ナナちゃんの胃の心配?大丈夫、あの子メンタルはものすごく強靭だから。


『そういえば!』

 ほら、こうやって構わず割り込むくらい。


『結局、『白鐘』さんのサブマスターさんって何者なのでしょう?』

 途端にテレビ内から音が消え、ギルド内もシーン、となる。


 ……これ打ち合わせに無かったタイプだな?


 無論、これは協会公式の放送。

 となれば当然私の正体を知ってる人も番組構成員にいるわけだ。

 私が現状、正体を秘匿したいということも知っている。


 加えて会場には既にシンシアから聞いてるだろうメチェーレ。

 少しだけ目尻がひくついている。


 恐らく、この静けさの原因を把握できてないのはハヤトとナナちゃんのみ。

 その証拠にハヤトは周りの空気の変化に少し驚いている。

 ナナちゃんは?その強靭なメンタルと空気の読めなさで頭上に?マークが浮かんでそうだよ!


『週ベル』は生放送ゆえに、何度か放送事故に等しい事態が起こったことがある。

 私、アザミの素顔に関してだったり、公然の秘密である『特典品』に関する事だったり。

 その度にCMを挟んだりするがこれは不味いな。


 当然CMを挟んだということは何か探られたくないことがあるということになる。

 そしてそれがフィフスランカーなのに強者に交じってる正体不明の女性となると話は別だ。


 アザミも『特典品』も協会が握り潰してもおかしくない、だが一個人、それもアザミの様に最強の正体不明でもないとなると要らない事を勘繰る奴も出てくるだろう。

 そしてその矛先は秘匿してる協会、知ってそうな『情報屋』、そして『焼肉処 白鐘』、その三か所に向けられる。


「はぁ……、やっぱ私、出ない方が良いかな」

「待って、アヤさん」

 ギルドを脱退して火を私のみに向ける、それで終わらせようと思った。


「エタさん。多分これ収拾付かないよ」

「まだ終わってない」

 エタさんがテレビを指差す。


『それ関係あんのかよ』

『でも気になりません?』

『そのサブマスターの正体が分かって敵が弱くなんのかよ。ならねぇだろ?だったら放っておけ』

 何も知らないハヤトさんがCM入りを阻止してくれていた。


『えー、ちなみにメチェーレさんは』

『うちでも協会所属の新人教育係って情報しか無いわね』

『そうなんですかぁ……もっと『実は引退したあの人だった!』とかゴシップ期待してたんですけどね』

 似たようなものだよ、正体不明の正体が私なんだから。

 どうやらギリギリの所で助かったみたい。


「たとえ炎上してもアヤさんを手放すことはないよ」

「そーだそーだ!」

「うん。フルスペックは発揮できないけど優秀な人なのは間違いないから追い出す道理はないよね」

「ありがと。ちょっと弱気になってた」

「お礼なら模擬戦でいいよ!」

「それなら僕も頼めるかな?」

「アヤさん!私も!私も!」

「……アハハ!」


 全く、愉快な人達だ。



 そうだ。

 私はこの人達と勝つって決めたんだ。


 あとはその決意を貫くのみ。


 身バレがどうした?

 そんな事は後から考えればいい


 今は……


「みんな、勝とうね」

「それワイが言いたかった!!」

「あはは、ギルマス交代か?」

「では、改めて。エタさんよろしくね」

 ギルマスなんて面倒そうな役職やりません。


 私、最弱なので。



「全員、優勝するぞ!!」

『『『おー!!』』』


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