第27話 好きな人からの呼び出し
(坂巻のやつ、ひょっとして、気づいてる……?)
怪しい。すげー怪しい。
眼鏡の奥から訝しげな眼差しを向けていると、背後から声をかけられる。
「あの、真壁くん。ちょっといい?」
凛と澄んだ声音に、坂巻に負けず劣らずキョドり散らかす。
「ふえっ!? はい!? 加賀美さん!?」
振り向くと、ノートを手にした加賀美さんが立っていた。体育のあとなのに、汗の気配を微塵も感じさせない爽やかと麗しさ。
学級委員である加賀美さんは、体育祭の出場種目について、取りまとめの為に生徒達に聞いて回っているらしかった。
「真壁くん。体育祭の希望種目について、聞いてもいい?」
呼吸を整え、至って冷静な対応を努める。
「ああ、ごめん。俺は体育祭、見学で」
「え? 出ないの?」
「この目だからね。球技は危険だし、足だって速くない。クラス対抗戦なのに、出場して皆に迷惑かけるわけにもいかないでしょ?」
あとは何より、運動が苦手だ。
無様な姿を晒すくらいなら、グラマラスな保健室の先生と日陰でお茶を飲んでいたい。
「保健室の先生から、許可は出てるよ。眼鏡が割れたときに責任が取れないし、家庭にも各々事情があるから、コンタクトの購入を強要するわけにもいかない。それに、元々貧血体質だから、激しい運動は避けた方がいいんだ」
ちなみにバイトは問題ない。
立ち仕事ではあるが、継続して走ったり、炎天下で過ごすことはないからな。
体質も、貧血気味ではあるが、そこまで病的なアレではないから安心してくれ。
ただ、俺が保健室の先生とそこそこ仲良しで、彼女は理解のある先生、というだけだ。だから(ほぼ贔屓みたいな)許可がおりた。
コンタクトについては、ほぼ言い訳。
だが、先日どこぞの教育委員会で「体育の授業の為にコンタクトを買うよう学校に強要された事に対して、保護者が訴えた問題」が取り上げられから、教師陣はノーコメント。触らぬ神に祟りなし状態だから、助かる。
「でも、せっかくの体育祭なのに……」
運動が得意な人には『せっかくの』だが、苦手な人には『憎き』なんだよ、加賀美さん。ごめんね。
学級委員として、皆で体育祭を楽しみたい、盛り上げたい想いがあるのだろう。加賀美さんはしょんもりと俯き、胸元にノートを抱きしめた。
申し訳ない。でも、ほんと、体育だけはダメなんだ。ごめんよ。
しかし、加賀美さんは何を思ったか顔をあげて、
「……わかったわ。そうだ。これとは別件で、真壁くんに個人的にお話ししたいことがあるんだけど。休み時間に、ふたりきりで、時間をもらえないかしら?」
「……へ?」
個人的。ふたりきり。……時間。
思考が一瞬とまる。
だって、傍目に見れば、「ワンチャン告白されるのでは?」みたいなシチュエーションだ。
「えっ。アッ、エッ? 加賀美さん……?」
やばい。震える。ちーかわみたいに震えちゃう。
「お昼休み、屋上。来てくれる?」
「あっ。う、うん……」
愛らしく小首を傾げるその問いに、俺は肩をびくつかせながら頷く。
たまたま隣で聞いていた坂巻は、なぜか、むぅ、と頬を膨らませたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます