第19話 ガチャは不正を許さない

 排出するアイテムにランダム性のあるガチャはランダム性が故に問題に取り上げられる事がしばしばあった。

 要は、『なんであの子は良いカードを引けて、私は引けないのよ!』問題である。


 それを『運次第だから』と切り捨てるのは簡単だが、その程度の正論で納得出来るなら最初から問題になどなっていないだろう。むしろ、『運次第だからこそ』納得出来ないのだ。

 そして、納得出来なかった者がどうするかは古来から決まっている。



 どんな手段を用いてでも、ガチャの中身を手に入れようとする。それこそ……ガチャを破壊してでも。つまりはまぁ、不正行為である。

 しかし、残念ながらガチャの破壊に成功した事例は今のところ存在していない。例え高位召喚獣の攻撃を浴びようともガチャには傷一つ付かなかったのだ。破壊は現実的では無いのかもしれない。


 ただ、それでも1つの可能性が潰えたぐらいで全てを諦めるほど人類はお淑やかでは無い。召喚獣でも、人の手でも破壊出来なくとも……まだ残っているではないか。そう、『魔道具』と言う無限の可能性が。

 直接的な攻撃性能では召喚獣から大幅に遅れを取る魔道具だが、その本領は解析不能な超常現象にある。


 それに、どれほどの攻撃だろうと傷付かないガチャであっても、外部干渉を一切受け付けない訳では無い。実はクレヨンやサインペンを用いる事でガチャ表面に印を描くこと自体は可能だったのだ。

 しかもその後にガチャを再召喚すると印の描かれたガチャが召喚される。他者が召喚するガチャに印は描かれないので、召喚できるガチャは個人で固定なのだろう。

 ……ならばもし、ガチャを破壊出来ずとも次に出てくるアイテムさえ分かったなら。ガチャを回すかどうかの指標に使えるのではないだろうか?



 その理論を元に幾度となく試されてきた魔道具の一つが『透過の札』だ。性能は名前の通り、『貼り付けた非生物が透明になる』と言うシンプルなものである。


 透明に出来る物体のサイズに上限こそあるが、それでも性能だけを見るならば善用悪用、使い道は様々だろう。ただし、セーフエリア然り、この手の有用な魔道具に限って魔力をバカ食いするのだ。俺も1枚だけこの魔道具を持っているが、全魔力を注いでも人間サイズの物体を15秒程度しか透明に出来なかった。


 それでも15秒は透明に出来るなら使い道はある?馬鹿言え、それほど多くの魔力を魔道具に注ぎ込めば準備段階で結局誰かに見つかってしまう。見つかった上での透明化に何の意味がある?無闇矢鱈に使用すれば、犯罪者扱いされかねないだけである。



 だからこそ、ガチャの内部を見ることが出来ればこの魔道具に価値が生まれただろう。しかし、実際に透過の札で出来たのは『まったく透明にならない』か『すべてが透明になる』かの2択で、内部を見ることまでは出来なかった。

 それ以外にも、あの手この手でガチャのセキュリティを突破しようと世界中が躍起になっているが、未だ難攻不落。ガチャに不正は通用していない。



◇◇◇



召喚サモン!」


 気持ちを落ち着かせた俺は再度、ガチャを召喚した。

 よくよく考えたら石を捧げてもガチャが回らない可能性だってあるのだ。もしそうだったなら緊張するだけ滑稽なので、もう勢いに任せることにする。

 召喚されたガチャを前に『魔石を捧げる』と心中で念じると、あれ程大事に握っていた魔石が幻だったかのように消え失せていく。これでいよいよ後戻りは出来ない。



(うぉぉ、動いた……!)


 ただ、クラス3の魔石を捧げたかいはあって、ガチャがそれまでにはない光を放ち始めた。予想通り、魔石が必要量を超えたのだろう。アイテム排出に向けてガチャが起動していく。

 その光景は排出エフェクトを含めるならば仰々しくも神々しくもあるのだが……なにせもう見慣れている。精々数十秒程度の追加演出に『スキップ機能あったらいいのに』と思うぐらいにしか今更感想を抱かない。

 あとはこの光が収束してアイテムが排出されるのを待つだけだ、が……。



「光が、収束しない……!?」


 それどころか、光が7色に変化を始めたのだ。ぞわりと背筋に押し寄せる感情の波は高揚か、それとも後悔か。



 虹色に輝く排出エフェクトは見間違うことの無いレアアイテム排出のサイン。ついに、この時が来てしまった。これが俺にとっての最後のガチャになるかもしれない。


 いや、だが、ここでレアを引けなければ再びガチャを回すのに数年分の魔石が必要になっただろう。そうなると冒険者人生で回せるガチャ回数は多くてもあと2、3回程度。

 ならば回せるうちにレアが出てくれたのは悪くない、のではないか。いや、もう、そう思うしかない。なにせ、レア排出は止められない。



 揺れ動く俺の心境を置き去りに排出された光はカードの形に収束していく。

 レアアイテムは魔道具カードまたは召喚カードで確定だ。確率が1/2なら『頼む、何でもいいから召喚カード来い……!』、そう思いながら伸ばした手がガチャから排出されたカードを掴み取った。





「これ……は……、」


 表面に描かれたデザインは一目見ただけでそれが何であるかを俺に伝えてくれる。描かれていたモノを、俺は知っていたのだ。

 まさか、そんな……夢では無いだろうか。魂が、声が、震えそうになるのを残った精神力で抑え込む。そう、まずは確認だ。



「……召喚サモン


 手に持っていたカードが消え、入れ代わりで召喚されたのは懐中時計にも似たアンティーク調の精密機器。当然そこに生命は宿っておらず、エリア召喚系のアイテムでも無い。……つまりは魔道具だ。


 手のひらに収まる円形の魔道具は魔力が流れていない状態では何も刻まず、魔力を流した時にだけ針が進む。そして、上側面には2つのボタン。そこまで出揃えば時計と言うよりもより酷似した物があるだろう。



「間違いない。 これ、ストッウォッチだ……。」


 それは俺が戦闘時に使用している思考速度向上魔道具の上位互換アイテムで。



 通称を『ハズレア』……要はハズレ枠のレアアイテムなのである。



 俺はそれから数日間、寝込んだ。

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