第34話 クラス3ハイ・サモナー:妖精姫《リリィ》個人戦6

「その減らず口を、黙らせてあげるわっ!」


 治療を終えた妖精姫がめつけながらも試合の再開を告げる。

 怪我はセーフエリアを超えれば無かったことに出来るが、それだと幻痛が残ってしまう。恐らくは、その辺りの理由から最低限の治療を済ませたのだろう。


威勢いせいが良いねえ。 だが、俺を黙らせたいなら……頭を吹き飛ばすぐらいしないとなァ?」

「……もしかして、誘ってる?」

「自信がないなら断ってくれても構わないぞ。 また恥をかいちゃうもんな?」

「上ッ等じゃないッ!!」


 つまりは『頭を狙ってみせろ』と攻撃先を頭部に誘導してみたのだが、妖精姫は俺の狙いに気付いた上で乗ってきたのだ。先のやり取りでも感じたことだが、もしかして妖精姫って精神攻撃揺さぶりに弱い?

 或いはこれが強者の余裕なのかもしれないが、なんであれこれでフェアリーによる範囲魔法攻撃を少しでも抑えられるならその慢心に乗っからせて貰おう。


「そう簡単に黙らせられると思うなぁッ!」


 妖精姫が治療を受けている間に魔力は十分溜められた。ここからは出し惜しみ無しだ!


◇◇◇


 フェアリー目掛けて疾走しながらも挨拶代わりの投げナイフを2本投擲。彼我の距離は差程離れていない。投げナイフ処理中に接近戦へと持ち込めれば、そう思っていたのだが……投げナイフは『キンッ』と言う金属音にも似た反響と共にフェアリー目前の何も無い空間に弾かれた。


(っ!これが鉄壁と名高いフェアリーの防御魔法か!)


 不可視であることこそアイギスと同様だが、アイギスと違って有形無形問わず大抵の攻撃を防げてしまえる万能防御魔法。それがフェアリーと妖精姫を包み込むように展開されているようだ。



「お返しよっ!」

「げぇっ!?」


 そして、返す言葉と共にフェアリーの周囲から射出されたのは8本の石の矢ストーンアロー

 若干のホーミング性能を有する石の矢をギリギリの回避と両手に構えた短剣で受け流していくが、流石に数が多すぎる。7本目でついに受け流しに失敗し、体勢を崩されてしまった。手元近くでさえ曲がり伸びてくるホーミングは俺にとって相性最悪だ。


(どうする、アイギスを使うかっ!?)


 いや、駄目だ。標的が小さ過ぎて召喚境界に重ねられる自信がない。それよりは7本目を受け止めた際の重みから致命打にならないのは分かっているので、相打ち覚悟で仕掛けてみるべきだろう。

 飛来してくる石の矢を無視して投げナイフを再度投擲。無理な体勢からでは狙いが粗く、威力も大したことないだろうが一方的にダメージを背負うよりはマシ。その程度の策だったのだが、それは予想以上の成果をあげた。


(んっ? ホーミングが甘くなった!?)


 考えられる可能性としてはフェアリーが石の矢の操作ホーミングを切断して防御魔法に切り替えた為、だろうか?破れかぶれの投げナイフに過度な警戒であるが、ともあれこれなら避けられる!地面を強く蹴り後ろに転がる形で崩れた体勢から石の矢を回避してみせる。



「お返しにしてはっ、数が多すぎじゃ、ないかねぇ……っ!?」

「『恩返しは2倍で仕返しは4倍』が我が家の家訓なのよね。」

「いやな家訓だなぁ!」


 分かっていたことではあるが、フェアリーは攻守ともに隙がない。

 特に遠距離戦においては残弾数を気にしないといけない俺と違ってフェアリーの魔法攻撃には回数制限が無いので、これが続く限りじわりじわりと追い込まれていく。

 一応、残魔力という概念はあるだろうが、この程度の魔法でフェアリーの魔力が尽きることは無いだろう。やはり、遠距離戦は分が悪い。しかし、あとほんの少しの距離が詰めきれない。


「ねえ、必死になって回避していたけれど……アイギスとやらは使わないのかしら?」

「ハッ! 逆だよ。 回避できる攻撃なんだから、アイギスを使うまでもないだろっ?」

「へえ……なにかしらの使用制限があるのか、それとも本心か。 いいわ、それならこのまま追い詰めるだけよ!」


 フェアリー召喚のカラクリを暴いた俺への意趣返しだろうか、妖精姫は無敵アイギスの仮面を剥がそうとしているようだ。マズイな、正体を見破られる前に決着を付けないと。そんな俺の狙いとは裏腹にフェアリーの周囲には再び石の矢が生成されていく。

 地味と言うか、一辺倒な攻撃手段であるがモンスターと違って人を倒すのに派手な大技はいらない。防ぐ手立ての乏しい範囲魔法攻撃も最悪だったが、飽和魔法攻撃だって十分に最悪である。と言うかもう、フェアリークラス3からの攻撃はなんだって最悪だ。



(妖精姫に対人戦を師事した奴は相当性格が悪かったんだろうな……。)


 妖精姫の立ち回りは冒険者歴1年とは思えないほどに嫌らしさが込められ過ぎている。対人戦に慣れた師でもいなければ、こうはならないだろう。



「さぁ、次も避けられるかしらっ?」

「悪いが、それに付き合うつもりは無い!」


 石の矢射出と合わせるように俺の真下で煙り玉けむりだまを起爆。石の矢が到着するより先にリング内は煙幕で満たされる。やはり、石の矢のホーミングはフェアリーによる目視マニュアル操作だったのだろう、コンタクトの効果で視認性が向上している今の俺なら煙幕内の方が石の矢を避け易い。



「小賢しいわねぇ……ッ!」


 ただし、それもフェアリーの風魔法によって妖精姫の周辺から徐々に晴らされていく。恐らく、この回避方法も次は通用しないだろう。だが、これでまた1つ距離を縮められた。そして、更にもう一手。



「あっ!?」


 風魔法が弱まるタイミングを見計らって煙幕内から放たれた投擲物をこれまで通り防御魔法で防いだ妖精姫。しかし、今回は金属的な反響音は聞こえない。その代わり、防御魔法にベッタリ付着した塗料が妖精姫の視界を遮った。



 そう、今回の投擲物は投げナイフではなく、ペイントボール。有形無形防ぐと言うことは防御魔法には物質的な形があると思ったんだ。

 魔法を一度解除すればこの視界不良も解消出来るだろう。だが、それは攻撃の手が一呼吸遅れる事を意味する。その一呼吸があれば接近戦へと持ち込める!



「本当は俺とお喋りしたかったのかぁっ!?」

「黙りなさい……ッ!」


 瞬時に防御魔法解除を実行した妖精姫の決断力は流石と言っていいだろう。それでも、これで手を伸ばせば届きそうな距離にまで近づけた。あとは次の2択を乗り越えられれば勝利が見えてくる。

 即ち、フェアリーが次に使用する魔法は防御か、攻撃か。




「ミリー!!」


 手短な呼び声と共にフェアリーへと収束していく光源には見覚えがあった。妖精姫の選択はオークさえも一撃で仕留める攻撃だったのだろう。


(その攻撃が来ると思っていた……ッ!)


 咄嗟にストックウォッチを起動。強化された思考速度は時間の流れを鈍化させ、魔法発動の予兆を視界に映し出す。

 ただし、発動のタイミングが分かったとしても避けられる攻撃では無い。どれだけ思考を強化しようとも肉体は着いていけないからだ。そして、ついに光属性魔法ホーリーレイが放たれた。




「アイ……ギスッ!」


 フェアリーの魔法発動に合わせて、俺はアイギスをする。

ゴーレム吹き飛ばし時にはエリア半分だけの部分召喚だったのをなぜ今になって完全召喚するのか?それは残り半分のエリアに魔道具を格納していたからだ。そして、これこそが俺にとっての3

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