アイスクリーム屋でバイトはじめたら、好きでもないクラスメイトにくそモテる

南川 佐久

第一部 アイス屋でバイトはじめたら何故かクソモテる

第1話 アイス屋でバイトはじめたら何故かクソモテる

「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか? こちらでお伺いいたしまーす」


 柄でもない笑みを張り付けて声をツートーンあげる。


 ここは自宅と高校の最寄り駅のアイス屋。季節ごとに31種のフレーバーが楽しめるアイスクリームチェーンの一店舗だ。

 沿線のどの学校も夏服に替わり始めるこの季節、店内は色とりどりのアイスが並ぶウィンドウにきゃいきゃいと騒ぐ女子高生でごった返していた。中には俺の通う高校の、見知った顔もいる。

 できるだけ目を合わせないように制服のキャップを目深にかぶり、俺は笑みを浮かべた。


「スモールダブル、コーンでお間違いございませんか?」


 同じクラスの前後席だというのに、まったく気づく素振りもなくベージュの巻髪を揺らしたギャルが返事する。


「はぁ~い! えっとぉ、味はぁ……ホッピングシャワァー……いや。やっぱ今日はキャラメリリボンと、サンセットサァフィンで」


 にこにこと、元気のいい注文だ。いくら店長の方針で名札を付けていないとはいえ、マジで気づいてないっぽい。


 悩んだ挙句に季節限定フレーバーを選んだのは良いチョイスだと言ってやろう。しかし、キャラメリリボンでなくてホッピングシャワァをクビにしたのはいただけない。何故なら、ホッピングシャワァは俺の一番な味だからだ。

 一口食べればパチパチと、謎の粒が舌の上でホッピングするあの喜びを理解できないとは。明るい髪を脳天でホッピングさせているギャルの名が泣くぞ?


 とはいえ、そんな感情をおくびにも出さず、俺は目の前のギャル――

 クラスメイトの坂巻綾乃さかまきあやのにコーンの中身を見せた。


「キャラメリリボンとサンセットサァフィン、こちらでお間違いはございませんでしょうか?」


「はい!」


「では、あちらのレジでお会計をお伺いいたします」


「はぁ~い!」


 むむむ、と頬を膨らませてどの味にしようか悩む様子、目の前のアイスに目を輝かせて元気な返事を返す様は、クラスではついぞ見ることのないであろう無邪気なものだ。

 いつもはツン、と気取ったふりをして、やれ「大人っぽくて年上の彼氏が欲しい」だの「クラスの男子はガキくさい」などと偉そうに宣っているくせに、今のお前は幼稚園児のようなあどけなさだよ、坂巻。


 しかも、そんなキラキラの笑みを毎日のように、お前の嫌いな『キモオタ眼鏡』に披露しているだなんて、夢にも思ってないんだろうな。ここのところ毎日だ、毎日。

 学校のある週五日。放課後、友人を連れたり一人で来たり、毎日欠かさずに来ている。どんだけアイス好きなんだよ。

 まぁ、その五日間毎日シフトに入ってる俺も、どんだけバイト好きなんだって話だけど。


 アイスクリーム屋なんて、陰キャの俺には縁遠い世界……そう思っていたはずなのに。いざ高校生になってバイトを始めようと思ったら、大学二年の従姉妹に声をかけられたのだ。


『ゆっきぃ、春から高校生でしょ? バイト解禁なんだよね?』


『え? まぁ、バイトは校則で禁止されたりしてないし、金も欲しいからなにかしらする予定ではあるけど……』


 母方の親戚で近所に住んでいるせいで、幼い頃から従姉妹の望月六美むつみ――通称、むつねぇとは仲が良い。大きくなった今でも、名前の幸村ゆきむらを、略してゆっきぃと呼ばれる程度の親しさだ。

 ご近所でも有名な黒髪美人のむつ姉は、俺の自慢の従姉……だが、俺が猫背な陰キャ眼鏡のせいで、友人の誰に言っても俺たちが従姉弟同士だとは信じてもらえない。


 そんなむつ姉におっぱい押し付けられながら頼まれたら、断れなかったんだ。


『今年、四年生の先輩が沢山卒業しちゃって! 人手足りてないの! お願い! お~ね~が~い~!!』


 そんなこんなで、元から小遣い欲しさにバイトする予定だった俺は、もはや顔パス状態でバイトを始めることとなったわけで……


 目の前の坂巻から差し出されたスマホに、レジスキャナーをかざす。


『ペイペイッ』


 支払いが終わり、俺は坂巻にアイスクリームをそっと手渡した。


「こちら、ホッピングシャワァのワンスプーンサービスでございます。ごゆっくりどうぞ」


 にこりとアイスを差し出すと、坂巻は大きな瞳を爛々と輝かせた。


「わぁ~ホッピングシャワァー! 丁度迷ってたやつだぁ! お兄さん、あたしが悩んでたの見てたんですかぁ!?」


 やめろ。店員に話かけるな、後ろが詰まるだろ!


「よかったね、綾乃」


 隣で、普段から坂巻とつるんでいるギャルその2の河野こうのも笑みを漏らした。片や俺は、早くレジ前から去ってくれないかな、という思いを押し殺す。

 いつまでもこうしてダべられると困るし、なにより話しかけられて、俺がクラスメイトの真壁まかべ幸村だと身バレしたくない。


「マジ嬉しい~! お兄さん優しい~!」


 にこにこと無言なスマイルの裏で、俺は思う。


 うるせぇな。ワンスプーンのサービスは接客オペレーションで決められたサービス内容だし、俺が優しいわけじゃない。


 味がホッピングシャワァなのも偶然だ。だって、俺はいつだって誰にだってホッピングシャワァを推すから。明日も明後日も明々後日も、お前のアイスにホッピングシャワァを乗せてやる。


「ごゆっくりどうぞ」


 内心とは正反対の台詞を吐く俺に、坂巻はきょとんと問いかけた。


「つかお兄さん……よく見るとイケメンじゃね?」


「イケメンなのに優しいとか神~。こりゃあ通うしかないねぇ~」


 坂巻の発言を適当に流しながら、呑気にアイスを舐める河野は、言われなくとも坂巻がここに通い詰めているとは知らないようだ。

 だが。坂巻は割とガチで頷いた。

 恥ずかしそうに、頬をほんのり染めて。アイスで口元を隠すように呟く。


「えっと、その……明日も来ていいですか……?」


 言われなくとも、昨日も一昨日も来てただろーが。


 俺は、営業スマイルを崩すことなく頷いた。


「是非、お待ちしております」


 その、マニュアル通りとも思える一言に、きゃいきゃいと黄色い声をあげてふたりは去っていった。


 俺は内心で深いため息を吐く。


 あいつら……マジで気づいてないんだな……



久しぶりの新作、毎日更新を心がけています。

久しぶりすぎて感触がいまいちわからないので、

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