第22話 名ばかりデート
「それで、志麻先輩は何に悩んでいたんですか?」
「……なんで俺が悩んでいた、と?」
「やだなぁ、それぐらい志麻先輩のお顔を見れば分かりますよ~?」
まぁ、今は見えませんけどもっ!と続けて小麦。そうね、今もまだ顔面鷲掴みにされているもんね。
鷲掴みから逃げる素振り1つ見せずに俺の腹の内を言い当てる察しの良さは流石、クラス2召喚術師の洞察力である。しかし、それほど力を加えている訳では無いにしても鷲掴みにされながら浮かべる表情が笑顔というのはどうなんだろうか。
そんな状況のまま話す事でもないので、結局はお仕置にならなかった鷲掴みを止めにして小麦を解放。俺が手を離すと名残惜しそうな表情を浮かべるあたり、小麦は相変わらずの残念美少女である。
「まぁ、そうだな。 悩みはあるんだが……ところで小麦、今日って暇か?」
「今日はまだクエスト受けていないので、急ぎの予定はないですねっ! だからぁ、志麻先輩からデートのお誘いって言うことであれば、乗ってもいいかなぁなんて思ったり~?」
「……おぅ。」
気軽な気持ちでの問い掛けのつもりだったのだけれど、その返事にしては情報量が濃すぎである。
それに言葉尻こそ軽やかな小麦だが、作為的なまでの流し目と腰周りのしなは14歳が作って良い色香ではないだろう。自身のスレンダーなスタイルの強みをよく理解している。と言うかこんな所作、何処で覚えてきたんだ。
俺の考えを逸早く察した小麦の先制攻撃に出端を挫かれてしまったが、要は1人で性能検証するから危険なのであれば真っ当な解決策は2人以上でダンジョンに潜る事である。
他者と行動する事で生まれるリスクもあるにはあるが、その点も小麦が相手であればオールクリア。つまりは、性能検証における最適解が目の前にあったのだ。流石にこのチャンスを逃すのは勿体なさ過ぎる。
「それなら、ちょうど良かった。 実は小麦をデートに誘おうと思っていたんだ。」
「……へぁっ!?」
いや、なんで自分から話を振っておいて俺が乗ってきたら動揺するんだよ。もしかしたら冗談のつもりだったのかもしれないけれど、もうキャンセルは受け付けないぞ。
◇◇◇
「いい加減、機嫌直してくれない?」
「別にぃ、機嫌悪くなんてしてませんけどぉ~?」
見るからにムスッとした小麦を連れてやって来たのはダンジョン1階層、平原エリア。近くに小川も流れているので検証を行うには何かと都合がいい。
「なんでそんなに機嫌悪くしているんだか……。」
「分かってるクセにっ! やっとデートのお誘いしてくれたと思ったら、これ、ただのダンジョンの付き添いじゃぁん!」
「2人で出掛けている訳だし、実質デートと言えなくも、」
「モンスターの出てくるお出掛けをボクはデートとは認めないからっ!」
食い気味での否定はどう見ても機嫌の悪さの表れであったが、確かに小麦の言い分にも一理ある。俺でもデートと言われて向かった先でモンスターが出てきたら『こんなのデートと違う』と思っただろう。しかし、そうは言っても、である。
「冒険者が冒険者ギルド内で待ち合わせて向かう先って言ったらダンジョンに決まっているだろ?」
「うぅぅ~、可愛い後輩を正論で殴って楽しいですかぁ~?」
「暴論で殴られていたなら正当防衛が認められるんじゃないかな。」
あと、美少女が上目遣いに恨みがましげな視線を送るのは止めたまえよ。性癖が歪んだらどうしてくれるんだ。
「それで、なにも説明されずに人気の無い所まで連れ込まれましたけど……ここで何するんですかぁ?」
「何かをするより先にその人聞きの悪さはどうにか出来なかったのか?」
ダンジョンは入口付近に人が多く、そこから歩き回る程に
念の為、魔道具で確認してみるがやはり人の気配は無さそうだ。それならば、そろそろ本題に入っても良いだろう。
「実は召喚カードを手に入れたんだ。」
「!! もしかして、この前の階層渡りの魔石を使って出したんですかっ?」
「そうそう。 それでまぁ、手に入れたんだけど、これがちょっと変わったカードでね。 見せた方が早いか。」
懐から例の白紙カードを取り出して見せると、案の定小麦は困惑の表情を浮かべる。
「あの……これ、白紙ですけど。」
「うん、最初から白紙なんだ。」
「はぁ……えっ?」
そりゃ、そんな顔するよな。でも、実際に白紙なのだからそうとしか言えない。
「もしかして、エリア召喚ですか?」
「お、正解。 真っ先にその可能性が出てくるあたり、流石は数少ないエリア召喚の使い手だなぁ。」
「いえ、それでも白紙はおかしいと思いますけどね?」
言いながらも取り出したのは小麦が
そう、例えエリア召喚だとしても白紙というのは聞いたことが無い。それこそ、見た目的に変化の乏しいセーフエリアでさえ『乳白色の流れる空気』が絵柄として存在しているのだ。
「ネットで調べてみても一般的な白紙カード(修復が必要なカード)ばかりが検索にヒットするから、自分で検証するしか無さそうなんだよね。」
「それは、そうでしょうね……てことはやっぱり、これデートじゃなくて検証中の護衛じゃないですかぁ~っ!」
「いやぁ、クラス2の召喚術師をタダで雇えるなんて、持つべきは出来の良い後輩だよ。」
「ううぅ、志麻先輩はそうやっていつもボクを都合の良い女扱いする……。」
「おいそれ、他の人の前では絶対に言うなよっ!? まぁでも、手札を見せて問題ないと思える相手が(あの時の冒険者ギルド内に)小麦しか居なかったから、付き合ってくれるのは本当に助かったよ。」
「……まぁ? 頼れる相手がボクしか居ないなら、ボクが付き合うしか無いもんねっ? 志麻先輩は世話が焼けるなぁ!」
この程度の持ち上げで機嫌を直してくれるのだから、なんだかんだで小麦は良い子である。……いや、今の感想には(都合の)とか付いていないから。本当に。
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