第13話 魔法人間ですって!?
老人はお肉屋さんや魚屋さんがつけるような厚手のエプロンをかけています。そのエプロンは、返り血で汚れていましてよ。
「あなたが、この海域に嵐を起こしていたのですわね?」
「そうだ。実験の邪魔だからな。人払いをしていたのだ。ただでさえ指名手配されている。うるさくてかなわん」
この科学者は、他国で犯罪を犯し、
「なにが悪いというのか。共産主義者と資本主義者の親玉同士を真っ二つにして、くっつけたやったのに」
なにも悪びれていませんでしたわ。
「あなたの悪事もこれまでですわ!」
「悪事だと? 吾輩の実験に、善悪ではない。成功か失敗かで言えば失敗だったに過ぎん。そもそも人間風情が、なにをもって人を善と悪とで分けるのだ? 人間ごときが! それこそ、真っ二つにせんとわからんだろうに」
杖をつきながら、科学者は独自の理論を展開します。
「あなたの所業は迷惑行為ですわ! この海域から出ていきなさって! 航路を分断する権利はあなたにはなくってよ!」
「結果論だ。たまたまそこが航路だったにすぎん。吾輩のせいじゃない」
どうやら、話し合いをしてもムダなようですわ。
「どうしてもどけというなら、吾輩の最高傑作を倒すがよい! マグマスノー」
赤と青が二つに別れたローブの魔術師が現れました。赤い杖を持っているのが男性、青い書物を持っているのが女性です。赤い杖の先端についた宝玉には、炎が揺らめいています。対して、青い書物の表紙には雪の結晶が描かれていました。
「どうだ! わが改造魔法人間・マグマスノーのビジュアルは! 火炎術士と氷結術士を真っ二つにして、くっつけたのだ! 氷と炎を同時に操ることができる究極の魔術師の完成だ!」
博士は興奮していますが、術士は無表情のままですわ。
「死ぬがよい。やれ、マグマスノーッ!」
術士が杖から炎の弾を、書物を開き、氷の槍を撃ち出しました。
「ウォーターガンですわ!」
レーザー状の水で氷槍の軌道をそらし、火炎弾を消し去ります。
「なんと、たかが水魔法でここまで可能とは。すばらしい。我がコレクションに是非加えたいぞ!」
「お断りですわ!」
「ふふふ。マグマスノーが一体だけとは、限らんのだぞ!」
博士が、わたくしの背後を見てニタニタします。
「ルカン、後ろだ!」
ステイサメさんの叫びに、わたくしはとっさにしゃがみまして。
火炎弾が蒸発して、湯気が立っていました。
危うく、ゆでダコになるところでしたわね。
ですが、ステイサメさんが足払いをして術士を転倒させます。
「サメ魔法は、ここでも有効ですの?」
「可能だよ!」
「では、サメキックですわ!」
わたくしは、ステッキをグーンと研究所の端まで伸ばしました。
鉄棒の要領で、ステイサメさんは宙返りをします。
遠心力を利用して、私の正面にいる術士に突撃しました。
「バカな。もう一度術をおみまいしてやれ!」
術士が、また火炎弾と氷結槍を放ちます。
「そんなもの、サメ魔法の敵ではありませんわ! ステイサメさん!」
サメとなったステイサメさんは、なんでも食い尽くしました。
「くらえ、サメキック!」
バク転から、ステイサメさんは相手の頭を足で挟み込むように蹴りを入れます。
魔法人間は、脳とアゴを砕かれて絶命しましたわね。
わたくしも、反対側にいる魔法人間に高水圧の槍をお見舞いします。
心臓を貫かれれば、炎も氷も関係ありませんわ。
「なんと『サメ使い』だと!? 絶滅したはずでは!?」
「現代に復活いたしましたの。観念なさいませ」
わたくしとステイサメさんは、武器を突きつけて博士に近づいていきます。
「ふははは!」
突然、博士は笑い出しました。
「何がおかしいのでして?」
「長生きはするものよ! よもや、伝説の『サメ使い』にでくわすとは! 巨大イカやキメラモンスターの製造ばかりで、退屈しておったところよ!」
『オーバードーズ必須 ゾウも失神するエナドリ』と書かれた瓶を棚から取り出し、博士はゴクゴクと飲み始めました。
「これはよい研究資料だ! 貴様を始末し、隅々まで解体してくれるわ!」
ヨボヨボだった博士の身体が、筋肉ムキムキになっていきますわ!
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