『私はこのギルドにて最弱……』と言っていたらいつの間にか強者たちの仲間入りをしていました

夜霧

第0回 これは一つの敗戦から始まる物語

 二作同時、第一部完まで連続投稿予定!

 よろしくお願いします。



 ◇◇◇


「いやー、終わっちゃったなぁ」

 背後には巨大な城、しかしこれは見せかけである。

 これは娯楽故に見目が良いように作られた偽物だ。


 少し離れた視線の先にも同じようなものが3城、それとどこか別の空間にでもつながっていそうな黒い靄がかかった穴がある。

 既に仕事を終えたその穴は数分も経たない内に消える、それどころかこの空間も閉じて強制的に私もこの仮想空間から現実世界に戻されるだろう。


「初の娯楽戦だったけど、案外悪くなかったなぁ」

 私は普段は別の仕事をしている、この娯楽が更なる発展を遂げるため、とも言える今となってはかなりの人気職業に就いている。




 時は2500年。

 全人類は地球から旅立ち、宇宙に疑似惑星を創り出し、それに住むようになっていた。

 地球は人間がいなくなればキレイになる……何処かの国の学者はそう言った。

 実に数世紀に渡って人類は空へと旅立つ準備を始め、それを成し遂げたのだった。


 それから数年、人類は地球を観察し続けた。

 植物に侵食される都会、極部を含めた全ての区域の気温が正常に戻ることによる沈んだ島々の復活。

 人類は地球が元の姿を取り戻すたびに湧いた。

 しかし、それと同時に思った。

 我々人類はもう地球に戻らない方が良いのではないか?と。


 当時は疑似惑星での生活に不便もあった、だが人は次第に慣れてくるし技術は皆の理想に追いついてくる。

 もう地球にいた頃とそこまで生活水準は変わらなくなっていた。


 その議論は突如として終わりを迎える。

 未知の生命体の誕生によって。


 既存の動物同士の合成のようなものからまるで物語の中から飛び出してきたような異形のものまで大小様々な生命が人類が消えた地球に産まれたのだった。


 人間とは欲が深いものだ、そのうち『未知の生命をもっと近くで観察したい』、『捕まえて見せ物にしたい』なんてことを言いだす。


 そうして人類は再び地球へと降り立った。


 まず降り立ったのは旧アメリカの軍人と学者、総勢20名。

 学者は未知の生命体と対話ができるか?知能はどの程度か?等といったことを探りに来た。軍人はその護衛だ。


 結果から言おう、充分な武装をして事に臨んだ軍人は全滅、学者も一人残らず死んだ。

 温厚に見えた生物達も銃や爆弾といった兵器が危険に見えたのか、それらが見えた瞬間人間は襲われた。

 もはや侵略者になってしまった人類は地球に拒絶されたのだった。


 だがどう足掻いても人間は未知を知ろうとする、複数ある疑似惑星同士と地球は軌道エレベーターで繋がっている、何処の地域出身の者が集まった疑似惑星からも地球へと降り立つものは後を絶たなかった。

 旧日本の疑似惑星からも何人も変わり果てた日本へと降り立つ、無事に帰還できた者もいれば帰らぬ人となったものもいた。


 しかし、とある人物が言った。

『未知の生命は恐らく人間に匹敵する頭の良さがある。兵器を見た瞬間それを持つものを襲うくらいだ。本能だけで生きているとは思えない。ならばなぜ軌道エレベーターを破壊しない?』と。

 その人物こそ、後に『鐘の勇士ベルレイバー』と呼ばれる職業の始祖であるアレックス・ブレイマーである。


 旧アメリカの疑似惑星から降り立った彼は全くの丸腰、武器どころか食糧すら持ち込んでいなかった。

 そんな彼に向ってきたのは最初に降り立った軍人の銃弾でなんの痛痒も与えられなかったトラのような風貌ののちに『アンストラ』と呼ばれる生物が人を虐殺する風景が目に焼き付いていた軌道エレベーター周囲を写すカメラを観測する事務員は目を背けた。


 しかし、彼は生きていた。それどころかアンストラを猫のように撫でていた。

 そのうち、アンストラは彼から名残惜しそうに離れた、しかしそれは彼に『こっちへ来い』、と言わんばかりの手招きをしていた。

 事務員は離れていく彼らを写すべくカメラを自動操縦モードへと切り替え、後を追った。

 アンストラに導かれた先にあったのは変わり果てた、しかし白い外壁が残り、軌道エレベーターからの距離から推測するにそこは間違いなく元大統領官邸、ホワイトハウスだった。

 昼間なのにツタが生い茂ってる影響か、屋内は暗闇に包まれていた。カメラには暗視機能が付いていたが現地にいる彼は暗闇が写っていただろう。暗視カメラが写したのは……、変わり果てたホワイトハウスだった。

 かつてのホワイトハウスに無かった、いや、ある筈がない青色の鉱石が地面から飛び出していたり、こちらを狙うように猛禽類のような鋭い視線が周囲に複数見受けられた。

 知っている筈の官邸がまるで異世界のような有様になっていたのだった。

 カメラが周囲を観察している間アレックスは何をしていたかというと、彼は何もしていなかった。

 正確には自分の手や身体を見ていた。屋内に入ったことで何か変化があったのか?と事務員は予想し、それは見事に的中。次の瞬間なんと青い鉱石を素手で砕いた。彼は体格としては一般的な30代男性といった感じ、決して意思を砕けそうな筋骨隆々の男ではなかった。

 鉱石も青いだけで光を放ってるわけではない、一分も経たない内に目が闇に慣れて正確に鉱石だけを拳で穿つ、なんて事を一般男性がしたらこの世はもっと殺伐としていたかもしれない。

 アレックスは何か考え込むような仕草をした後に砕いた鉱石を持って帰還を選択した。帰り際にアンストラを撫でるとお返しと言わんばかりに彼の顔ほどもある手が彼の手のひらに乗せられる。彼の手のひらに黄色い鐘が置かれていた。




 その映像が公開され、世界には激震が走った。

 まるで異世界の様になってしまった元大統領官邸、そこにはまだ見ぬ新種の生物が潜んでいる事実、そしてアレックスの身体能力がそこに入った途端に向上したこと、これによって世界は競争の様に何も武器を持たずに地球へ降りることとなった。

 そして分かったことは、地球表層部にいる魔物は既存の武装を持っていなければ襲ってこないこと、ダンジョンと呼ばれるようになった地球内で有名だった建造物に入ると人間は身体能力が向上し、魔力と呼ばれる新たなエネルギーが使えるようになること、そして……魔力かダンジョン内の素材を使った武器でしか魔物は倒せないこと。

 これらが周知の事実になるまでにはそう時間はかからなかった。


 それから全疑似惑星共同で発足した魔物討伐専門機関、通称ベルレイバー協会が誕生、初代会長にはアレックスが就任した。

 それから10年、新職業ベルレイバーは人気職業ランキングでは断トツの一位、憧れの人と言えばランキング上位の面々や発足時の会長であるアレックスの名が挙がる。

 少々の票数調整はあるかもしれないが紛れもない事実、今や世界中が地球に新たに生まれた生命を狩ることを仕事にすることを肯定していたのだった。


 その状況を良しとしない団体もいるらしいが……仕方がないのだ。

 子供は格好良いものに憧れる、巨大な魔物を自分達とそう変わらない上背の少女が巨大な刀を振って一刀両断にしたり、目にも止まらぬ早撃ちで大量の魔物を倒したりする、ライトノベルや漫画、アニメの世界が現実にある、それになることを夢に見ない方がおかしい。


 現に私もそうやってこの場にいる、そして今は……。


『あ、アヤさん居た居た。お疲れ様でーす』

「……ん?あぁ、エタさんか。お疲れ様、見事な指揮だったよ」

 思考の中から抜け出すと隣には鎧兜を被り、中性的な声に変成器か何かで声を変えている人がいた、体格も鎧で分からないため、性別はどっちなのか分からない。

 今日私がこの場にいるのは彼の采配によるものが大きい、指揮官というのは時にリーダーなんかよりも重要な存在だ。


『つっても負けちゃいましたからねぇ、情けない限りっす。ブロ決まであと一勝だったのになぁ』

「仕方ないよ、私みたいな趣味の延長みたいな適当なベルレイバー抱えて勝て、なんてね。私だったらやってられないわ、そんなギルドの指揮」

『……アヤさんは強いよ。だって最後だってしっかり抜けれたよね?』

 ……なーんだ、しっかり見てるなぁ。


『他の人は大半気づいてないよ?そもそも戦いながらマルチモニター見れる人なんて少ないし、でもピートさん辺りは気付いたかもなぁ……、アヤさんが手を抜いた事も』

 ピートさん、とは臨時でこのギルドに加入した本来はもっと上の、最上位のギルドで活躍している実力者だ。

 私はあまり話さなかったがエタさんは指揮の都合上情報収集などで彼を頼ったらしい。


『出撃の直前でルーン構成変えていたのも見たし、一度も変えてなかったのに最後だけ変えるなんて変じゃないかな?』

「負け戦かなぁ、なんて思って実験でルーン変えたとか思わないの?」

『無いよ。だってアヤさん負けず嫌いでしょ?多分勢い余って自分の順位以上の功績残しちゃわないようにしたのかなぁって。なんだっけ、6万6千位、だっけ?絶対この評価は間違っていると思うけどね』

 現在、ベルレイバー達はランキングによって格付けされているそれは協会によって公開されており、私は10万以上いる中での6万6千位、万以上の順位の場合は細かい数字は出てこないため、同率の人間が千人いる。

 ちなみに先ほど名が出てきたピートさんは31位、エタさんは562位だ。3桁上位からは化け物揃い、というかベルレイバーの中でも主力の面々だ、その界隈では有名人が多い。

 2桁にもなると名が知られていない人の方が少ない。

 上位ギルドがこぞって勧誘しに行くだろう人気者で優秀な人達だ。


『うん、決めた!ワイもギルド作る!』

「おー、そうなの?応援するよ」

『何言っているんですか?アヤさんが一人目のメンバーですよ?』

「え?」

『あとはとりあえずハルカナさんとゲーレさん誘って……、有望な新人さんも見つけたから絶対確保しよう』

 トントン拍子に話が進んでいっているけど私はまだ承諾してないよ!?


『別にアヤさんは自由にやっていいよ、本気でやりたくなければそれで良いし。でもギルドには入ってもらうから』

「なんで私なんかを」

『アヤさんってさ、適当にやっているように見えて結構マメだよね。魔物の動きもちゃんと見てるっぽいし、かなり至近距離で行動する割に主武装は弓、被弾しているとこは見たことないし的確に弱点もしっかり撃てる。別に手を抜いてもいいよ、それでもアヤさんは強いから』

 ……そういえば視線には敏感だったつもりだけどカメラに対しては無警戒だった。

 普段はカメラなんて侵入しない場所で過ごしていたから……。


 一応、エタさんが私を必要以上に評価している理由に心当たりはある、まだ確信には至っていない筈……。

 多分諦めないよねこれ。


「……分かったよ。こんな私で良かったら勧誘されますとも」

『やりぃぃ!!これで勝てる!』

「そんな訳ないから!……で、目標は?」

『目標?そんなの勿論!!』


『世界一のギルドを作る』に決まってるじゃん!!



 これは最弱を語る私がひょんなことから突然ギルドに勧誘され、世界一を目指すことになる物語である。


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