第32話 クラス3ハイ・サモナー:妖精姫《リリィ》個人戦4
「来い、アイギスッ!!」
「Ooooooo…………」
呼び声と共に白紙の召喚カードを起動させると、頭上まで迫っていたゴーレムは弾かれたように上空へと巻き戻されていく。そうして、初期召喚位置どころかセーフエリアを超えた辺りでゴーレムは姿を消した。エリアを跨ぐほどに術者と離れたことで魔力のパスが切れたのだろう。
「うそ……っ!?」
強制的な召喚解除には流石の妖精姫も動揺を隠せないでいる。まぁ、そうだよな。巨大質量に押し潰されるのを防ぐどころか、逆に吹き飛ばしてしまうなんて普通に考えれば有り得ない。
しかし、その有り得なさこそが『
そして、空間の歪みはそれと重なり合って存在している物体を歪み解除時に問答無用で弾き飛ばすのだ。そこに対象のクラス・強度は関係ない。例えドラゴンだろうとも吹き飛ばせてしまえるだろう。
……まあ、実際は『無敵』とは程遠く、欠点も多いのだけれどね。ともあれ、これで障害は無くなった。あとは妖精姫の身柄を抑えるだけだ。
「俺の手並みには、満足頂けたかなっ?」
「ええ、見事なものね……っ! ここまで完璧にあしらわれるなんて、思ってもいなかったわ。」
賞賛の言葉と共に後退する妖精姫。やはりもう魔力が残っていないのだろう、ついに妖精姫を
これであとは追い詰めれば俺の勝ちだ。経過時間以上の濃密な試合内容にウィニングランを飾る気持ちで駆ける俺を……ゾクリと全身が身震いする程の危機感が押し寄せてきた。
(オイオイオイ、どういうことだッ!?)
これまでで一番の悪寒。これほど追い詰めてもまだ、何かがあると言うのだろうか?妖精姫の様子を伺ってみるが、何かを狙っている感じは無い。ただ、後退しているだけ。
……待て、後退するにしても妖精姫の動きは些か緩慢過ぎやしないだろうか。
共に溜めた魔力の殆どを使い果たした身ではあるが、それでも妖精姫が本気で逃げ回れば追い付くまでに召喚獣一体分ぐらいの魔力は稼げるかもしれない。それなのに、今の妖精姫はそこまで遠くに逃げようとする気配が感じられないと言うか……まるで、
妖精姫は一体なにを狙って、どこを目指しているんだ?向かう先に視線を向けてみるが、当然、闘技場を構成している四角の石タイル以外には何もあるわけがなく……。
(ん?)
妖精姫が向かう先で見つけた唯一の違和感、それは妖精姫よりもずっと後方のタイルに描かれた……円形の模様。
(あれは妖精模様なのか? でも、なんでそれを地面なんかに? それに、いつの間に描いたんだ?)
妖精模様は刻まれた物体の性能を強化する。妖精丸薬のように模様の刻まれた物体を取り込むのはどちらかと言うと例外的な用法で、だからこそ取り込むことさえ出来ない地面に刻む意味が分からなかった。
それにそもそも、妖精姫は試合中模様のある場所へは立ち寄っていない。どうやって模様を刻んだと言うのだろうか。
(……そういえば妖精姫がフェアリーダンスを披露したのがあの場所だったか?)
それならばダンスを踊ったことでたまたま出来た円形の跡とも受け取れるが……円形模様と妖精姫をこのまま見逃してはいけないと俺の直感が告げている。
「そいっ!」
「っ……!」
感覚に従って投げられたナイフは妖精姫のローブ深くに突き刺さる。あの表情からして、致命傷ではないにしても無傷ではないだろう。しかし、それでもダイレクトアタック成功より警鐘の方が大きい。なにせ、今の投げナイフは妖精姫を狙ったのではなく、円形模様を狙っていたのだ。
(我が身を盾にしてまで庇うのだから、あの模様になにかしらの策があるのは確定か。 それなら問題はどんな策があるのか、だ。)
流石にこの場面で妖精姫の足を止める手段は持ち合わせていない。くそっ、もっと早くに気付いていれば……ほんの少しの油断さえ命取りになるのだから、クラス3は侮れない。
果たしてやはりそこが目的地だったのだろう、円形模様内で足を止めた妖精姫。向けられた顔色からは依然として闘志が伺える。
(ん? 円形内部に……妖精姫?)
チリチリと思考にノイズが走るのを感じる。何かを思い付きそうで思い付けず、思い出しそうで思い出せない。そんな気持ちの悪さが悪寒に纏わりついていた。
「いいわ。 負けを、認めてあげる。」
だからこそ、妖精姫からの敗北を認める言葉を引き出せた際には安堵の吐息が溢れる思いだった。そう、続く言葉さえなければ。
「クラス3召喚前に潰すと言うのは私の慢心と貴方への過小評価だったみたいね、撤回するわ。 ……でも試合の勝ちまで譲る気はないからっ!」
追い詰められて尚、毅然とした態度で妖精姫は勝利を宣言する。だが、その身に溜めた魔力量はクラス1召喚にも満たないはずだ。それで何が出来ると言うのか。そう、思っていた。
「
それは何時ぞやに見た光景。そして憧れを抱いた情景である。クラス3召喚獣が……フェアリーが闘技場に顕現した瞬間であった。
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