第二章 新しい仲間は強いエビですわ!

第15話 エビのボクサーさんですわ!

「わたくしの実父、シャイダー・シュヴェーヌマンは、裏では海賊とも言われていましたわ」


 フォージー大陸へ向かう船に乗りながら、わたくしは実の父のことをステイサメさんに話します。


「父は大胆な航路開拓など、その姿は海賊とも称されたほどだったとか」


 船が海に沈むまでは、大活躍だったそうですのよ。


「では、キミの養父は」

「あれは、父シャイダーの兄ですわ。子供に恵まれなくて、わたくしを引き取ったそうですが、その翌年には娘が生まれまして、その子にかまいっきりでしたの」


 娘も、メイドとの間に生まれた子だそうですが。


「養母さまは、わたくしどころか妹にさえあまり関心がありませんでしたわ」

「キミの実の母親については?」

「それが、わかりませんの。今回の旅で、わかればいいなと」

「お母さんの情報が、あるといいね」

「ですわね。さて、湿っぽい話はそれまで。新大陸へ参り……なんですの!?」


 突然、マストが破壊されましたわ! 大陸まで、あと少しですのに!


 乗客はおろか、冒険者さんでさえパニックになっていましてよ。


「何が起きましたの?」

「わからない! でも大群が襲ってきたみたい!」

「海賊ですの?」

「だったら、威嚇射撃があるはずだ。いきなりマストなんて壊さないよ!」


 何かが、船によじ登って来ました。顔が魚の人間で、手足にはヒレがありましてよ。


「半魚人ですわ!」

「まさか、深きもの!」

「でしたら、こちらも応戦ですわ!」


 乗客を守りつつ、半魚人たちを撃退していきますわ!


「数が多すぎますわ。ステイサメさん、【シャークネード】、参ります!」

「OK!」


 ステイサメさんが、船の床に背中をつけて、回転をはじめます。ウインドミルというダンスの技ですわ。


 サメの群れを形作った竜巻が、ステイサメさんの足から放たれます。質量を持ったサメ竜巻が、半魚人を次々と飲み込んでいきますわ。


 その凄惨な光景を見て、味方の方が戦意を喪失し始めました。嘔吐する方もいらっしゃいます。


 しかし、どれだけ倒しても半魚人は減りません。


「なんですのコイツら。キリがありませんわ!」


 倒しても倒しても、海からワラワラと。


「インスマス面が、しょうこりもありませんわよ!」

「ルカン、【ダブルヘッド】お願い!」


 わたくしがキャンディケインを振って、ステイサメさんへ魔力を送り込みます。


 ステイサメさんの両足が、氷と炎に包まれました。ウインドミルの回転がさらに上がり、半魚人たちを飲み込んでいきます。


「氷と炎が合わさって、無へと帰れ!」


 炎と氷、同等の威力を持つ魔術を、ステイサメさんは足を重ねて炸裂させました。


 船の上に、爆風が巻き起こります。


 できるだけ半魚人だけを巻き込むように、わたくしは風の魔法で衝撃波をコントロールいたします。


「これでいかが……しつこいですわ!」


 まだ、大物がいました。船さえ沈めてしまいそうなほど、大きな物体です。上半身だけで、船より大きいとは。


 これは敵を倒せたとしても、波で船を沈められてしまいますわ!


「とおーっ!」


 どこからともなく現れた赤い球体が、半魚人へと向かっていきます。あんな速い物体、どこから参りましたの?


 赤い物体が、大型半魚人にぶつかりました。


 大型半魚人が、船から離れます。


「深きもの共よ! これ以上の狼藉は、許さん!」


 球状の赤い物体が、人間の形を取りました。いえ、人間とはとても言えない姿ですわね。


 二足歩行で立つ、エビですわ! エビが、しゃべっています!


「あれも半魚人でして?」

「違う。あれはシャッコー族だ!」


 シャッコー族の顔は人間の女性でしたわ。では、あの赤い装甲はプロテクターですか。エビ型のフルプレートメイルで、全身を固めていますわね。


「強いエビですわ!」


 印象的なのは、腕にはめた二本のハサミです。


 あれはまさしく、エビのボクサーさんですわ!

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