7.カタカナ英語はとらえ方の解釈をキャラクターに押し付けるのに難儀します
7-1.なんでそんな縛りで「しりとり」させたんですか
No.4183無責任
No.4712アトラクション
No.2755千羽鶴
「千羽鶴送っとけばいいと思ってるよね?」
「ちょっと大げさだし。なんかちょっとずれてるよね」
「でも、送らないは送らないでいろいろ言われそうだしね」
「運がなかったと思うしかないよね」
「ねー」
1週間前の3月12日。ジェットコースターは飛んだ。もちろん本当に飛んだわけではない。比喩でしかない。でも、先頭に乗っていた私たちにとってそれは、飛んだといっても間違いではなかった。
頂上から降り始めていたジェットコースターは、先頭車両のタイヤがはずれ、緊急停止した。私たちは救出されるまでの20分間、地上60mの高さに命綱もなしに置き去りにされた。
「アトラクションスタッフだけのせいじゃないだろ!」「社長が謝罪しないようでは、経営者として無責任にもほどがある!」
これは、事件直後の街頭インタビューでの世論だ。
確かに、責任問題が大事なのはわかるけど。現に私は今ここで怪我をしているわけで。こういう被害者のことを全然考えてもくれず、バッシングだけしているメディアもメディアだ。
「怖かったですし、もうジェットコースターに乗れないかもしれません。でも、こうして鶴を送っていただきましたし、優待券もいただきました。傷が癒え切ることはないかもしれませんが、再発防止に努めていただき、2度と同じ思いをする人が出ないことを祈ります」
私の被害者としてのインタビュー。鶴や優待券の話はカットされ、私としてはとても不自然な、でも見ている人からすればとても自然な編集の技術によって、悲劇のヒロインを演じさせられた。
「今日は何して遊ぶ?」
「ババ抜き?7並べ?大富豪?スピード?」
「トランプは私出来ないよ?」
「でも、他はもう飽きたよ?」
「うーん」
隣のベッドを陣取るアカネ。一緒に遊びに行って、一緒に事故にあって。
「しりとりでもしよっか?」
「またー?」
「なんかこう縛ってさ。特殊ルールでやれば面白いでしょ!」
「うーん、じゃあそうしよっか」
隣に座っていたはずなのに、そのわずか10cmは地球とベテルギウスよりも遠い、天国と地獄で。
「じゃあ、10文字以上縛りね! 最初の文字決めていいよ!」
「ん-、まあ、しりとりの『り』にしようか」
「り、り、り。……んー。『凛として咲く花のごとく』」
「く、く、く。えーっとー、くー。……。んー。『クリスマスキャロルの頃には』」
「『は』? 『わ』?」
「どっちでも」
アカネの目はもう開くことはなくて。
「じゃあ『は』ね。はー。『半分の月がのぼる空』」
「『ら』!? えぐ。らー。らー。らー。え、やば。ない。ら。ら?」
「ギブアップ?」
「まだ!」
アカネの体は起き上がることもなくて。
「あ! 『ランゲルハンス細胞』」
「う?うー。……。『ウルトラバイオレット』」
「と。と。と。」
だから頭と口でしか遊ぶことはできない。
テレビに出ても大丈夫な体で喋れるからヒロインをやらされてて。
本当に起きている悲劇はアカネのもののはずで。
中途半端な怪我の私は、中途半端な哀れみしかもらえなくて。
私だって被害者なのに、私だけ置いてけぼり。
アカネだけずるい。
クラスのみんなはアカネばっかり心配して。
私だってもっと心配してほしい。
だから私は――
「『隣の芝生は青い』」
アカネを殺した。
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