第19話 出陣

 日曜、快晴。

 いざ出陣。


 待ち合わせていた改札に着くと、オーバーサイズのTシャツにゆるめのデニム、その上にジャケットを羽織った彼が立っていた。


 元から細身だなぁとは思っていたけど、耳にイヤホンをして、猫背気味にスマホを弄る立ち姿がダウナー系イケメン! って感じ! 


 なんかのアーティストっぽいよぉ。カッコいいよぉ。どうしよう。


 あー、ヤバ、ヤバ。朝から(もう昼過ぎか)テンションがヤバい。

 ちなみに心臓もバクバクしてて緊張と手汗もヤバい。


 思わずスマホを落っことすと、カツーン! と響いた音に気がついて彼が顔をあげた。


「あ。おはよう、坂巻……さん」


「あ、うん。オハヨウ……」


 もう昼過ぎだけど。


 夜型なのかな?

 見た目どおりだ! は〜、しゅてきぃ!


「スマホ、落としたよ。はい」


「あ、ありがとう……」


(拾ってくれた……!)


 受け取る際に手が触れそうになる。

 震えてるのがバレたら引かれるかな?


 彼はスマホの端っこを摘むように持っていたから、手が触れるのはギリで避けられた。

 緊張しすぎなのはバレなかったけど、安心したような、ちょっと残念なような。


「い、行こっか」


「うん」


 先導するように歩き出すと、彼は人混みを避けながらついてきてくれた。

 隣に並ばれると、お店で見るより背が高く感じる。

 アイスをよそってくれる指先、白くて細くてキレイだなぁ。いつも、ついつい見惚れちゃうんだよね。


 それが、今日はすぐ傍でぷらぷらしてて。


(手、繋ぎたいなぁ……)


「どうかした?」


「なっ、なんでもないヨっ!」


 やばい、焦った。


 無意識に出かかった手を引っ込めて、早速ジェラート屋さんに向かう。


『いつ何処に行くかは、任せるよ。坂巻さんの行きたいところに行きたいな』


 って。さらっとふわっと笑う。


 優しすぎか? マジ惚れた。いや、惚れ直したっ。


 接客をしていない時のゆきくんは、案外無口な方らしく、道中会話っぽい会話はした気がしない。けど、休日に彼とデートしてる! って実感がひしひしと込み上げてきてる今、話したらきっと声が震えちゃうから、それはそれで助かった。


 お昼過ぎだけど、おやつにするには早めの時間。狙いどおり、ジェラート屋さんはあまり混んでいなかった。


 各々、思い思いのジェラートと飲み物を注文して、席に着く。


 このジェラート屋さんはカフェも注文できるし、イートインもできるけど、基本的にはテイクアウトメインのお店だから、席はそこまで広くない。


 小さくて少し背の高めな丸いテーブルと、椅子が二脚。そんな(言ったら失礼だけど)お粗末な座席がぽつぽつと、お洒落な観葉植物に混じって店内に散らばっている。


 私は、艶があって見るからに濃厚そうなチョコレートと、ヘーゼルナッツを注文した。一方で彼は、薄緑が鮮やかなピスタチオと、スタンダードなミルク。

 どれも美味しそうで目移りしちゃうし、大好きなアイスに囲まれて、ずっと選んでいたいくらい幸せな空間だけど、胸中ではそれどころじゃなかった。


 だって、アイスを選ぶ彼の表情が、普段見ることのないような真剣そのものな眼差しだったから。

 ああ、そういう顔もカッコいいなぁ、なんて思ってたらさ、出来上がったジェラートを渡されて、ほんのり目元を緩めたの! 嬉しそうに。


 『わ。美味しそう』


 って。顔に書いてあった!


 死んだかと思った。


 これがオタクの人が言う、萌え? ってヤツか?

 そのギャップに、あたしは撃ち抜かれて死んだ。


 彼に撃ち抜かれて死んだのは、これで二度目だ。


 コーン越しに、手の熱でどんどん溶けていくジェラートをほったらかしにして、つい思い出してしまう。


 あたしが惚れたあの日も、彼は同じ表情をしていた。

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