第5話 クラス1ハイ・サモナー:ヒューマン団体戦
召喚獣の空間に荷物を保管出来ると言っても、スペースは有限だ。と言うのも、本来は召喚獣が配置されているだけのスペースに無理矢理荷物を置いているのだから当然と言えば当然だろう。
その上、モンスターは魔石以外にも肉体の一部を
そうすると、ダンジョンアタックを行う際には荷物の厳選も必要になってくるのだ。要は、クラス3召喚術師ともなると第1階層の魔石なんていちいち拾わないのである。
ただ、それが
妖精姫ほどの有名人ともなると、周囲へ寛容さを示さなくては途端に悪評が出回ることになるだろう。
「あれは絶対、私が貰う……!」
「何言ってるの!? あれは私のモノよッ!!」
取り巻きたちが妖精姫に着いて回っていたのは『妖精姫のファンだから』と言った好意的な理由ではなく、『ドロップアイテムが貰えるから』と言う打算的な理由からだったのだろう。
先程まで取り巻き同士で仲良く妖精姫を持ち上げていたかと思えば、ドロップアイテムが絡んだ途端に内部分裂を引き起こす。これがハイエナの本性である。
彼女たちは自分の欲の為だけに徒党を組んでいるのだから、そこに仲間意識なんて存在していない。
妖精姫と同じローブを羽織っていることから取り巻きは皆、召喚術師であるようだが、召喚術師全員が強い訳では無い。言うなれば彼女たちはクラス1召喚術師なのだろう。ソロで活動していないことから、個々の実力は俺より低い可能性さえある。それでも、召喚術師の時点で魔道具師より社会的立場は上なのだが。
褒められた行為で無いことは間違いないが、他人のドロップアイテムを掠め取るハイエナ行為を蔑むことまではできない。法律に違反している訳でもなければ、俺だって1度も行ったことがない訳でも無いのだ。
それに、他人を撒き餌にするのだって十分にグレーな行為である。
だが、それでも今ばかりは黙って状況を見守っている訳にはいかない。成り行きに身を任せてしまえば、そのまま階層渡りの魔石を横からかっ攫われてしまうだろう。
魔石へと向けられている取り巻きたちの熱っぽい視線を無視するように、俺は魔石へと手を伸ばした。
「「「あ」」」
声を上げたのは魔石の行く末に目を輝かせていた取り巻き女性だけ。やはり、妖精姫自身は魔石に興味無さそうである。
「お前……! まさか、お姫さまの魔石をパクろうってんじゃないだろうなァッ!?」
「魔道具師がッ! その魔石をこっちに寄越せ!!」
騒ぎ始めた取り巻きの声が第2ラウンドの開始を告げる。身体は未だ万全とは言い難いが、弱音を言っている暇はない。
今度の戦いは……舌戦だ。
◇◇◇
「誤解しないで貰おうか! 助けられた上に魔石を盗むなんて、そんな冒険者の風上にも置けない行動をするわけがないだろう!?」
まずはジャブとして俺が妖精姫に敵意を持っていないことを表明する。そう、妖精姫は俺の敵では無い。敵は妖精姫を取り巻く女性たちだけである。
「じゃあ、なんでお姫さまの魔石を手に持っているのかしらっ!?」
「懐に入れるでもなく、手に持っただけで咎められる事なのか?」
「っ……!」
この段階での騒ぎ立ては時期尚早だと釘を刺す。まあ、勿論俺も魔石狙いなので騒ぐ内容自体に間違いはないのだけれどね。
「魔道具師が召喚術師に口答えするな!」
「つべこべ言ってないで、魔石をそこに置けッ!」
「誰、あの魔道具師。 感じ悪ッ!」
ただ、やはり厄介なのは数の多さだろう。こちらが1をやり込めても、あちらから言い掛かりを含めた10で返されていては先に進めない。まずはあちらのペースを崩すところから始めようか。
「こちらはソロなんだ、そう
「良いから、魔石を置けって言っているのよッ!」
「そうよ、離れて!」
「なんで私達がボッチに合わせないといけないのよ!」
「あっ、バカ……ッ!」
人の数はそれだけで力になる。だからこそ、これだけ人がいれば中には考え無しもいるだろうとは思っていた。そうして、狙い通りに引き出せたのがソロ冒険者を
ボッチのなにがいけないのか?それは何を隠そう、彼女たちが持ち上げている妖精姫もソロ冒険者らしいのである。
妖精姫までもが含まれる蔑みを『私達』とまるで総意のように発言されてしまえば、そのことに気付いたハイエナが黙っていない。
「私は、ソロでダンジョン潜れるの凄いと思いますけどね!」
「はぁ? なんであっちの味方してるのよ!」
「違うわよ! 分からないなら、黙っててッ!」
「あァ? 私に指図する気!?」
これでハイエナの共食いは激化するだろう。あともう一押ししておくか。
「まあまあ、一旦落ち着こう! 君たちだって姫さんを思って憤っていたんだ、言い争いを見せるのも本意じゃないだろう?」
「! そうよ、私達はお姫さまの事を思って行動しているのよ!」
……肝心の妖精姫はこのやり取りに一切の関心を示していないんだけどな。ともあれ、これで妖精姫に嫌われるような行動は表立って出来なくなった。
「俺も、姫さんを思って、救って貰ったお礼に魔石を持って行こうとしているだけなんだ!」
その上で、俺が魔石を手に持つことへの正当性を主張する。ここが重要。これこそが分水嶺だ。
ドロップアイテムの獲得権利は第1にモンスター討伐者にある。この場合は妖精姫がそうであり、直前までモンスターと戦っていた俺は第2獲得権利者であるのだが……仮に妖精姫が『要らない』と宣言したとしても一度俺の手元から離れてしまえば、その後に魔石を回収するのは困難だろう。
なぜなら妖精姫が『要らない』と宣言したとしても、獲得権利が俺に移るとは限らないからだ。要するに、妖精姫が『要らないから
そうでなくとも敵は多勢に無勢。他人の手に魔石の行方を委ねたいとは思えない。
重い身体を引き摺るように、ゆっくりと歩を進めていく。ここからは全ての行動に気を付けなければならない。
難癖だろうと、なにを敵対行動と受け取られるか分かったものでは無いのだ。それぐらいに、魔道具師と召喚術師の仲は悪い。
「待て! 魔道具師がお姫さまに近づくな! 魔石なら、私が受け取ってお姫さまにお渡しするッ!!」
動きを制止させる警告は取り巻きによる牽制だろう。少しでも魔石を手元に残しておきたいと言う俺の考えももしかしたら見抜かれているのかもしれない。
妖精姫への道はハイエナの群れで閉ざされた。当然だが、攻撃するわけにもいかなければ無理に突破することもできない。これなら、反撃が許されているだけオーク相手の方がましだったかもしれない。
仕方がない。阻まれてしまったのなら……別の方法に出るしかない。
「そうか、それならこの場からの礼になってしまうが、姫さんありがとう! お陰様で俺は無事だ!」
「それなら良かったわ。」
そう、取り巻きによって行動が制限されたなら直接妖精姫へと声を掛けてやればいい。召喚術師の中には取り巻き女性のように魔道具師を下に見ている者も多く居るが、妖精姫は社交辞令を含んでいたとしても2度、俺を気遣ってくれている。それならば話が通じるのではないかと思ったのだ。
幸いにも先の質問への返答と言うキッカケもあったので、会話の滑り出しとしては上々だろう。
「この魔石を持ってそちらに向かいたいのだが、良いだろうかっ?」
「そうしたいのなら、どうぞ。」
「なにを……お姫さまっ!?」
『この魔石、いらないならくれ』と、ストレートに言ってしまいたい気持ちを飲み込み、代わりに得た『妖精姫直々の許可』と言う万能キーで取り巻きをかき分け、前に進んで行く。
取り巻きがどれだけ邪魔をしたがったとしても、彼女たちは妖精姫には逆らえない。これで妨害はし難くなっただろう。
通り過ぎる度に取り巻きからは殺気混じりの視線が送られてくるが、それで致命傷を負うわけでもないのだ。オークと違って恐れることは無い。
ただ、さっきからなんで俺はご同輩をモンスターと比較しなきゃいけないのだろうか……。
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