第35話 クラス3ハイ・サモナー:妖精姫《リリィ》個人戦7
実の所、『白紙の召喚カード』が真の意味での『無敵』でない事は小麦とのゴブリン狩りで直ぐに判明した。
「どうにも安定しませんねぇ……。」
「火力幅のブレが大きすぎるんだよな。」
そもそもゴブリンを即死に出来ていなかった時点で不安はあったのだが、どうやら悪い予感が的中してしまったらしい。
まず肝心の吹き飛ばし効果であるが、これはそもそも召喚境界を跨いだ物体を問答無用で強烈に吹き飛ばすわけではない。吹き飛ばす威力は召喚境界を跨いだ物体が保有する運動エネルギーに比例していたのだ。つまり、静止中の物体では僅か数十cmズラす程度の威力しか発揮されない。
また、吹き飛ばし効果は召喚境界を跨いだ箇所のみに乗ってくるので、有形以外への吹き飛ばしも殆ど意味がない。魔法攻撃への効果が薄いのもそんな理由からである。
「それで、志麻先輩はこのカードをどちらで運用するつもりなんですかっ?」
「そうだなぁ……。」
即ち、カード性能そのままに『有形限定の吹き飛ばし』として運用するか、或いは
ただ、そうと決めたからには当然ながら本来の性能は隠し通さなくてはいけない。その為には無敵さの
(無形攻撃を防ぐ手段、か……。)
吹き飛ばし効果を盾に出来ないなら、盾となるアイテムを召喚エリア内に格納・召喚すると言う手はある。その場合には『召喚した盾こそがアイギスなのか』とミスリードを誘うことが出来る反面、『得体の知れない無敵さ』は薄まる。それに、ダンジョン内では魔道具の召喚が出来ないのだから突如として盾が出現したならば召喚カードの存在にも気取られかねない。
(そもそも、盾で防げる程度の攻撃だったらアイギスを使うまでもないんだよな。)
普通の盾では防げない攻撃こそアイギスでどうにかしたいと言うのが本音である。とはいえ、無形攻撃を防ぐ手段としてはやはり盾となるアイテムの格納が最も可能性を感じられるので、まずはその方向で考えてみるべきだろう。
前提として、召喚エリアへの格納には下記制限がある為、敵の召喚獣や魔法を格納するみたいな使い方は出来ない。
・格納対象は非生物であること。
・格納対象は自身の所有物であること。
ただし、格納された物体はその状態で時間が停止されるので、例えば『火』を格納すれば再召喚するまで燃えたままになる。つまりは魔力を込めた魔道具を収納しておけば使いたい時に魔力を込めた状態のまま召喚出来るって事だ。
……まあ、どれだけ魔力を込めようともクラス3召喚獣の攻撃に耐えられる魔道具なんて早々ありはしないのだけれども。
あと付け加えるなら、召喚に不慣れな俺ではせいぜい召喚エリアを2分割に部分召喚するのが精一杯だったので、盾となるアイテムを格納するにしても腕の長さぐらいのサイズしか格納出来ないわけだが……果たしてこれらの条件を満たす魔道具なんてあるのだろうか?
◇◇◇
「アイ……ギスッ!」
クラス3召喚獣の大火力を前に、俺は導き出した回答を目の前へと召喚する。と言っても、それで目に見える変化がある訳では無い。なにせ、この魔道具は目に見えない。
(頼むぞ、この時の為に攻撃先を頭部に誘導したんだからな……!)
本来であれば魔道具師の動きを止めるのに頭部を狙う必要は無い。それこそ、足を撃ち抜くだけでも試合は決するだろう。だからこそ、攻撃先に魔道具を配置出来るよう事前に仕込みを行ったのだ。
「くぅ……っ!」
そして、狙い通りに
「なっ……どうやってっ!?」
「その程度の攻撃じゃあ、俺のアイギスは貫けないってだけさ……ッ!」
正確に述べるなら、その程度の『短時間』攻撃じゃあ、である。危なかった、フェアリーの攻撃があと数秒長ければ結果は違っただろう。
(攻撃方向とは反対側に貼ってある『透過の札』もこれなら大丈夫そうだな。)
盾となる魔道具の心配こそしていなかったが、貼り付けた透過の札の耐久性には不安があった。なにせ、魔道具と言えども紙である。余波でさえもあまり浴びせたくはない。
そう、盾となる魔道具が目に見えなかったのは単純に透過の札が貼られていたからだ。それはせいぜい15秒程度の透明化であるが、今回に限ってはその時間制限も気にはならない。なぜなら、盾となる魔道具も効果を発揮するのが最長10秒だから。
(クラス3召喚獣の攻撃さえも防ぎ切るとは流石の耐久性だねぇ……ガチャは。)
何を隠そう俺が召喚エリアへの格納を選択した魔道具は、他でもないガチャ機体だったのだ。
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