第2話 わたくし、名前を変えますわ!

 起き上がって、わたくしは事情を聞きます。


 わたくしのスキル【サメ使い】は、従えたサメを任意で人間に変えることができるそうですわ。

 ファーストサメだけだそうですが。

 まずわたくしが一匹のサメを操り、他のサメは、わたくしに仕えるファーストザメのいうことを聞くと。


「ステイサメさんは、人間ですの? サメですの?」

「両方。あなたのスキルを受けて、この姿を得た。これなら、他の人間ともコミュニケーションを取れる」


 なるほど。サメ姿でもわたくしとだけなら交流できるそうですわ。でも、言語を用いで会話するにはその姿になる必要があると。


「基本は、サメのままだよ、主殿あるじどの

「ええ。それで結構ですわ。わたくしはルク……」


 主殿って、かたっ苦しいですわね。


 かといって、ルクレツィアという名はもう使ってはいけないでしょう。


 死んだことにしておいたほうが、わたくしとしても都合がいいですわ。ヘタに生きていると知られて、調査されてまた殺されそうになるのもシャクですし。


 わたくしは貴族ですが、偉そうに振る舞いたいわけではありません。どちらかというと、身分を隠して平民と水遊びしていた頃のほうが楽しかったですわ。


……はっ、お待ちになって!



「ルカン! 今日からわたくしはルカンですわ!」



 わたくしたちの世界の言葉で、『ルカン』とは『サメ』を意味します。


 かつて、わたくしがお屋敷を抜け出して平民と遊び呆けていたときに使っていた偽名ですわ。


 もう使うことはなくなったとおもいましたが、まさか、サメさんを相手に使うことになるとは。


「なので、ルカンとお呼びになって、ステイサメさん」

「はい。では、よろしくおねがいします。主・ルカン殿」

「敬語は結構ですの! わたくしは、侍従がほしいわけではありませんのよ」


 ずっと、いっしょに暮らすのですもの。フレンドリーに行きたいです。

 同年代のお友達がほしいのですわ。


「わかった、ルカンよろしくね」

「ええ、よろしくて」

「そうだルカン、お腹が空いてない?」


 言われてみれば、何も食べておりませんわ。


「本格的なスキルの習得法は、今度にしよう。お魚を取ってくるね」

「え、共食いになりませんの?」


 同じ海の仲間ですわよね?


「いや、普通に食べるよ。あと、食べてあげないと海の生き物たちは悲しむから」


 弱肉強食の世界に生きる彼らは、自分も食べられることを想定して生きてらっしゃるといいます。

 たとえ食べられたとしても、「海の生命体と一体化する」という独特の価値観を持ってらっしゃるそうで。

 それでも、食われまいと抵抗はしますが。


「独特の宗教観ですわね」

「うん。だから、気兼ねしないで」

「わかりましたわ。火をおこして待っております」

「ありがとう」


 そう言って、ステイサメは海へダイブしました。


 この無人島には、乾燥した木がいっぱいありますわね。これで火を付けましょう。


「おおおおお!」


 わたくし、火の魔法は使えません。出せるとしたら、もっぱら水鉄砲くらいですの。ですので原始的な火の熾し方でいきます。

 枝に枝を挟んでうおおおおおお! 


 夕日が沈みそうですわ。早くしないと。


「火がつきましたわ!」


 わずかに煙が立ち、火種ができます。平民に教わった火熾し術が、ここで役に立ちましたわーっ!


 その辺にあったロープの切れ端をほどき、火種を投下しますわ。


 令嬢を舐めないでくださいまし!


「ただいま。うわ。ホントに火がついてる」

「おかえりなさいませ。やりましたわーっ!」


 両手を広げて、わたくしは喜びを表現します。


「じゃあゴハンにしよう。スキルに関しては、後に教えるから」

「ありがとうございます」


 海に打ち上げられた鉄の盾を鉄板にして、海鮮をいただきますわ。


「ホタテ、最高ですわーっ!」


 もう、ここに住んじゃいましょうかしら?


 いえいえ。水場を確保せねば。


 今日は水魔法でしのいで、明日から井戸か川を探しますわ!

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