1-2.環状線なんて高速か鉄道くらいしかなくないですか?

No.2235苦笑

No.2153環状線

No.9375ツングースカ大爆発



「なあ、いつまでこれ乗ってるん?」

「まだ、もー、あと、ちょっと」

「たぶん3周くらい前からそれ言うとるで」

「あー、うん」

「はあ」




「なあ」

「ん?」

「そろそろ教えてや。何が分かるん?」

「何が?」

「山手線を何周もして。何が『一番近い環状線は何や?』やねん。何がしたいねん」

「まだそんなことにこだわっとんのか」

「まだも何も、俺ずっと『後で説明するから』だけで投げられてんねやけど」

「はあ、耳の穴かっぽじってよー聞きや」

「お、おん」

「俺は世界で最強の宇宙物理学者やんな?」

「は?」

「その俺が『宇宙一』やのうて『世界一』でとどまっとるには理由がある。分かるか?」

「いや、ぜんぜん」

「そんなもんも分からんと俺の助手やっとったんか」

「いや、助手でもねえし」

「いいか、ワトソン君?」

「俺がワトソンなら、お前はホームズやけどな?」

「ほら見い! ワトソンといえばホームズというその短絡的思考が良くない!」

「じゃあ何やねん」

「ワトソンの相方なら、クリックとかおるやろ?」

「だれやっけ、それ」

「DNA2重らせんの奴や」

「あー」

「というわけで、もっと広い思考を――」

「じゃなくて! なんで世界一やねん」

「ああ、そうやったわ。俺がたかが『世界一』の理由。それは、隕石を持ってないことや」

「は?」

「隕石の一つも持たんで宇宙一の宇宙物理学者を名乗るバカがどこにおんねん!」

「なるほど?」

「つまり俺は『隕石を手に入れる方法』を考えとるわけや」

「はあ」

「……」

「で、だからどうやねん」

「何が?」

「なんでこうも山手線をぐるぐる回っとんねん」

「ここまで聞いてもまだ分からんとは。ワトソンもあきれるで」

「……」

「思考の渦や」

「しこうの、うず?」

「そうや。思考の渦や。ええか。人間一人が考えれることなんてたかが知れとるわ」

「はあ」

「でな、環状線に乗りながら思考すれば、その思考結果は求心力によって中心に集まるやろ?」

「は?」

「やから、もう少し考えたら、山手線の中心に行くで。麹町中学校な」

「はあ」




「やっぱり日本じゃ狭すぎる。もっと広大な土地を旅するしかないんか? 単純に日本に隕石が落ちてくる確率が低すぎる」

「あのさ」

「それ考えれば一番面積広いロシアか? ツングースカ大爆発の件もあるし……」

「おい!」

「ん? なんやねん、今集中しとんねん」

「今考えとってんけどさ」

「ん?」

「もしホンマに思考が渦の中心に行くとするとさ」

「お? おお」

「山手線の中心やのうて、地球の中心に行くんとちゃうか? 地球自体が自転してんねやろ? で、もっと言うと太陽系の中心の太陽に行くんとちゃうか? さらに言えば、太陽系が回る銀河系の――」

「そうか! なんやさすがワトソン君やな! 行くで!」

「は? 麹町中学校か?」

「そないなところ行ってどないすんねん! JAXAや! 俺は宇宙飛行士になるで!」

「ってことはどこに行くんや?」

「えーっと、待てやー」

「JAXAの場所も知らんと宇宙物理学者名乗っとんのかい」

「あ、あった。神田? いや、お茶の水? 秋葉原でええな!」

「はいはい。秋葉原な」

「なんや楽しみなんかいな!」

「なんでよ」

「めっちゃ笑うてるで」

「これが笑顔に見えるなら重傷やで」

「じゃあなんよ」


『次はー新宿ー新宿ー』


「よっしゃ! グッドタイミング! 総武線行くで!」

「苦笑いを説明する暇もねえな」

「はよせんかい! 隕石は目の前やで!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る