第5話

「え?藤野君?うん、ここに居るよ。此処?此処は……」

っと言い掛けた恭介から、美咲が背後から近付き携帯電話を奪う。

そして通話を切ると、恭介と美咲は再び見つめ合い何度目かの顔を見合わせて笑い合う。

そして美咲は笑顔を消して

「教授!なんで修治に場所を教えようとしているんですか!」

怒り出した美咲に、恭介は

「いや……ほら、片桐君が藤野君を探しているって言うから」

と苦笑いで答えながら携帯電話を奪い返す。

「だからって、今日は2人っきりのデートなのに何で教えるんですか!」

怒って叫ぶ美咲に

「だから、デートはしないと言ってるだろう!」

と、言い争いが始まってしまう。

すると、遠くからヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。

美咲がうんざりした顔をすると

「み〜さ〜き〜!」

っと叫びながら、ヘリコプターから下がった縄梯子に捕まった姿で片桐修治が現れる。

ド派手な登場に美咲が気を取られてる間に、恭介はそっとその場から離れた。

修治はカッコよく登場しようとしたが、ヘリコプターから飛び降りようとして縄梯子に足を絡めてズッコケて美咲の上に落ちて来た。

「痛い!ちょっと、何してんのよ!」

背中に乗っている修治に叫ぶと、修治は慌てて美咲の上から飛び退いた。

「ごめ〜ん、美咲」

ヘラヘラと笑う修治と呼ばれた青年は、小さな顔に癖のある薄茶色に染めた髪の毛。

狐目の細くて釣り上がった目をしているのに強面に見えないのは、お金持ちで可愛がられて育ったからなのか、人の良さが滲み出ているからなのかもしれない。

倒れている美咲に手を差し出して立たせると

「美咲、ゼミの課題どうすんだよ!今日、みんなで集まってやるって約束だっただろう?」

そう言われると、美咲は

「あ!そうだった!ごめん、忘れてた」

と修治に手を合わせて謝る。

「まぁ……そんな事だろうと思ってたけど……」

呆れた顔をする修治に

「で、課題はどうしたの?」

美咲がそう質問すると、修治は得意げに笑い

「終わらせたよ。で、ノートを届けに来たって訳」

と言って、鞄からノートを取り出した。

「修治、ありがとう!」

満面の笑顔を浮かべる美咲に、修治は微笑んで

「美咲の為なら、たとえ火の中水の中!」

そう叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る