異世界防衛軍作戦記録
ほわりと
異世界防衛軍 Flame of Vengeance
『敵の数が多すぎる、撤退しろ!』
無線端末から本部の指示が聞こえてくる。
「だとよ、ブラザー。撤退できそうか?」
「無理だな。まだ民間人は避難していない。俺の背中は預けたぜ、ブラザー!」
「まあ、そうなるよな。俺達は運命共同体だぜ!」
『ちょっと! 指示が聞こえたでしょ! 早く撤退して!』
再び無線から声が聞こえてくる。今度は指示ではなく、男隊員を心配する女性の声。だが、男達には撤退の二文字は存在しない。
既に敵に囲まれているため、逃げ場は自分達で切り開くしかないのだ。
「「うおおおおおお!」」
散っていった戦友達の血で染まったヘルメットを脱ぎ捨て、男達二人はモンスターの大軍へ向かって全力で走り出した。全く同じ顔、同じ声の二人だが武器だけは違った。
片方はアサルトライフルで弾丸の雨を…
もう片方は魔法の杖で炎の玉を降らせる。
「「今度こそは、守ってみせるっ!」」
○
絶望へのカウントダウンは、約五年前から始まった。
最初は温暖化。
冬という季節が消え、日本がいち早く気づいた。異常事態だと他国に叫ぶも、影響が日本のみだったため他国は問題視しなかった。
この時、北極の氷が全て溶けていたのだが、その事実は隠蔽されていた。
次第に海が荒れ、空が荒れた。温暖化が進み、世界各国が常に真夏日のような気候になった。問題解決のために重い腰を上げて国際会議を開くも、各国の首脳は責任逃れをするために他国を批判するだけ。
問題解決のために優秀な科学者達が集められたが、出身国の息がかかっていたのだろう。CO2だの大気汚染だの、無駄に長い論文を公開して自国の無実を証明しようとするだけ。なんの解決策にもならなかった。
そんな異常現象が続き、一年が経とうとした頃。
ついに、人類の駆除が始まった。
地球外生命体、宇宙人、怪物、化け物。様々な呼ばれ方をされたそれは、突然現れて一方的に人類を駆除し始めた。見た目はバッタやセミなどの昆虫によく似ていたが、人類の二倍くらいの大きさ。攻撃には酸を吐いてくるため出現すると大量の被害がでる。体液も酸のため、倒すと酸が飛び散るおまけつきだ。
人類は猫に追いつめられた鼠以下の存在だった。
しかし、やられてばかりではない。
政府は人類の生存をかけて地球規模の防衛軍を創設した。一次募集では福利厚生は悪いものの、熱意ある人々が数多く手をあげて入隊した。だが、怪物の生態や研究のためという無責任な指示により瞬く間に隊員達の命が散っていった。
その事実を揉み消して優勢だとホラを吹き、二次募集、三次募集をかけた。それでも隊員不足は解消せず、徐々に待遇を良くしていった。最後なんて給料が創設時の十倍の金額だ。
その金を使う場所なんて、もう殆どないというのに。
数多くの犠牲のお陰で徐々に怪物の生態が分かり始めた。
そして数年後、運命の日を迎える。人類は総人口の六割を失いながらも親玉と思われるドラゴンなどを倒しきった。巨大なファンタジー生物だったが、多くの犠牲のお陰でなんとか倒したのだ。俺達はあと少しで勝てるところまで怪物を追い込んだ。
あとは残党処理のみで、この時は勝利目前のお気楽ムードだった。
アイドルに憧れていた隊のマスコット的存在の女性は「三十代からでもアイドルになってみせるわ!」と決意して、愛用の猫耳ヘルメットを磨いていた。
入隊した頃は気弱で、銃もろくに扱えなかった大家族の五男の男性は「この戦いが終わったら、長男として両親に立派な墓を建てるんだ…」と、大型パイルバンカーの動作チェックをしていた。
だが、まるで人類をあざ笑うかのように…
突然それは地球の外からやってきた。
宇宙から巨大な船が現れたのだ。
まるで人類の希望の灯火を消すかのように太陽光が遮られ、地上は暗闇に包まれた。船からは人類によく似た宇宙人が降り立ち、武装していた銃器で人類の攻撃を始めた。絶望的な状況だったが、倒れていった仲間達の無念を晴らすかのように戦った。
そして…
ついに巨大な船が宇宙に帰っていったのだ。
人類の粘り勝ちだった。だが、人類に残されていたのは希望などではなかった。総人口の九割以上を失った人類は絶望した。見上げれば荒れた空、足元には酸に汚染された大地が広がる。かつては綺麗に整備されていた街には宇宙人や怪物達の残骸。とても住める状態ではなかった。
恐らく宇宙人達は、もう地球には住めないと考え帰っていったのだろう。
残されたのは風前の灯火だった。
しかし、絶望の中でも挫けないのが人類だ。科学者の一人が、宇宙人の残骸を解剖してテレポート装置を見つけた。銃弾で壊れていたが、他の宇宙人の体内から壊れていない装置が入手できた。
人類は宇宙人の基地、つまりは宇宙船に繋がっているのだと予想した。
その装置を使ったとしても、もう人類に未来はない。
人類は多くを失いすぎたのだ。せめて一矢報いたいと、とある男が散り散りになった隊員を探し出して防衛軍を再結成。この復讐の炎で一匹でも多くの宇宙人を駆除するために装備や戦力、残り少ない食料をかき集めた。
そして、人類の復讐の炎で宇宙人の基地を燃やし尽くすためにテレポート装置を起動した。テレポートをした後、人類は呆然とした。
なぜなら、そこにあったのは宇宙人の基地ではなく…
青い空に緑の大地。地球であって、地球ではない世界だった。
この世界は地球の地形と酷似しすぎている。まるで兄弟のように瓜二つなのだ。だが、科学や文化は地球の中世レベル。生活の中に魔法が存在している。魔物やドラゴンなどのファンタジー生物が人間と一緒に暮らしている。魔法があるため科学の発展が遅れたのだろう。
地球に酷似しているのは人間も同じだった。人類が失ったはずの家族や仲間、そして自分に似た人間まで住んでいた。趣味や趣向も全く同じ。最初はドッペルゲンガーかと思ったが、自分に会っても消えることはなかった。
むしろ趣味が同じなのだ。険悪な関係になるはずがない。まるで古くから知っている兄弟のように、出会ってすぐの晩に仲良く飲み明かした。
この隣人のようで隣人ではない人類が住む世界は、地球とは異なる平行世界の地球。
防衛軍は異世界「ネイアース」と呼称することにした。
まだこの世界は酸に汚染されていない。しかし、既に酸を吐くあの怪物どもは放たれた後だった。宇宙人の次のターゲットはここのようだ。このまま宇宙人を野放しにしていれば、この異世界も同じものを失ってしまう。
それを阻止すべく、復讐の炎を燃やしてネイアースを守ることを決意した。科学や技術を教えることを条件に、異世界の人類と協力関係になることにも成功した。
それが、異世界防衛軍…
宇宙人にくべてやる弾薬は十分だ。
この世界には魔法もある。
「宇宙人共を燃やし尽くせー!」
「「うおおおおお!」」
この
今度こそは、地球を守ってみせる!
「「NDF! NDF!」」
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